↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

「重たい女は嫌いだ」と婚約破棄されましたが、王国最強の男たちには大好物だったようです

掲載日:2026/09/15

「重たい女は嫌いだ」と婚約破棄されましたが、王国最強の男たちには大好物だったようです


王宮舞踏会の壇上で、第一王子エドワードは閉じた扇をシャルロットへ突きつけた。その腕には、桃色のドレスをまとった男爵令嬢マリアがしがみついている。楽団の演奏が止まり、甘い葡萄酒と香水の匂いが漂う広間へ、王子の声が響き渡った。


「シャルロット! 我が愛しの可憐なマリアを、階段から突き落とそうとしたな! 貴様のような陰湿で重たい女とは婚約破棄だ!」


黒レースと真紅のリボンを幾重にも重ねたドレスを揺らし、シャルロット・フォン・ルナリアは俯いた。赤く縁取られた目元に涙がたまり、腰まで届く漆黒のツインテールが細い肩からこぼれ落ちる。その姿を見て、マリアは王子の腕の陰で小さく笑った。


「**さ**、刺し違えてでも殿下と結ばれるって、あの日、約束しましたよね……?」


「は?」


エドワードの扇が止まった。シャルロットは両手を胸元で組み、捨てられた子猫のように王子を見上げている。その潤んだ瞳の奥で、昏い光がゆっくりと灯った。


「**し**、死んでも絶対に離さないって、誓い合いましたよね……?」


「ま、待て。そんな約束をした覚えはないぞ」


「十年前、薔薇園でしました。シャル、殿下のお言葉を一日も忘れたことがありません」


「十年前なら、私は九歳だ!」


「初恋を年齢で無効にするなんて、ひどい……」


シャルロットが袖口へ指を入れると、銀色のペーパーナイフがするりと現れた。どこへ隠していたのか、衛兵にも分からなかった。燭台の炎を映した刃先が、エドワードの喉元へ向けられる。


「**す**、好きすぎて、骨の髄までシャルの色に染めてあげようと思っていたのに……。浮気なんて、シャル、許せないなぁ」


「ひっ!」


エドワードの背後で、マリアが悲鳴を上げた。王子を盾にするように隠れたため、今度はエドワードの口から「ひっ」と同じ声が漏れる。シャルロットは二人を見比べ、残念そうに眉尻を下げた。


「**せ**、責任を取ってくださいね? 殿下の心臓、シャルが一生大切にします。小瓶に入れて枕元へ飾って、朝も夜も話しかけてあげますから」


「いらん! そんな永遠はいらん! 衛兵、こいつをつまみ出せ!」


衛兵たちは顔を見合わせた。誰も、シャルロットへ近づこうとはしない。彼女はナイフを自分の首筋へ添え、赤い唇の端をゆっくりと持ち上げた。


「**そ**、そんなにシャルがいらないなら……今ここで殿下の血を浴びて、一緒に逝っちゃおっかな?」


「一緒にするな!」


エドワードは絶叫して腰を抜かした。マリアもその場へへたり込み、桃色のドレスの裾を必死に押さえている。貴族たちが一斉に出口へ顔を向けた、そのとき、広間の大扉が勢いよく開いた。


「シャルロット嬢、早まるな! 君の狂おしいほどの愛、この俺が全身で受け止める!」


王国最強と謳われる近衛騎士団長が、人垣を押し分けて駆け込んできた。彼はシャルロットの前へ片膝をつくと、自ら礼装の胸元をはだける。鍛え上げられた胸を指し示し、燃えるような目で彼女を見上げた。


「刺すなら俺を刺せ! 心臓の場所なら、毎朝鍛えているからよく分かる!」


「心臓は鍛えても移動しませんけど……」


シャルロットが初めて半歩下がった。だが、その背後には、いつの間にか冷酷無比で知られる魔術師団長が跪いていた。彼は恍惚と目を細め、黒レースに包まれた彼女の手を取った。


「野蛮な男は無視するといい。君の愛の毒を一滴残らず啜るのは僕だ。僕を鎖で縛り、名前を呼ぶことも、息をすることも、すべて君の許可制にしてくれ」


「息は自分でしてください……」


「嫌だ。君に命令されなければ吸いたくない」


魔術師団長が本当に息を止め、みるみる顔を赤くした。シャルロットが慌てて「吸って!」と命じると、彼は大きく息を吸い、「初めての命令だ」と幸福そうに胸を押さえる。その様子を見ていた隣国の皇太子が、国賓席から剣を抜いた。


「ふざけるな。彼女の病んだ瞳に映る男は俺だけでいい。ほかの男は全員、今夜ここで消す」


「どうして候補を減らす方向まで物騒なの?」


「安心しろ、シャルロット。君が寂しくないよう、俺も最後に自害する」


「全員いなくなるじゃない!」


三人の男たちは、誰が最もシャルロットの重たい愛にふさわしいかを巡って睨み合った。近衛騎士団長は胸をはだけ、魔術師団長は首輪を差し出し、隣国の皇太子は剣を構えている。つい先ほどまで広間で一番危険だったはずのシャルロットが、今では一番まともな顔をしていた。


「シャルロット!」


床へ座り込んだままのエドワードが、必死に手を伸ばした。先ほどまで腕に絡みついていたマリアは、すでに柱の陰まで逃げている。王子は震える唇で、どうにか威厳を取り繕った。


「よ、よく考えた。婚約破棄は撤回してやろう。私なら心臓を瓶に入れろとも、首輪をつけろとも言わない。あの三人より、ずっとまともだぞ!」


シャルロットは三人の求婚者から逃れるように、エドワードの前へ歩み寄った。王子の顔に安堵が広がる。彼女はその前へしゃがみ込み、耳元へ唇を寄せた。


「でも殿下、シャルの愛を重たいって捨てたでしょう?」


「あ、ああ……」


「軽い男は、好みじゃないの」


エドワードの顔から色が消えた。シャルロットは立ち上がり、銀のペーパーナイフをくるりと回して胸元へしまう。すると三人の男が同時に両手を広げ、彼女を迎えようと一歩踏み出した。


「さあ、俺の心臓を!」


「僕の首へ鎖を!」


「俺と一緒に滅びよう!」


「えぇ……?」


シャルロットはうるんだ瞳で頬を染め、困ったように小首をかしげた。愛が重すぎて捨てられたはずなのに、集まった男たちの愛は、彼女でも両手に余るほど重い。後ろではエドワードが「私が一番まともなのに」と泣き始めていた。


「シャル、重たい愛は一人分で手一杯なんだけど……。みんな狂ってて、もてすぎて困っちゃうな♡」


こうして舞踏会の夜、重たい女を捨てた王子は、誰よりも軽い男として捨て返された。そしてシャルロットは、自分より重たい三人の男から逃げるため、初めて全力で舞踏会場を走った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。