第15話 甘い告白と気付いてしまう欠陥
「私は愚かでした。初めて話を聞いた時にお伝えできていれば……貴方をこんなに苦しめる事はなかった……」
「ラギド……」
やがて離れ立ち上がる二人。
見つめ合う。
「……はあ。あなた様は本当にお美しい……すべてが愛おしい」
「っ?!……もう。………遅すぎですよ?……私最強の魔王だよ?……良いの?」
そっとエリルギードの手を取るラギド。
そして跪き手の甲へ誓いのキスを落とした。
「愛しています。私と結婚してください」
恋愛に対して知識も耐性もないエリルギード。
でも今この瞬間、彼女の胸はまるで爆発するかの如く激しく鼓動を刻む。
自然に顔が染まっていく。
「……よく、分かりません……でも……嫌じゃない……ラギド?」
「はい」
「時間、くれますか?」
「ええ。いつまでも待ちます。もう私は悩まない。あなたが好きです。誰よりも」
経験のない女性。
彼女は初めて心の底からの求愛を受けた。
それはまさに幸福――しかし。
絶望の始まりだった。
※※※※※
かつて日本にいたころ。
BL好きだったが当然恋愛小説だって読んでいた。
分からなかった登場人物の心情。
そしてまともに読むことが出来なかったいわゆる愛し合うシーン。
今彼女は初めて理解する。
(ああ、これは……恋?……)
改めてラギドを見つめる。
エリルギードを優しく見つめる彼の瞳。
安心感が沸き立っていく。
そして心が甘く、優しい想いに塗り替えられていく。
(ああ、私……きっと彼が好きだったんだ……)
いつでも相談に乗ってくれていた彼。
どんな無茶な事でもいつでも彼女を守ってくれていた彼。
エリルギードの脳裏にその光景の数々がフラッシュバックしていく。
そして徐々に埋まっていく知らない感情。
彼女は、魔王は。
恋に落ちていた。
※※※※※
魔王の自室。
告白を受け、でも時間をもらったエリルギードは一人。
難しい顔を張り付け、普段しないような貧乏ゆすりをしてしまっていた。
『…ねえ。問題は解決――そうなんでしょ?なにイラついてんのよ』
「…はあ。分かる?」
『そりゃあね…で?…どうしたのよ』
大きくため息をつくエリルギード。
冷めた紅茶を煽り、一気に飲み干した。
「ぷはー。…あのね…すっごい欠陥…見つけちゃったの」
諦めと怒り。
なぜか彼女の心を占めるその感情。
解決したはず、なのに。
元魔王はごくりとつばを飲み込んだ。
「…消えちゃうのよね。…仮の神となった場合」
驚愕の告白。
思わず元魔王は息をのむ。
『はあっ?!な、なによそれ…だって…愛し合って…結婚するんでしょ?…それなのに…』
「呪い――私深く考えなかったんだけど…実はあのポンコツ神が仕込んだモノ…そうなんだよね」
神が消えた瞬間。
彼女エリルギードは神のいくつかの権能、吸収に成功していた。
だからこそ知ることのできた今回の仕組み。
そしていくつもの制約。
改めて検証した彼女は苦悩に包まれていた。
「はあ。…ねえ」
『…なに?』
大きく息を吐き出し、ベッドに倒れ込むエリルギード。
おもむろに枕を抱きしめ、顔を赤くする。
「…初めて告白されたの……知らない感情が溢れて…ふわふわして…」
『…うん』
そして滲みだす涙。
完全に恋する乙女の表情がそこにはあった。
「…嬉しかった…幸せ……でも」
『……』
「どうしよう…私…こわい…ラギドが居なくなる…ひっく…グスッ…」
『…エリ…』
すすり泣く声。
いつまでもそれは――
魔王の部屋に響いていた。




