第21話:デッドエンド流「働きがい」:リモートチームマネジメントとエンゲージメント
耕太の執務室は、魔法通信の水晶玉が淡い光を放っていた。
広大なデッドエンド・ダンジョンの隅々までスタッフやモンスターが配置されているため、日常の業務連絡や会議は、この魔法通信が主な手段となっていた。
しかし、物理的な距離があることで、見えない課題が浮上していた。
リリエルが水晶玉越しに、どこか元気がなく報告する。
「耕太様、最近、受付とダンジョン奥地のフロアキーパー(リザードマンたち)との連携が少し取りにくくて…。直接顔を合わせる機会が少ないからでしょうか、意思疎通に時間がかかることがあります。」
ブルダも不満そうに言った。
「俺の部隊も、広大なダンジョンだと、なかなか顔を合わせて話す機会が少ねえ。
モンスターたちも、自分たちがダンジョンのどこに貢献しているのか、いまいち実感が湧いてないようだ。ちゃんと『ここが自分の居場所だ』って思ってくれてるか心配だ。」
彼の言葉には、モンスターたちのモチベーション低下への懸念がにじんでいた。
ギアも同意した。
「遠隔だと、細かなニュアンスが伝わりにくい時があるな。特に新しいトラップの調整とか、言葉だけだと誤解が生じやすい。魔法通信の映像だけでは、熱意が伝わりにくいこともある。」
耕太は水晶玉を見つめながら、スタッフたちの言葉に深く頷いた。
物理的な距離が、チームの結束力を薄れさせ、働きがいを低下させている。
現代社会のリモートワークの課題が、異世界でもそのまま当てはまっていることに、彼は軽い驚きと、同時に強い危機感を覚えた。
「みんなの言う通りだ。魔法通信があるとはいえ、物理的な距離があると、チームの結束力が薄れてしまう気がする…。まるで、みんながそれぞれ孤立した場所で働いているような感覚になってしまう。
メティス、どうすればいいんでしょう?この広大なダンジョンで、みんなが一体感を持って、働きがいを感じられるようにするには?」
光の粒子が、耕太の視界の隅に集まり、メティスが姿を現した。彼女の声は、耕太の問いに答えるかのように、静かに響き渡った。
「耕太よ、古き世界の賢者は『人はパンのみにて生きるにあらず』と語った。
肉体的な充足だけでなく、心の充足がなければ、真の力は発揮できぬ。
お主が目指すは、魂の絆『従業員エンゲージメント』だ 。
そして、遠隔地の仲間を束ねる『リモートチームマネジメント』の技も必要となる 。」
「エンゲージメント?リモートチームマネジメント?」
耕太は聞き返した。
彼の知る「従業員満足度」とは異なる、より深い概念に興味を覚えた。
「うむ。単に報酬を与えるだけでなく、彼らの働きがダンジョンにどう影響するかを明確にし、その貢献を心から『承認』することだ 。
彼らが『自分ごと』としてダンジョンの未来を考えられるようにするのだ。魔法通信を最大限に活用し、定期的な情報共有や個別の対話を心がけること。物理的な距離があっても、心の距離は縮められる 。
また、彼らが自らの『強み』を活かし、成長できる機会を与えること。そうすれば、彼らは単なる労働者ではなく、お主と共に未来を創る『仲間』となるだろう 。」
メティスは魔力投影で、遠隔地にいるスタッフたちが、まるで一つの大きな歯車のように連動し、ダンジョン全体を動かしていくイメージを示した。
耕太は、魔法通信の水晶玉を使い、スタッフ一人ひとりと個別で対話する時間を設けた。
ブルダのモンスター訓練の成果を具体的に褒め、彼らの貢献がデッドエンドの評判向上に繋がっていることを伝えた。
ギアの新しいトラップ開発の進捗を細かく聞き、彼の技術がダンジョンの「挑戦」という価値を創り出していることを労った。
セリアの経理業務の工夫が、ダンジョンの安定した運営を支えていることを感謝し、彼女の仕事がどれほど重要かを強調した。
リリエルにはこう提案した。
「リリエル、冒険者からの感謝の手紙や、異世界SNSでのポジティブな口コミを、定期的にみんなに共有しよう。
みんなの仕事が、どれだけ冒険者の役に立っているか、彼らがどれだけ喜んでくれているか、実感してもらうんだ。それが、彼らの働きがいの源になるはずだ。」
「はい!それは素晴らしいアイデアです!すぐに感謝の掲示板を作ります!」
リリエルは目を輝かせ、すぐに魔法通信で各フロアに感謝のメッセージを伝える準備を始めた。
ブルダにも指示を出した。
「ブルダさん、モンスターたちにも、定期的に『デッドエンド・ダンジョン通信』を魔法通信で送って、ダンジョンの最新情報や、他の部隊の活躍を知らせてあげてください。
自分たちがデッドエンドという大きな組織の一員であること、そして他の仲間がどのように頑張っているかを知ることで、一体感が生まれるはずです。」
「おお!それはモンスターたちも喜ぶだろうな!俺たちの努力が、デッドエンド全体に貢献していると分かれば、もっとやる気になるだろう!」
ブルダは目を輝かせた。
数週間後、魔法通信での定期的なミーティングや、個別の対話、そして感謝のメッセージや「デッドエンド・ダンジョン通信」が習慣化された。
スタッフやモンスターたちの表情には、以前よりも活気が見られるようになった。彼らは物理的な距離があっても、心の距離が縮まり、デッドエンドのために「自分ごと」として貢献しているという強い実感を持つようになった。
耕太は、物理的な距離を超えてチームの結束力を高める「リモートチームマネジメント」と、スタッフの「働きがい」を引き出す「従業員エンゲージメント」の力を学んだ。
それは、単なる業務効率化ではなく、組織を構成する個々の「魂」を活性化させ、彼らが自律的に、そして情熱を持って働く環境を創り出すことだった。
デッドエンド・ダンジョンは、遠隔地でも強固に連携する、真の「生命体」のようなチームへと成長していったのだった。
ようこそ、新たなビジネスの舞台へ!
デッドエンド・ダンジョン経営者の山田耕太です。 僕が突然転移してきたこの異世界で、戸惑いながらも学んできた「世界の仕組み」や「常識」「ビジネススキル」について、みなさんに共有できれば幸いです!




