第4話:意見の衝突を乗り越えろ:コンフリクト解決と建設的フィードバック
ダンジョンの設計室では、モンスター調教師のオーク、ブルダと、トラップ設計士のドワーフ、ギアが、新しいフロアの設計図を前に激しく意見をぶつけ合っていた。
二人は互いの専門性から一歩も譲らず、プロジェクトの進行は完全に滞っている。
「いや、だからここにゴブリンを配置するんだ!冒険者を確実に足止めできる!」
ブルダが設計図を指さしながら声を荒げる。
「ふん、そんな単純な配置じゃ、すぐに突破されるわ!もっと複雑なトラップと連携させないと意味がない!」
ギアが不機嫌そうに腕を組む。
「トラップばかりじゃ、モンスターの活躍の場が減るだろうが!」
ブルダが言い返し、
「お前はモンスターのことしか考えてない!ダンジョン全体の効率を考えろ!」
ギアも負けじと応じる。
二人は互いに顔を背け、険悪なムードが部屋を満たしていた。
耕太は、このままでは新しいフロアの完成が遅れるどころか、彼らの間に深い溝が生まれてしまうと直感した。彼は二人の間に割って入る。
「ブルダさん、ギアさん、落ち着いてください!このままだと、新しいフロアの完成が遅れてしまう!」
しかし、彼らの感情的な対立は、耕太の声にも耳を貸さない。
耕太は、前職で様々なプロジェクトの遅延を見てきた。その原因の多くは、技術的な問題よりも、人間関係の軋轢だったことを知っている。異世界でも、その本質は変わらない。
ブラック企業では、意見の衝突は「問題」として扱われ、誰もが口をつぐんだ。
真の解決策が議論されることはなく、結局、上層部の鶴の一声で決まるか、問題そのものがうやむやにされるかだった。だが、ここでは自分が経営者だ。この衝突を放置するわけにはいかない。
「メティス、ブルダさんとギアさんがまた衝突してしまって…。お互い専門家だから譲らないんです。どうすればいいんでしょう?」
耕太は、精霊に助けを求めた。
光の粒子が集まり、メティスが姿を現す。
「耕太よ、組織において意見の衝突は避けられぬもの。しかし、それを放置すれば、成長の機会を失う。古き世界の叡智には、『コンフリクト解決』の術が記されている。そして、相手を責めずに改善を促す『建設的フィードバック』の技も重要だ」。
「コンフリクト解決?建設的フィードバック?」
耕太は聞き返した。
「うむ。まず、問題の『事実』と『感情』を切り離すことだ。次に、互いの『共通の目標』を再確認する。
そして、相手の行動に対して、『なぜそう思うのか』を問い、個人を攻撃するのではなく、具体的な『行動』や『状況』に焦点を当てて改善点を伝えるのだ」。
メティスの言葉は、耕太の頭の中で、霧が晴れるように状況を整理していった。
コンフリクト解決とは、単なる仲裁ではない。感情的な対立の背景にある「事実」と、二人が共有しているはずの「共通の目標」に焦点を当て直すこと。
そして、相手を責めるのではなく、具体的な「行動」にのみ言及して改善を促す「建設的フィードバック」。
これらは、人間関係の摩擦を、組織の成長の糧とするための、強力なビジネススキルなのだ。
ブラック企業では、感情論が先行し、具体的な「行動」へのフィードバックなどなかった。
ここ異世界で、彼は初めてこのスキルの真価を知る気がした。
「なるほど、感情的にならず、共通の目標を見て、具体的な行動について話し合うんですね」。
ダンジョン設計室。
耕太はブルダとギアの間に座り、話し合いを促した。
「ブルダさん、ギアさん。お二人の意見が食い違っているのは、新しいフロアを最高の冒険の場にしたい、という共通の目標があるからですよね?」
耕太の言葉に、二人の感情的な表情が、わずかに和らいだ。
ブルダが不満げに答える。
「そりゃそうだ…」
ギアも腕組みをしたまま、
「当たり前だ」
と返す。
「ブルダさん、ギアさんのトラップ設計について、具体的にどうすればもっとモンスターが活躍できると思いますか?感情的にならず、具体的な行動について教えてください」
耕太の問いかけは、ブルダの思考を感情から具体的な解決策へとシフトさせた。
ブルダは少し考えて、答えた。
「…ギアのトラップは確かに巧妙だが、モンスターが誘導される場所が狭すぎて、複数で襲いかかりにくい。もう少し広い空間で連携できるようにしてほしい」
「ギアさん、ブルダさんのモンスター配置について、具体的にどうすればもっとトラップが活きると思いますか?」
耕太は同様にギアにも問いかけた。
ギアも少し考えて、
「…ブルダの配置は力任せすぎる。冒険者が予測しやすい。もっとトラップと連動させて、予測不能な動きをさせるべきだ」
と返した。
「なるほど。ブルダさんは『モンスターの連携』、ギアさんは『トラップとの連動』を重視しているんですね。この二つを組み合わせれば、もっとすごいフロアができるんじゃないでしょうか?」
耕太は、二人の意見の「共通点」と、そこから生まれる「可能性」を明確に提示した。
ブルダとギアは、互いの意見に耳を傾け、少しずつ表情が和らいでいく。
彼らの脳裏に、それぞれの専門性が融合した、より効果的なフロアのイメージが浮かび始めたのだろう。
「確かに、ギアのトラップと俺のモンスターが連携すれば、冒険者どもは手も足も出ねえだろうな!」
ブルダが顔を上げ、
「ふん、やってやろうじゃないか」
ギアも頷いた。
耕太は、チーム内の意見の衝突を成長の糧とする「コンフリクト解決」と、相手を尊重し改善を促す「建設的フィードバック」の力を学んだ。
デッドエンド・ダンジョンのスタッフたちは、互いの専門性を認め合い、より強固なチームへと成長していく。
ようこそ、新たなビジネスの舞台へ!
デッドエンド・ダンジョン経営者の山田耕太です。 僕が突然転移してきたこの異世界で、戸惑いながらも学んできた「世界の仕組み」や「常識」「ビジネススキル」について、みなさんに共有できれば幸いです!