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◇何時もの光景

 

「あ、久しぶりー」

「おう、リンじゃねえか。アップデート終わっても来ねえから、何かあったかと思ったぜ?」

 かれこれ10日ぶりになるのだろうか、何時ものギルドを訪れてみれば人影のまばらな待合いスペースにだらけきった様子の知り合いの顔が。

「疲れきってるねぇ、クエ終わったばっか?」

「いや…リアル残業週間明けだ」

「…ちょっと、ログインしてる場合じゃないでしょうに。帰って寝れば?」

「睡眠より癒やしが欲しいんだ……」

 そう言っていっそうダラリと机に突っ伏した彼は、このゲームがまだβだった時からの付き合いで所謂古参プレイヤー仲間の一人だったりする。

 ちなみに見た目は老け顔のオーガ族のおじさん…もとい青年は、中身の人も今年三十路の体育会系営業マンだからあまり誤差は無い。

「で、何で来なかったよ?」

「単にオフ消化してただけだって」

「んあ?今回オフもアップされてたんだったか?」

「いや、アップデートかかったら毎回オフも多少なりとも変わるからね?情報チェックしときなさいってば」

「あー…オフはあんま気にしてねえな。何か良さそうなのあったか?」

 のそりと体を起こして聞いてきたが、内容を思い返すに良いかと言われると今回は微妙な所。

「今回のメインはユーザー公募魔法の二位と三位の取得のだから…そっち的にはあまり意味無いかもね?」

「確かに、使えねぇ魔法を覚えてもなぁ…」

 このゲーム、魔法を覚えるだけなら種族や職業に関係無く可能なのだけれど、魔法もスキルも対応したステータスが規定値を満たさないと使用可能にならない。さしあたり魔法なら知力と魔力なのだが、オーガ族はこの二つが極端に低い為にレベル的には問題無く上級者な彼でもステータスの残念さがネックになってちょっとした中級の魔法ですら使えない。

「ま、前衛特化オーガの宿命だな」

「オーガでもシャーマン職はあるけどね」

 格好良く決めようと思ったらしい彼をバッサリと切り捨てて、私はギルドの受け付けカウンターの方へ。 NPC受け付け嬢のお決まりの台詞を流して、表れたクエスト一覧ウィンドウのページを捲った。

「おっ、何かクエ受けるのか?パーティー組むか?」

「いや、ソロで行くつもり。ここに追加されたのに弟の自信作があるって言ってたから先ずはそれに行こうかなって思って」

 周知の事実ながら一応は開発者の身内だったりするのだけれど、これといった恩恵が無いどころか知ったら引かれる始末…何かしたのは弟なのに。

「お前の弟の…新作、だと?」

 男前の顔が引きつる…まあ、以前の力作をやっていればその反応も仕方ないけれど。

 彼の顔が引きつった原因、それこそが私が身内だと言うとドン退かれる原因でもある。

「件のお化け屋敷以来だよね確か、うちの弟の新作は」

「ああ…あんなのもう勘弁だぜ。アレ、リタイア続出したろ?って言うか、マジ泣きするようなプレイヤー出してんのにまだあのクエ残ってんのかよ?」

「残ってる、残ってる、超現役よ?今でもぼちぼちクレームあるって言ってたかな」

 通称が『お化け屋敷』な辺りで内容は察して欲しい、正式名称は『嘆きと悔恨の館』といいこのゲーム中で最悪と言われたクエストだ。

 基準レベルから外れた敵が居る訳でもなくボスすらいない単にダンジョン内の敵を殲滅するだけの簡単な内容なのだが、じゃあ何が最悪なのかと言うと全ては無駄に恐怖を煽る演出と絶妙なエンカウントのタイミングに尽きるかと。

「いや、普通にアウトだろ、クレーム来る時点で」

「内容自体は適正だし、怖いからってクレーム出されてもねぇ…だってさ」

「やっぱりタチわりぃぜ、運営……」

 額に手を当てて溜め息をつく彼を横目に、newマークの付くクエストの中に目的のクエストを見つけた。

「あった、『想いは霧に消え』かぁ…うん、タイトルは普通」

「ああソレか、俺もまだやってねえヤツだな。タイトルだけなら、探偵物とかミステリー系っぽいな」

 ざっと内容に目を通してクエストを受注してから、ふと彼がずっと一人な事に違和感を感じて聞いてみた。

「そういえば、メイメイは?」

 いつも彼とパーティーを組んでいるはずの獣人のネコミミ少女が見当たらない。

「お?ギルド来る途中に見なかったか?露天で絶賛値引き交渉中だと思ったが」

「それらしい人だかりはなかったけど…」

「じゃあ、何処かの店に買い物に入ったのかもな。戻って来たらリンが来た事は伝えとくぜ」

「お願い、私は先にクエに出るから」

「パーティー組んだ方が良さそうなら声かけてくれ、むしろ俺的に切実にそっち希望」「何言ってんの、パーティー推奨でもない中級クエでそうそうリタイアなんかしないし」

 ぐっと握り拳でこっちを見る彼に軽く溜め息、元々ソロ専でやって行く為に習得しまくった私のスキル群なら大抵の事に対処可能なのだし。

「ちっ、このなんちゃってスキルマスターめ」

「まぁ、その分レベルは伸び悩んでるんだからどっもどっちとは思うんだけどねー」

 一応ゲーム内には職業が存在し、職業に応じたスキルを習得していくので数を習得するためには職業もそれなりの種類経験する必要がある。種族固有のステータス差に比べれば転職による能力値の上下など微々たる物なので、転職を繰り返すデメリットは殆ど無いと言ってもいいのだが職業をマスターした状態だと経験値にボーナスが付くので中級者以上のレベル帯までなって転職を繰り返しているとどうしても職業を固定している場合と比べるとレベル的には劣る状態になってしまう。

 まあ、段違いに強力なスキルの手に入る上級職もあるので、どのタイミングで転職するかは悩みどころなのだけれど。

「良いじゃないか、俺らなんか未だに回復アイテム様々だ」

「前衛特化一点張り二人でパーティー組んでたら仕方ないでしょ」 オーガ族も獣人もステータス異常の耐性が低く、彼らの場合は混乱して相討ちしたら余裕で詰むぐらいの馬鹿火力なので笑えなかったり。

「さてと、私は行くからお後宜しくー」

「おう、手ぐすね引いて待っててやるよ」

「ナニソレ、二周目させる気満々?」

 何処までもオチの無い雑談を終わらせて、ギルドを出て村の出口へ。

 目的地は近くの『ミルキーフォレスト』という山の中腹、名前の通り年中深い霧に包まれている鬱蒼とした原生林という設定の場所。

 

 

 あ、因みに私、リンこと『リーン』はエルフの男性ですよー。

 お気づきだとは思いますが…中身はオンナノコ、えぇ、所謂ネナベです。以前に一身上の都合により中身がバレて以来、言葉遣いとか取り繕うの止めたらヅカ呼ばわりです。最近は「お姉様」と呼んでくれる子達が増えた気がします……。

 外見はほぼデフォのエルフ男性アバターなんですが……。

 

 

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