最終話 宮下恵理と言う女性――決断の時
遠い世界。
日本のとある地方都市の病院のベッドで。
憧れていた――
『ねえ、今日退院する山口さん、来月結婚するらしいわよ』
『へえ。じゃあ毎日お見舞いに来ていたあの子?』
『そうらしいね。はあ。羨ましい』
耳に届く看護師の会話。
リアルなその内容に、私の心が軋み出す。
でも――
(…私には…関係の無い話だ…)
私は沸き上がるそんな思いに蓋をする。
見慣れた点滴台。
クリーム色の天井。
鼻を衝く薬品の匂い――
私、宮下恵理の世界だ。
※※※※※
「恵理、この本でいいの?…もう、お母さん、恥ずかしいのだけれど?」
いつも仕事帰りに、私の様子を見に来てくれるお母さん。
恥ずかしそうに差し出す紙袋。
中には今日発売されたライトBLの本。
「えっと…ごめん…あ、あの…あ、ありがと」
「っ!?…ふふ。…いいよ。…絶対に治るから…ねっ」
「…うん」
――知っていた。
もう――残された時間が少ない事を。
※※※※※
「心拍数、低下です――心臓マッサージを!」
「行きます――1,2,3――1,2,3――」
「恵理!…目を、目を開けてっ!」
「…恵理…ぐすっ…恵理ッ!!」
すすり泣く声――
蘇生を試みる、看護師さんたちの必死の声――
「ピ――――」
「……17時32分――ご臨終です――」
暗転する視界。
私は。
宮下恵理は。
16歳でその生涯を閉じた。
※※※※※
目に入る見慣れた自室の天井。
懐かしい夢――心振るえる悲しい夢――
でも。
私は愛されていた。
起き上がりベッドに腰を掛ける。
どうやら私は――泣き疲れてそのまま眠ってしまったらしい。
『……エリ?…大丈夫?』
何気に優しい元魔王。
その気遣いに、迂闊にも涙が滲む。
「うん…大丈夫」
『そっか…もう、暗いよ?…あんたは最強でチートの魔王なんだから。しゃっきりしなさい』
「ふふっ。そうだね…考えよっか」
まだ何も解決していない。
この世界ノーズイルド、残された時間。
およそあと1年と3か月。
この星の盟主として。
責任ある立場として。
私は決断する必要があるんだ。
大きく伸びをする私。
そして。
『ねえ。どうせ消えちゃうならさ。…もう一度違う男探す?』
「却下」
何気にとんでもない事を宣う元魔王。
すでに私は恋を自覚した。
今更違う男なんて――そんなの絶対に無理だ。
「とにかく。この世界の摂理――とことん調べるよ」
『はあ。それしかないよね』
私は前を向く。
病弱で。
弱くて。
意気地なしだった宮下恵理。
もうそんな弱かった自分はもういない。
「私は最強の魔王――我はエリルギード・ルデラ・イスガイヤなのだから」
※※※※※
「フン貴様、よもや忘れてはおるまいな。誰が最強か、今一度その魂に焼き付けてくれようぞ!!」
「ぐうっ、ぐぎゃああああああああああ――――――」
あれから5年が経過していた。
未だエリルギードは結婚していない。
最強の魔王としてこの星を管理していた。
でも……
※※※※※
「エリ、相変わらず君は強いな」
「うん。お疲れ様だねラギ」
自然に抱き合う二人。
すでに彼らは絶対の信頼で結ばれていた。
「ねえ、エリ。そろそろ結婚しない?もう待ちくたびれちゃうよ?」
「うーん。でもね、もうちょっと待って。……もう少しでね、この星安定するから」
魔王エリルギード。
最強無敵のとんでも魔王は、新たな星を創造していた。
あのアホ神。
彼の世界には大きな欠点が見つかっていた。
いずれ消えゆく運命だったノーズイルド。
魔王エリルギードは愛に目覚めたことで新たな力を得ていた。
「創造」
とんでもないチートスキル。
何よりあの星の摂理だと、救ったとしても愛する人、ラギドは神になってしまう。
そうすれば一緒にはいられないのだ。
だから彼女、最強の魔王は考え抜いた。
ダメなら作ればいい。
あり得ないほどのチートの彼女は最後までチートのままだった。
愛と言う感情を理解し。
そしてそれを守り抜く決意。
最強でチートのとんでも魔王。
彼女の愛の選択はまだまだ続いていく。
愛するラギド、その体温を感じながら。
FIN
これにて魔王エリルギードのお話、おしまいです。
ありがとうございました。




