◇好奇心は猫を殺すか
大丈夫、死人は出ませんよー。
アレな展開ですが、何のこたぁ無い。
最初にちょろっとだけ主人公視点から外れます。
「っだー…やってらんねぇ」
「文句は後だ、さっさと回るぞ」
霧の流れる夜道にカンテラの光が二つ。
「お前は良いだろうけど、オレは苦手なんだよっ!」
「幽霊がか?」
「湿気がだよっ!」
キャンキャン喚いているのは猫…もとい、首から上が猫そのものの獣人男性。
方や、狼の頭をした獣人男性は答えを返しながら黙々と歩く。
「仕方ないだろう、路銀が微妙なんだからな。墓を見回るだけの簡単な仕事なんだ、さっさと行くぞ」
二人が踏み入ったのは街の墓地、墓地を一周見回って入り口と奥にある墓守り小屋の常夜灯に火を灯す事が今回の彼らの仕事だが…。
「ああ、くそっ…ん?何かあっちの方、ちらつかなかったか?」
「大方ソウルだろう、たまに出るらしいからな。相手にするなよ」
「わかってる」
入り口の常夜灯に灯りを灯すと、最奥の墓守り小屋を目指す。
やや遠い所で、今度は確かに薄青い灯りが揺れた。
「ソウルが居るな…戻ったら報告ぐらいはするか」
「げー…奥まで走っちゃ駄目か?」
「知らん振りして普通に歩け、追って来られるぞ……!?」
「あ?どうし…なっ、まさか……」
ゆらっと現れる半透明の影、夜の闇とはまた違う黒さの……。
「レイスだ…!」
「ちっ…面倒なのが!」 咄嗟に抜いた短剣で斬りつけても手応えらしきものは無く、思わず舌打ちをした。
「何処行きやがったよ……」
「……左だ!」
「おう!…って、そっちの右!」
「何!?…後ろにもいるぞ!」
「一匹じゃねぇのか…って、ちょ、おいっ!?」
「囲まれてるだと…!?」
「な、何だよ、この数っ!うわっ…うわわっ……!?」
「何かいい仕事あるかねぇー…」
あれから十日弱、何度かパーティーでの依頼もこなして大体の自分の役割も掴めて来た今日この頃…皆様如何お過ごしでしょうか?私は前衛気味な中衛兼索敵レーダーとして活躍中…っていうか八割レーダー。
確かに『森の加護』は便利だけどねっ!気配察知系のスキルはシーフ職でも身に付く筈なんだけど!?そこら辺どうなのよ、カリナ?
「あ、そちらヒーラーの方ですよね?少々宜しいでしょうか?」
微妙に黄昏つつギルドの入り口をくぐると、珍しくも受け付け嬢から声を掛けられた…フィーリーが。
「あ…はっ、はい!あの…私に何かご用ですか?」
おっかなびっくりカウンターに進み出たフィーリーの前に、ぴらっと一枚の依頼書。
「現在、緊急の依頼で『解呪』の出来るヒーラーの方を探しております。ヒーラーの方で間違いありませんか?」
「はい。でも、私…解呪は出来ないんです」
「左様ですか」
そのまま再度しまい込まれようとした依頼書に咄嗟にストップをかける…結構良いお値段なのに勿体無い!
「ヒーラーじゃ無いけど解呪出来るよ?」
「…確か、魔法剣士でご登録でしたよね?」
「そうだけど、ひょっとして魔法剣士って剣士メインの扱い?」
「一般的に、剣と魔法を併用する剣士の方との認識かと」
間違って無いけど、どっちかと言うと見た目には魔法主体なんだけど…っと、そうじゃなくて!
「一応、剣及び魔法はオールマイティーって場合はどうなるの?」
「…騎士、が最も近いかと思われますが、お勧めはしません」
…はい?騎士で登録すると貴族若しくは何らかの役職持ちと見做される?そんな暗黙の了解聞いてないんですが…!?
っていうか、素直に『精霊騎士』で登録しなかったあの時の自分、ぐっじょぶ…!
「ともかく…今回は条件が『ヒーラー限定』となっておりますので、お受けになりたければ直接依頼主と交渉して下さい」
結局ギルドで依頼は受けられず、依頼書の写しを貰って依頼主の元に交渉に出向く事になりましたとさ。
懐具合に余裕はあるからと、興味を惹かれたらしいゼン達も同行中。
「依頼主誰なんだ?」
「んー…街長さん?」
先日の奥さんの例もあるし、身内が呪われたのかな?
街長さんのお屋敷に出向いて要件を伝えれば…あっさりと街長さんに面会できて拍子抜けしたり。
「いや、悪かったね。別に解呪が出来るならヒーラーで無くても構わなかったんだけどね」
…うん、事情を話したら交渉する必要は無くてあっさり承諾とか…何かね……。
「街の仕事請をけ負っていた冒険者が今朝方墓場で倒れててねぇ…医者に運び込んだら呪われてると言われて。いやぁ、大慌てでギルドに駆け込んだよ」
その時に「解呪の出来るヒーラーを」と言ったら、ヒーラー限定の依頼になってしまったらしいと言う事…街長さん、慌てすぎ。
「実際、解呪出来るなら誰でも良かったんだけどねぇ。ギルドには後で予定通りの報酬を出すよう伝えておくからね」
…まあ、きちんと報酬出るなら何よりだけど。
そんな街長さんに付いて冒険者を放り込んだと言う医者まで案内される道すがら、一応事の詳細を聞いておく事に。
「今、街の共同墓地に墓守りが居なくてね。普段は代理で神殿の神官殿に夜の見回りをして貰っていたんだけどねぇ…」
数日前から神官殿が用事で不在、代わりに冒険者を雇って見回りを頼んだものの、昨夜は貸し出しのカンテラを取りに来たきりで戻って来ず…朝、確認に行くと二人が倒れていたんだとか。
「呪われるって事は…レイスに襲われたんだよね?」
「だろうなぁ…墓地だしな」
「この辺りってけっこうレイス出るものなのかな?」
「そんな事にならないよう、管理しているのだよ。ソウルはまだしも、せいぜい年に一匹二匹くらいだね」
その割にこの前の奥さんといい、二度目なんだけど…レイスの『呪い』受ける割合ってそんなに高いものじゃなかったはずよね?
「二人とも意識が無いからね、まずは治して貰わないと詳しい状況も聞けなくてねぇ」
「大丈夫か、そのお二人サン……」
ま、前例もあることだし、昨日の今日で命の危険は無いと思うけど?
「この二人なんだよ」
案内された病院の一室にてゼーゼー言ってる獣人さんが二人…。おやおや、ゲーム内では比較的人気の無かったアニマルヘッドの人が初遭遇の獣人さんとは…なかなか感慨深いものが。
「ネコちゃんにワンちゃんだね」
「「ぶっ……!」」
…窘められるどころか噴き出したよ、ゼンと街長さん。
他意はないのよ?あんまりにもスタンダードな犬科と猫科にちょっと感動しただけで。
「この二人治せば良いんですよね?」
「あ、ああっ…頼むよ」 まだ若干笑いの収まらない街長さんも頷き、先ずはステータス確認…っと。
「…あれ?『疲労』も付いてるし……」
「『疲労』?なんだそりゃ?」
あれー…?『疲労』って一般的じゃ無いの?
ドレイン系の攻撃に良く付加されるんだけど…まあ、通常は放置すれば治る状態異常ではあるけどね。
「えー…吸われる系の攻撃食らった時にたまにかかって…一定時間、能力二割減……」
良く考えれば能力二割減とか、詳細ステータス見れるゲーム内じゃないとわかんないよね!どう説明したものだか……。
「あー…ああ!アレか!アンデットやらに攻撃されると暫くダルくなるヤツ!」
「多分…ソレ?」
ああ…ダルくなるんだ、それもなかなか嫌だわ。
「うーん、【スピリチュアル・キュア】だけだと『疲労』までは治らないし、『疲労』も治すとなると……四回とか面倒」
【スピリチュアル・キュア】は呪いも含めた精神系の状態異常全般に効くもの、対して『疲労』は物理系の状態異常…。
「なぁ、『疲労』がアレなら放っときゃ治るんもんなんじゃねぇのか?」
「『疲労』だけならね。だけど実際問題、今治ってないよね?」
「……そういやそうだな」
「…あ!『自然回復阻害』ですね!」
「当たり」
フィーリーが知ってるって事は、コレはヒーラー的には常識の範囲内っぽい。
『呪い』のもう一つ効果で通常は一定時間で自然回復する状態異常が回復しなくなる『自然回復阻害』っていうのがあるんだけど、今回『疲労』が残りっぱなしなのはこのせい。
「ふむ…解呪すればその内『疲労』は治るけど、今は早く事情聞きたいよねー…」
…ま、精神系状態異常も物理系状態異常も綺麗サッパリ治せる回復魔法は当然持ってますけどね?別にこの程度なら出し惜しむようなものでも無いし。
「じゃあ…あ、何か演出要る?」
「演出って、お前…早く治してやれよ」
「何か演出を加えると良い事があるのかな?」
あらま、まだ余裕があるせいか街長さんの方が食いついて来たよ。
「効果は変わりませんけど、有り難みが増すくらいは多分」
「それならば是非とも!」
うっわ…超いい笑顔……。自分で振った事ながら、そこまで期待されるのも……。
「いやぁ、麗しいエルフ殿の施す癒し、どうせならより神秘的に体験をしたいからね!」
ああ、ゼン達ドン引き…まあ、それくらいならサービスするけど?
「じゃあ、ま、癒しますか」
二人の寝ているベッドの間に立って、軽く両手を広げる…演出、演出。
「治癒の女神ファナケスの加護願い奉る…【ファナケス・ブレス】!」
あえて必要のない呪文を唱えている間にチャージは完了、魔法が即時発動…本当はチャージ完了後に呪文唱えて発動だからおかしいんだけど、これも演出、ね?…ロズは気付いたっぽいけど。
「おぉ……!」
私を中心に白い羽と青い光の粒子が舞い上がり、渦巻きながら部屋一杯に広がって行く…やっぱり廚二なエフェクトは健在かぁ……。
「…はい、治療お終いっと」
範囲内全状態異常治癒の魔法だからね、これで治ってなきゃ私の手には負えませんよー。
「ふうっ………」
「……え?」
今、フラッて……。
「ちょっと!フィーリー!?」
「おぃぃ!?」
何でそこでフィーリーが倒れるのーー!?




