第14話 婿探しに絶望するエリちゃん――ついに愛を知る
悪夢の聖王国でのお見合いから早半年。
その後お見合いは10回行われていた。
すでにエリルギードはまるで修行僧のように達観してしまっていた。
元魔王が言った通り。
どの男も会った時すでに、エリルギードの体を妄想の中で好き勝手にしていたのだ。
「もうヤダ……もういい。この世界のことなんて知らない」
完全に心が折れた魔王。
彼女は世界に出したお触れを回収していた。
何しろここ最近、彼女は部屋から出てこない。
完全に引きこもっていた。
「ねえ」
『……ん?』
「どうしよう」
『…あー』
最強で無敵な魔王。
でも“そういう経験”のない彼女は、どうしても立ち上がる事が出来なくなっていた。
※※※※※
魔王がひきこもっていても世界は動き続ける。
ラギドはかつてないほど忙しい日々をこなしていた。
「おいっ、ダンジョンはどうした」
「へ、へい。今ギルハット様が50階層に到達したところです」
報告を聞き、書類に書き込むラギド。
別の束を取り出し、視線を向ける。
「ふむ。農場は順調か」
「へい。新しい監視役のドルード様ですが、どうやら農業に興味を持ちまして……今新たな品種を試験しています」
「よし、ご苦労。下がってよいぞ」
「へい」
ラギドは大きくため息をつく。
いつもの仕事ではあるが、疲労感が凄まじい。
原因は…
そしてちらりと主の居ない玉座に目を向けた。
(エリルギードさま……ああ、もう10日は彼女の麗しいお姿を見れていない…)
つい落ちてしまう肩。
そして同時に怒りがこみ上げる。
(しかし、この星の男どもはどうなっておるのだ?!我が愛おしい君を、まるで娼婦のようにいかがわしい目で見るなど…許せん。私なら……彼女を……)
ふわりと鼻腔をくすぐるかぐわしい香り。
待ち望んでいた超絶魔力、それが魔王の間を埋め尽くす。
「……ラギド」
「っ!?……エ、エリルギードさま?!……もう大丈夫なのですか?」
「……ああ、苦労を掛けた……すまないな。お前にしか頼めん。許せ」
「っ!?もったいないお言葉……おお、まさに天の祝福…」
「ふっ、大げさな奴め」
寂しそうに微笑む魔王。
その様子にラギドの胸がチクリと痛む。
「……なあ、ラギド」
「は、はい」
「お前も男……やはりわらわで妄想とかするのか?」
「っ!?…………は、い……で、ですが…」
一瞬顔をしかめる魔王に、ラギドは自分の心臓が止まるのではないかという衝撃を受けた。
そして沸き上がる想い。
この人を守りたい……
純粋な想いがどんどん湧き上がってくる。
そして決まる覚悟。
もう――ごまかさない。
「エリルギードさま、発言よろしいでしょうか?」
「うむ。許す。申してみよ」
「私と手を繋いではいただけませんか?私の妄想、ぜひご覧いただきたく」
「……ふん。愚かな……貴様とて男。試す価値もないわ」
そう言い背を向ける魔王。
ラギドは自身の死を覚悟し、無礼を働く。
おもむろにエリルギードの手を握った。
「なっ?!き、貴様っ!?……うあっ?!!!」
「ご覧ください、我が妄想、あなた様への想いをっ!!!!」
※※※※※
暖かい場所―――
そこは美しい花が咲き乱れる、まるで天国のような場所だった。
優しく微笑むラギド。
彼の瞳にはエリルギードを思いやる気持ちが溢れかえっていた。
「……あ……え?…」
ふいに出てしまう言葉。
幾つもの悍ましい情景を見せられてきた魔王は――
知らずに涙があふれ出すことに気づかない。
情景がぼやけていく。
妄想。
誰しもが行う行為。
そしてそれはコントロールなどできない。
魔王、エリルギードはここ半年で、嫌というほど知ってしまっていた事実だ。
(あたたかい……ああ、なんて心地よい…これが…ラギドの?)
そして登場する優しい瞳のラギド。
彼はまるで宝物のように優しくエリルギードを包み込む。
「愛しています。私とともに生きて欲しい」
「……ラ、ギド……お、おまえ……」
ああ。
これは奇跡か?
そうか。
もう私は既に……
愛されていたのだな……
※※※※※
ビジョンが途切れ王の間。
エリルギードは静かに佇んでいた。
跪くラギド。
彼が口を開く。
「ご無礼を。我が首、どうぞ、お取りください」
まさに覚悟を決めた瞳。
後悔のみじんもないその姿に、エリルギードの鼓動がトクンと跳ねる。
「……なあラギド」
「……はっ」
「貴様、妄想のコントロールができる、そういう事ではあるまいな」
「……出来る物ならもっと私はあなた様を……感じてみたい」
素直な言葉。
そして溢れる思い。
エリルギードの顔が徐々に上気していく。
しゃがみ込みラギドの瞳を見つめる。
気付いたラギドはまるでトマトのように顔を赤らめてしまう。
「……ねえ。――私の事、好きなの?……本当に?」
「っ!?エリルギードさま?……口調が……」
「もう、ちゃんと返事して。……私のこと好き?」
ラギドは勇気を振り絞る。
目の前の愛おしい女性を優しく抱きしめた。
「あうっ?!ラ、ラギド?!!」
「お慕いしております。ずっと……10年前から……貴方さまが転生してきた、あの日からずっと……愛しています」
「っ?!」
優しく、そして――
心の底からエリルギードを想う温かい心。
呼吸すら止まる。
思考も既にぐちゃぐちゃ。
でも。
(ああ…なんて…なんて安心するんだろう…)
初めて経験する気持ち。
包まれる愛おしさ。
魔王エリルギードは、零れる涙に気づかぬまま。
ラギドに抱きしめられていた。
あと残り2話。
明日で完結です。
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