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第3話:ダンジョンの現状分析:SWOTで強みと弱みを見抜け

経理室は、埃っぽい紙の山と、古びた帳簿で埋め尽くされていた。


人間族の女性、セリアは、その中に埋もれるようにして座り、顔色が悪かった。


彼女は元ギルド職員の真面目な性格で、デッドエンド・ダンジョンの収支管理、契約、資金調達など、経営の現実的な側面を担っていた。


しかし、その真面目さ故に、目の前の絶望的な数字に打ちひしがれている。



「耕太様…ご報告いたします。デッドエンド・ダンジョンの今月の収支は…過去最悪の赤字です。

 魔力結晶の補充費、モンスター維持費、トラップの修理費…全てが嵩んでおります」


セリアの震える声は、まさにデッドエンド・ダンジョンの現状そのものを表していた。


耕太は書類の山を見て、途方に暮れる。


「うわぁ…。これはひどい。どこから手をつけていいか、全く分かりませんよ…。このままじゃ、本当にデッドエンドになっちゃう…」


彼は、膨大な情報と問題の前に立ち尽くした。何が問題なのか、どこから手を付けるべきなのか、まるで霧の中にいるようだった。


セリアは涙目になるばかりだった。

「はい…」。


その時、光の粒子が集まり、メティスが姿を現した。


「耕太よ、混乱するな。混沌の中にも秩序はある。古き世界の兵法書には、『敵を知り己を知れば百戦危うからず』とある。ビジネスもまた同じだ。お主のダンジョンを客観的に分析する『SWOT分析』を試してみよ」。


「スウォット…?何ですかそれ?」

耕太は眉をひそめた。


「『Strength(強み)』『Weakness(弱み)』『Opportunity(機会)』『Threat(脅威)』の頭文字だ。まず、自社の『強み』と『弱み』、そして市場の『機会』と『脅威』を洗い出すのだ」。


メティスの言葉は、かつて彼がビジネス研修で学んだフレームワークを想起させた。


SWOT分析。内部環境(自社の強みと弱み)と外部環境(市場の機会と脅威)を洗い出し、それらを組み合わせて戦略を立てる。


教科書的な知識だったが、ブラック企業で働く中で、体系的に現状を分析する機会など与えられたことがない。


異世界という混沌とした状況において、これほど有効な羅針盤になるとは、彼は思ってもみなかった。


「なるほど、うちのダンジョンを客観的に見るんですね」 耕太は、目の前の問題の全体像を捉えるための道筋が見えた気がした。


耕太とセリアは、大きな紙を広げ、SWOTの4つの枠を書き込み始めた。

セリアも、耕太の真剣な眼差しとメティスの言葉に励まされ、ペンを握る手に力がこもる。


「うちの『強み』は、何と言っても高品質なダンジョン・コア!あと、ブルダさん、リリエル、ギアさん、セリア…みんな個性的なスタッフがいること!」


耕太は、ダンジョンの物理的な強みだけでなく、それを支える仲間たちの存在が、何よりも大きな強みであることに気づいた。


セリアは、少し顔色が良くなり、頷いた。


「はい!皆、デッドエンドを愛しております!」


「『弱み』は…やっぱりブランド力不足と、この立地の悪さかな。冒険者ギルドからも遠いし」


耕太は、自社の課題を客観的に見つめる。


メティスが頷く。


「うむ。次に、外部の環境だ。『機会』は何か?」


「機会は…時間貸しダンジョン市場が今、急速に伸びていること!あと、冒険者ギルドが新しいダンジョンを探しているって話も聞きました」


耕太は、市場のトレンドと、顧客であるギルドの動向を思い出した。



異世界におけるダンジョンは、かつては自然発生する危険な場所だったが、古代の魔術師が残した「ダンジョン生成魔法」の技術が再発見され、人工的に創造・維持できるようになったという。


これにより、ダンジョンは国家や企業が所有する「資源」へと変貌を遂げた。冒険者ギルドが管理する大規模ダンジョンが主流だが、人気ダンジョンは常に混雑し、中堅以下の冒険者には効率的な経験値稼ぎや素材収集が困難になっている。


そこで生まれたのが「時間貸しダンジョン」だ。


これは、ダンジョン所有者が冒険者に時間単位でダンジョンフロアを貸し出し、利用料を徴収するビジネスモデルであり、急速に需要が拡大しているという。


耕太が転生してきた異世界では、まさにこの「時間貸しダンジョン」が新たなビジネスとして注目を集めているのだ。



「『脅威』は…やはり競合ダンジョンの存在でしょうか。特に隣町にできるという大手ダンジョンは…」


セリアが不安げに付け加えた。

大手ダンジョンは、資本力、最新設備、そして広大なフロアを武器に、デッドエンドを脅かしている。


耕太は書き込まれた紙を見つめながら、大きく息を吐いた。


「うん、これでデッドエンドの立ち位置が、はっきり見えてきた!強みと機会を活かせば、この危機を乗り越えられるかもしれない!」


彼の言葉には、単なる希望だけでなく、具体的な戦略が見え始めたことによる確かな手応えが宿っていた。


セリアの顔にも、ようやく笑顔が戻った。


「はい!私も、この数字の山から、希望の光が見えた気がします!」



耕太は、複雑な状況を整理し、客観的に分析する「SWOT分析」の力を、異世界で初めて本格的に活用した。


このフレームワークによって、デッドエンド・ダンジョンの強みと機会を活かし、弱みと脅威に立ち向かう具体的な戦略が、今、まさに生まれようとしていた。

耕太とスタッフたちの、ダンジョン再生に向けた奮闘は、始まったばかりだ。


ようこそ、新たなビジネスの舞台へ!


デッドエンド・ダンジョン経営者の山田耕太です。 僕が突然転移してきたこの異世界で、戸惑いながらも学んできた「世界の仕組み」や「常識」「ビジネススキル」について、みなさんに共有できれば幸いです!

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