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第5話:費用対効果を見極めろ:ROIとコスト削減の罠

経理室。

セリアが耕太に、次期予算案の書類を差し出していた。


彼女の表情は、依然として深刻だ。


「耕太様、ご報告いたします。このままでは資金が持ちません。

 次期予算案では、大幅なコスト削減を提案させていただきます。モンスターの餌代を減らし、トラップの修理頻度も落とします」


セリアは、断腸の思いで提案した。



しかし、耕太は書類を見て、顔をしかめた。


「え、ちょっと待ってセリア。モンスターの餌代を減らしたら、士気が下がって冒険者から不満が出るかもしれない。トラップの修理を怠れば、安全性が損なわれる」


セリアは、この赤字を解消するためには他に手がないと、苦しそうに訴える。


「しかし、この赤字を解消するには、他に手がございません…!」


「うーん、何でもかんでも削ればいいってもんじゃないのは分かるんだけど…」


耕太は頭を抱えた。

数字だけを見れば削減が正解に見えるが、それがダンジョンの「質」を落とし、長期的な損失に繋がる可能性を彼は危惧していた。


前職のブラック企業では、経費削減こそが至上命令だった。

その結果、製品の品質が落ち、顧客離れが加速した苦い経験がある。同じ轍は踏みたくない。


メティスが光の粒子となって現れた。


「耕太よ、その懸念は正しい。古き世界の商人の智恵には、『投資対効果(ROI)』という考え方がある。単に費用を減らすだけでなく、その費用が将来どれだけの利益を生み出すのかを見極めるのだ」


「投資対効果?アールオーアイ?」


耕太は聞き慣れないビジネス用語に首を傾げる。


前職では、ROIという言葉は聞いたことがあっても、それが実際にどう計算され、どう経営判断に活かされるのか、まともに教えてもらう機会などなかった。


「うむ。全てのコストが悪いわけではない。

 例えば、モンスターへの報酬をケチれば士気が下がり、ダンジョンの質が落ちる。

 それは見かけのコスト削減に見えて、長期的な損害に繋がる。これは『悪いコスト』だ」。


耕太は、前職で品質を落としたことによる顧客離れを経験していた。

安易なコストカットが、かえって大きな代償となることを知っている。


「なるほど、モンスターの士気はダンジョンの質に直結しますもんね」


「対して、冒険者がほとんど引っかからない、あるいは効果が薄いトラップの維持費は、無駄な投資と言えよう。

 これは『削るべきコスト』だ。それぞれのコストが、どれほどの『リターン』を生むかを見極めるのだ」。


メティスの言葉は、耕太の視界をクリアにした。


コストは「ただの出費」ではなく、「未来への投資」なのだ。

無駄なコストを徹底的に削減し、本当に必要な投資には惜しまない。

その判断基準こそが、ROIというビジネススキルだった。


数字の知識だけでは見えなかった「質」や「将来性」といった要素が、この概念によって明確になる。

これは、彼の知る「なんちゃってマーケティング」とは全く異なる、生きたビジネススキルだった。


耕太とセリアは、ダンジョンの各コスト項目をリストアップし、それぞれの「投資対効果」について議論を始めた。


「セリア、このトラップの維持費、最近冒険者行動記録装置のデータで、ほとんど機能してないって出てましたよね?これは削れるんじゃないかな」。


セリアは驚いて、

「確かに!このトラップは古くからあるものですが、最近の冒険者は簡単に突破してしまいます」

と納得した。


「モンスターの餌代は、削るべきじゃない。むしろ、質の良い餌を少し増やすことで、士気が上がって冒険者からの評価も上がるかもしれない。これは『投資』だ」。


セリアは目から鱗が落ちたように、声を弾ませた。


「なるほど!単に減らすだけでなく、そのコストが将来どれだけの価値を生むか…!」。


「そうだ!これで、どこに優先的に手を付けるべきかが見えてきました!セリア、一緒にデッドエンド・ダンジョンを賢く立て直しましょう!」


耕太の言葉に、セリアも笑顔で頷いた。



耕太は、単なるコスト削減ではなく、投資の視点から費用を見極める「ROI」の考え方を学んだ。

賢いコスト管理によって、デッドエンド・ダンジョンは、質を落とすことなく、経営改善への道を歩み始める。


ようこそ、新たなビジネスの舞台へ!


デッドエンド・ダンジョン経営者の山田耕太です。 僕が突然転移してきたこの異世界で、戸惑いながらも学んできた「世界の仕組み」や「常識」「ビジネススキル」について、みなさんに共有できれば幸いです!

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