第7話 それでもエリちゃんは歯を食いしばる(笑)
最強魔王の婿探し。
それはこの世界ノーズイルド。
まさに存亡をかけた“世界的なイベント”のはずだった。
うっかり神を滅ぼした魔王エリルギードの負った枷。
そのために全く経験のない彼女が“新たな仮の神”を生み出すために。
結婚という魂の契約、そして。
愛し合い体液を躱し合うという縛り。
『…唾でも良いのか?』
そのくらい軽く考えていた魔王は現実に打ちひしがれる。
そう――
元魔王のレクチャ―。
脳内ビデオ鑑賞会。
それにより彼女は、男女のそういう事。
恐ろしいほどの拒絶反応をどうにか抑え込み、理解に至っていた。
「……ねえ」
『うん?』
恐ろしいほどの緊張感と静寂。
可愛らしい装飾に包まれた魔王の部屋は、まさに地獄のような絶対零度の魔力が荒れ狂っていた。
「…マジ?」
『…うん』
今回の教材。
『明るい結婚生活の為の性交指導教本パート1』
某国営放送が『性教育のために作成した』いわゆる教材。
保健体育の授業で流すマイルドなもの。
しかし。
魔王エリルギードはかつてない衝撃に包まれていた。
(うぐ…な、何で?…は、裸で?!…くうっ…うあ、あんなところまで…)
彼女の脳内で再現される、実は中学生でも閲覧が許されている内容。
さらには医療視点、そして全く欲情するような内容ではないのだが…
しかしまったく耐性のない魔王は既にトマトよりも顔を赤らめ、卒倒寸前だった。
『はあ。…ねえ、あんた無理なんじゃないの?』
「……うん」
魔王と脳内。
同時に大きなため息が吐き出された。
※※※※※
そうはいってもタイムリミットのある今回のイベント。
座している時間は無いのだ。
さらに教本を閲覧した魔王エリルギードは、まるで修行僧のように達観した表情で玉座に座り込んでいた。
(…きっと。…最初のあの男…おかしかったのよね?)
つい脳内の元魔王に話しかけてしまうエリルギード。
元魔王は苦笑いしながら答える。
『こら。あんた言葉遣い…素が出てるよ?』
(あうっ)
指摘に気づき、きょろきょろと謁見の間を見渡す。
誰もいなかった事に、安堵のため息を零した。
「…ふ、ふん。…あれは異常個体だ。すべての男が“ああ”ではないはず。きっとそうだ。そうに違いない」
覚悟を決める最強魔王。
おもむろに手を叩く。
「誰かあるか」
「はっ」
瞬間吹き上がる魔力。
吸血鬼の真祖、ラギドが眼前に跪く。
「…ラギド」
「はっ」
つい顔をしかめる魔王。
だが。
「…次は誰だ」
「……聖王国ニガードの第3王子が立候補しております」
「ふむ」
聖王国ニガード。
女神を奉る、女神教が国教のこの世界3番目の規模を誇る国だ。
「…奴らは敬虔な女神教の信者…そう認識しておるが」
「はっ。その認識で問題ありません」
確か女神教。
女性を大切にする教義。
その事実に魔王エリルギードの眼が怪しく光る。
「合うぞ。段取りを」
「っ!?……はっ」
そして二人目の婚約者候補との面談が決まる。
しかし。
魔王の凄まじいスキル『真実の眼』
それはすべてを暴く。
まさに地獄。
最強の魔王エリルギード。
そして擬態し、可愛い女子エリちゃん。
彼女の苦悩は、終わることを知らない。
聖王国、雁字搦めの教義。
異常なまでに潔癖な国民性。
そこで醸造された…秘められた変態性。
彼女の受難は続く(笑)




