第12話 壊れ行くノーズイルド~神の過ち~
魔王の宣言。
それにより安定をもたらしたノーズイルド。
異常な力を保有する魔王に、神は危機感を抱いていたが。
何よりも彼女が宣言して以降、この星にはかつてない安寧の日々が訪れていた。
(ふむ…わしの懸念…問題は無いようじゃな…)
遠い神界。
そこで様子を覗く神は、ほっと安堵の息を吐いた。
当然だがこの世界ノーズイルドは彼の作った摂理。
それは弱いヒューマンが永続できるように幾つもの受難、それを意識的に組み込んでいたものだった。
受難の筆頭である魔族。
そして今は魔物のみがヒューマンに対する脅威となっていたのだが…
悉く魔族によりその脅威の眼は摘み取られていた。
神の計画、少しのズレ。
それでも神は。
あの異常な魔王との対立、それは望んでいなかった。
(…脅威がなくなり…ヒューマン族は繁栄をしていく…悪い事ではない…)
創造神である彼の願い。
星の繁栄や民の幸せ――
正しい倫理観を持つ彼の望みは間違いなくその軌道に乗っていた。
しかし。
(…わしは創造神――あくまで傍観者…でも…)
正直。
彼が干渉をしていた時代。
それよりもより温かく、そして幸福に包まれるノーズイルド。
笑い合う弱きヒューマン族の子供たち。
野山で走り回る情景。
神である自分より。
イレギュラーである魔王がもたらした今の状況。
よくわからない感情――嫉妬。
それが彼の中で芽吹き始めていた。
※※※※※
創造神が作った世界。
それにはいくつかのギミックが設けられていた。
当然だが“神の時間”と“ヒューマンの時間”はズレを生じている。
短く、それでいて濃く燃え尽きるヒューマン族。
それは烈火のごとく、この世界へと影響を与えるものだった。
もちろん予定調和。
多くの困難、それにより覚醒し成長していくヒューマン族。
だが神も万能ではない。
だからこその神託や、神へと奏上できるシステム。
構築していた。
そして。
あれから数年。
ついに神への奏上システム、それが発動する。
世界最大の国アルデミス。
そこに秘匿された秘境の地にある太古の神殿。
強欲な男がたどり着いていた。
※※※※※
切り立つ岩。
獣すら通れぬ深い森。
ヒューマンの足が届かぬそこに、ある集団がたどり着く。
「…ついに…ついに見つけた…古の神の大神殿…わしの悲願…」
震える体。
滲む涙。
ぼろきれを纏い、その顔には深いしわが刻みつけられている。
とてもじゃないが高貴な存在に見えぬ男は、懐から盗み出した国宝のカギを取り出しかざした。
「おおっ」
「伝説が…」
軋みを立て、地響きとともに動き出す巨岩。
多くの鳥や魔獣たちが一斉に空へと飛び立つ。
古の神の大神殿。
ついに開かれたその道。
一人のヒューマンの欲望と悪意。
ついに神に伝わる。
※※※※※
結果として。
最悪のタイミングだった。
神が自ら抱えてしまった、知らなかった感情――嫉妬。
すでに顕現していた“対魔族の最終兵器”である勇者。
純粋な――渇望するヒューマンの叫び。
どれか一つでも欠けていれば。
きっと神は判断を誤らなかった。
だが。
神の背に甦る恐怖。
突然神域にまで転移してきた魔王エリルギードのとんでもないあの力。
そして――
『神よ――制御できぬ絶対悪…魔王だ――今は我らには向かぬその脅威…もし向かったのなら…この世界滅びましょう…どうか、どうか――勇者の力を…もっと強く』
制御できない異常な力。
魔王エリルギード。
神は思う。
(…カウンター…必要かもしれぬ)
そして。
神は覗いてしまう。
魔王の力、そしてその能力。
「…ありえぬ…なんだこの力は…」
まだ若いとはいえ創造神。
幾つもの経験、彼は積んでいた。
それでも滲む冷や汗とかつてない怖気。
経験にもない超絶な、まさにバグとしか言えないような魔王の力。
――「瞬殺」
その言葉が、神の中で“現実のものとして”脳裏を駆け巡る。
(…だめだ…かなう道理がない…勇者を、抵抗手段を…強化、いや)
神は自身の超絶魔力を揺蕩らせる。
自らの干渉、それは摂理を超えるまさに禁忌。
一瞬よぎる不安――それを彼は思想でねじ伏せる。
(魔改造――感情を全て代償にしなければ届かない高み――必要じゃ)
そして神は間違えた。
この星の悪夢、それは。
一人の男の欲深さと神の感じてしまった嫉妬。
ノーズイルド。
その運命が終焉に向かってしまう最後のトリガー。
解き放たれた。




