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第三章・2

―2―


「へえ、高校時代の西山さんの部活の後輩だったんですか」


 病院の正面にある、駅前などでもよくチェーン展開している喫茶店。常磐たちはそこで一つのテーブルについた。西山と早苗が並んで座る正面に、鈴と常磐が座る。


「家も同じマンションの上下だったしね。先輩後輩っていうより、親戚みたいな感じだったわね。私が家出るまでは、一緒にご飯食べにもよく行ってたし」


 西山は注文したショートケーキの苺に、まずフォークを刺す。


「星野、高校でもテニス続けてたんだ」


 鈴は熱いレモンティに息をかけて冷ましていた。


「うん。でも、全然下手くそのままだったんだけど。西山先輩はみんなの憧れ」


 早苗はアイスコーヒーの氷をストローで弄びながら言った。

 確かに西山は運動神経もいいし、面倒見もいい。さぞかし後輩たちから人気があっただろうということは、常磐にも容易に想像ができた。

 西山のスコート姿を想像するのは非常に難しいのだが……。


「それよりも! 鈴君と早苗が中学の同級生なんてねぇ。 なんだか運命の再会って感じじゃない? ……何よ常磐、何か言いたそうな顔して」


 はしゃいだように言った西山が、微妙な顔つきの常磐に気づく。


「いえ、西山さんって、意外と乙女チックな所ありますよね」

「乙女に向かって意外とは何、意外とは」

「……すみませんでした」


 西山と常磐のやり取りに、早苗がくすくすと笑う。

 鈴は今、三十歳だから、早苗も三十歳ということになる。太っているというわけではなく、程よく丸みを感じる柔らかな体のライン。うっすらと控えめな化粧。

 華やかな美人というわけではないが、西山とはまた違う、物静かで落ち着いた、熟し始めた大人の女性の魅力が早苗からは感じられた。


「でも、本当に驚いた……だって朝日奈君……」


 言いかけて早苗は言葉を止めた。

 十五年前、唯一の生存者だった朝日奈家次男の死亡報道が流れたのだ。そして、それから十三年、鈴の意識は戻らなかった。早苗はもちろん、鈴が死んだと思っていただろう。


「うん。ごめん。何か、色々あったみたいで」

「そんな、朝日奈君は何も悪くないじゃない。朝日奈君は……」


 早苗はまた言葉に迷ってしまったようだ。事件のことを口にするべきか悩んでいるようで、その気持ちは常磐にもよく分かる。触れずにいたくても、どうしてもそこに話が行き着いてしまうのだ。


「俺も驚いた。星野、よく俺のこと覚えてたよな」


 鈴は迷っている早苗に、今度は自分から話を切り出す。

 なんだか傍から見ていると、鈴の早苗への友達相手の口調は、とても不自然で奇妙だった。鈴と早苗は、どう見ても一回り以上歳の離れた子供と大人。知らない人が見れば、なんて生意気な子供なのだろうと、思うに違いない。


「だって、朝日奈君、本当に少しも変わってなかったから」


 言った早苗を、鈴は頬杖をついてじっと見る。


「星野は変わったね」


 その言葉に、早苗の顔が寂しそうに曇った。


「……どう……変わった?」


 不安そうに訊く早苗に、鈴は悪戯っぽく笑う。


「美人になった」

「……え?」


 キョトンとした早苗の顔が、たちまち赤くなる。

 次の瞬間、ガツンと常磐の脛に痛みが走った。


「ちょっと聞いた? 常磐、あんたもこれぐらい言えるようになりなさいよ」

「西山さん……蹴らないでください……」



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