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第9話 疫災~解き放たれる勇者

今回の“魔王の婿探し”騒動。

世界最大の国、アルデミス王国の“権力争い”がその発端となっていた。


そのきっかけ。

実にこの世界において歴史的な出来事までさかのぼる。


『魔族とヒューマン族との和解』


まさに転換点。

だが。

そのときにすでに――


愚かなヒューマンの嫉妬と言う感情、そして…

吹き上がるドロドロした怨嗟にも似た強い想い。


噴き出していた。


いずれ来る破局。

――その因子は既に植え付けられていたのだ。



※※※※※



およそ10年前。

魔王エリルギードに宮下恵理が憑依してすぐ。


彼女は今までの魔族とヒューマン族との清算のため。

1人世界最大の国、アルデミス国王への会談を申し込んでいた。


国賓を迎える迎賓の間。

多くの重鎮が居並ぶ中――


そこに現れ、魔王は大きく息をつく。


(うう…人がいっぱい?…き、緊張する…)

『むう。なんでわざわざ愚かなヒューマンに会いに行くのよっ!?』


脳内で激しく反抗する元魔王。

エリルギードは魔力を自身の脳内に集中、問答無用で黙らせた。


(煩い!)

『ひうっ?!』


当然だがその当時、既にすべての魔族を粛正済み。

その中で比較的まともだった吸血鬼である真祖ラギドからのレクチャーを受けていたのだが…


「わ、私もお供を…」

「いらん」


瞬殺。


実はエリルギード。

余りに美しいラギドに対し…まともに顔を見ることすら出来なかったのだ。


(はうっ…なんて美しい男なの?…恥ずかしくて…顔なんて見れるわけないじゃない!)


異性に対する耐性。

――まったくのゼロだった。


何はともあれ開かれた会談。

魔族よりも数段弱いヒューマンたちの前。


豪華な椅子に座り、魔力を纏い魔王エリルギードの圧が増す。

震えあがる国王エルリック2世は滝のような汗を流しつつ、平伏するしかできなかった。



※※※※※



「ま、魔王陛下…そ、その言葉…ま、誠でしょうか」

「ふむ。そう言ったが?…貴様、耳が悪いのか?」


会談と言うか…ほぼ拷問に近い問答は終盤へと差し掛かる。

すべての条件を一方的に押し付けた魔王エリルギードは国王の問いに偉そうに答えた。


(…えっと…『偉そうに、威圧的に、です。なめられてはいけません』…だったよね?)


思わずレクチャーを思い浮かべる魔王。

まさに不遜。


だが。


その効果は絶大だった。


「あ、ありがたき幸せ…で、では…戦争は…」

「終わりだ。我らは軍を引こう。…のお、国王よ」


「は、はい」


改めて国王を見つめるエリルギード。

鋭い視線に国王はごくりとつばを飲み込む。


生きた心地のしない国王は無意識で宰相に寄り添う。

そして宰相もまた…命の危機、それを耐えるため――無意識で国王にしがみついた。


(はうっ!?)


国王は恐らく40歳くらいのイケオジ。

隣に控える、これまた美形の宰相(たぶん30くらい?)。


寄り添い震える二人――その様子に、“おかしな妄想”が沸き上がる。


(…なんでこの世界美形ばかり?…はっ?!…ま、まさか…)


転生(憑依)直後の魔王。

彼女の脳内――いまだ多くの偏見に満ちていた。


(…なぜか熱い瞳?…それに宰相…瞳を潤ませ国王を見ている?…ゴクリ)


BL好きの腐った少女の脳内で再現される国王と宰相の……………♡

火が出るほど顔を赤らめ、魔王はいきなり魔力を放出する。


「ひ、ひい?!!」

「う、うぐう?!」


まさに烈波が如く強烈な魔力の波動。

国王と宰相は思わず抱き合い、体を震わせてしまう。


「コホン…そうか。――お主らのその想い…我は尊重しようぞ」


完全な勘違いをする魔王。


「ふむ。(少しオジサンだけど…やっぱり美形同士――尊い♡)…コホン。時に国王よ」


「は、はい」

「…権力は揺るがぬのだな?」


実はこの時。

かの国では権力争いが表面化していた。


国王の弟である公爵が、はぐれ魔族の一団と密約を交わしていたのだ。

当然だがその魔族ですら粛清済み。


“そういう経験”は皆無だが。

意外と戦略的なことは理解していた魔王。


彼女は即座にヒューマン族の内紛に気づいていた。


だからこその問い。

何しろ食料の安定供給がかかっている。


ここで手を抜くわけにはいかない。


「我らは貴様らにとって疫災。それを止め和平をなした国王…権力はより強固になる――そうだな?」


そう言い国王の瞳を射抜く。

コクコクと、壊れたおもちゃのように首を縦に振る国王。


「ふむ。それは重畳」


魔族との和平。

いきさつはともかく、これは歴史的快挙。

国王は、絶対的な強権を手にしたも同然だった。


「お主らの技術、目を見張るものがある(主に美味しい食材とかね)…我らが支援をしよう。代わりに食料の提供…期待しても良いのだな?」


「は、はい――。仰せのままに」



交渉成立。



魔王エリルギードは満面の笑みを浮かべ、魔王の城へと転移した。



その様子を、暗く沈む感情で見つめているものに気づかずに。



※※※※※



「なんなのだ?!あの魔王は!!」


公爵家執務室。

歴史的な和平、それが終わったその日の深夜。


国王の実弟であるリンニーク公爵は豪華な椅子に座り込み頭をかきむしる。


策は万全だった。

もう少しで憎い兄を追い落とし、自らが国王になることが出来た。


だが。


なぜか連絡の取れなくなった魔族の一団。

そしてまるではぎ取られるように衰えていく権力と側近たち。


絶望が彼を包み込む。



「…このまま終われない」


暫く荒れていた彼は静かにつぶやいた。

よろよろと立ち上がり、地下へと進むリンニーク。


「…同じだ…邪魔をするなら――排除すればいい」


開かれる封印を施してある秘密の部屋。

そして厳重に封印されている禁書をその手に取る。


「魔王…ならばっ!」


伝説の禁呪――勇者召喚。


手にした禁書には古代文字でそう綴られていた。

人類の希望――そして。


世界のバランスブレーカー。

この世界の脅威、魔王への唯一の抵抗手段。



破滅は静かに――幕を開けようとしていた。


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