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第11話 聖王国王子ミンアーク

穏やかに晴れ渡る空。

鳥が歌い、さわやかな風が聖王国ニガードの第3王子の自室を吹き抜けた。


「…ミンアークさま。本日午後――魔王が訪れます」

「ああ。承知している…何でも世界の危機…そして我は神になる――そうだな?」

「はっ。…おお、なんという麗しき我が君…あなた様はまさに聖なる王子…世界の希望となるでしょう」


聖王国ニガード、第3王子ミンアーク。

眉目秀麗、質実剛健。


まさに誰もが尊敬する人格者。

付き人であるネリッティはつい目じりに涙を浮かべてしまう。


「…ミンアーク様ももう21歳…御立派に…大きくなられましたな」

「ははっ。相変わらずネリッティにかかれば私も子供のようだ。…案ずるな。閨の技術、万全だ」


今回の魔王によるお触れ。

正確に判断していたミンアークは幾つもの準備をこなしていた。


何しろ今回の一番の目的。

それは魔王との結婚、そして愛し合う事。


聖王国と言う、女神を奉る敬虔な信者でもある彼は正直異性とのそういう事、つい最近まで全く知らずに育っていた。


そしてすべての者は勘違いをしていた。

彼ミンアークの異常性。


凄まじい勘違いと、抑圧され続けていた異星に対する欲望。

それが火を噴く。



修羅場は間もなく開かれる――



※※※※※



聖王国ニガード。

女神を奉る、敬虔な信者が多く暮らすこの星3番目の規模を誇る国だ。


魔王城より西に数千キロ。

通常ではほぼまみえない立地ではあるが。


魔王エリルギードは超絶絶対者。

転移魔法など朝飯前だ。


約束の午後1時。

その30分前、すでに魔王エリルギードは迎賓の間で紅茶を楽しんでいた。


「…ラギド。なぜおまえまで同席する。我1人でよいといったはずだが?」

「…いえ。あなた様の夫となる者の選定――ひいては我が忠誠を尽くす男性。…私の意見も必要かと」

「ふむ」


優雅に紅茶を飲む魔王。

僅か震える手、それをラギドは見逃さなかった。


(ああ、緊張されている…我が愛しき君…こんな茶番…許せぬ…)


正直前回のお見合い。

ラギドは同席しなかったことに魂を切り裂かれるような後悔を感じていた。


真祖であるラギド。

魔王ほどではないが、当然人心を掌握する能力にはたけていた。


もし以前同席していたのなら。

魔王の精神的ダメージ、感じる以前に暴露が可能であった事実。


ラギドは静かに唇をかみしめ、愛おしい魔王を静かに見つけていた。



※※※※※



1時を伝える鐘の音が鳴り響く。


豪華にあしらえられた特別貴賓室。

対面する魔王と第3王子ミンアーク。


魔王エリルギードはとんでもない後悔に包まれていた。


「はあ。なんとお美しい…私は聖王国ニガード第3王子のミンアークです…さあ、ともに」

「うぐっ…そ、その…ま、まずは話し合いを…」


なぜか豪華なソファーの奥に用意されている、明らかにいかがわしいものであふれかえる大きなベッド。


焚かれる明らかに誘惑を促すお香。

そしてそこに並ぶ多くのうら若き女性たち。


思わず魔王のみならず、ラギドまでもがあまりの光景に固まっていた。


「ふむ。私の愛は本物――あなた様を見て確信しました…さあ、さあ」


異常な圧に、歪み始める欲情をともす瞳。

マジでホラーだ。



※※※※※



今回の訪問。

まさにお見合い。


当然だが挨拶をし、お話をしてからの判断。

そう思っていた魔王エリルギードは、あまりの圧にスキルを発動させる余裕すら奪われていた。


(な、なに?この男…ひいっ、あ、あのベッドって…い、いきなり?!!それにあの子たち…)


背筋に駆け抜ける、経験のない恐怖。

理解できないミンアークの行動に、最強魔王は恐怖に囚われる。


「…コホン。…王子殿下…こ、これは?…急ぎ過ぎでは」


どうにか精神を立て直し、ラギドが低い声で問いかける。

彼だって正直経験はない。

だが。


今のこの状況、明らかにおかしい事には気づいていた。

何より伝わる魔王様の恐怖。


(許せぬ)


ラギドの言葉に、何故か困惑するミンアーク。

彼は声を発する。


「うん?…今回の件、世界の為と私は聞いております。ならば愛し合う、まずはそこからでは?」


急遽叩き込まれた閨の技術。

そして制限されていたがための異常性。


彼ミンアークは、指摘されている事、確実に異常であること――

その事に思い当たることは無かった。


「コホン。…そ、それよりも…そちらの女性たちは…」

「ああ。ご心配なく。彼女たちは閨のいわば道具。愛し合う、それには彼女たちの協力、必要でしょう」


意味が分からない。

なんで…愛し合うのにいきなり複数プレイ?


驚愕と恐怖。

それに包まれ、逆に冷静になった魔王。


スキル“真実の眼”それを発動させた。


「ひうっ?!!」


そして。

流れ来る悍ましいミンアークの妄想。


とてもじゃないが人さまに見せられることのできない内容。

かつてない恐怖と精神の危機に、エリルギードは自らを抱きしめた。


妄想で展開されるミンアークの願いと言うか願望。

執着の瞳――美しいはずのミンアークの…嫌悪感を感じてしまう表情――


(うぐっ…うあ、無理…むりいいいっっ!!?)


そして、理解の及ばない倒錯的な行動。

甘えるような、甘ったるいその言葉――



エリルギードは瞬間――ラギドの手を取り、姿を消していた。



「……え?」



茫然とするミンアーク。

一人残された彼は。



意味も解らず、立ち尽くす。



――お見合いは破談となった。



※※※※※



魔王城、エリルギードの寝室。

布団をかぶり、魔王は涙目で震えていた。


(怖い…キモイ…ひうっ?!)


エリルギードを求めるミンアークのイってしまっている瞳。

せまるワキワキと動く手――


恐ろしい妄想、それは魔王エリルギードの精神にとてつもないダメージをもたらしていた。


(無理無理無理無理無理―――――!!!!)


異常性欲者の次――敬虔で紳士だったはずの聖王国の第3王子。


彼は立派な変態さんだった。




魔王の受難。


それはとどまることを知らなかった(笑)


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