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第15話:予期せぬ危機への備え:リスクマネジメント入門

ダンジョンの奥深く、普段は安定した魔力の流れが、突如として乱れ始めた。


管理室の魔力コアの反応が異常な数値を示し、地面が揺れ、壁に亀裂が入る。地下から響く地鳴りのような音に、モンスターたちが怯え、混乱が広がっていった。


ブルダが叫んだ。


「なんだ!?何が起きてるんだ!?こんな現象は初めてだぞ!」


セリアが焦った声で報告する。


「耕太様!魔力コアの数値が異常です!制御不能に陥っています!このままでは、ダンジョンの一部が崩壊する恐れがあります!」


彼女の顔は蒼白だった。


耕太は慌てて指示を出した。

彼の脳裏には、冒険者たちが巻き込まれる最悪のシナリオが瞬時に浮かんだ。


「冒険者の避難を最優先だ!

 リリエルに連絡して、緊急脱出経路を確保しろ!

 ブルダさん、モンスターを落ち着かせて、安全なエリアに誘導しろ!

 セリア、魔力コアの状況を詳しく調べてくれ!原因は何だ!?」


幸い、暴走はすぐに収まり、崩壊は免れた。

だが、耕太は冷や汗をかいていた。


もし冒険者が多くいる時間に発生していたら、取り返しのつかない事態になっていたかもしれない。彼の危機管理の甘さが、この事態を招いたような気がした。


「危なかった…。あの暴走、もし冒険者がいたら大変なことになってた。

 メティス、こんな予期せぬ事態にどう備えればいいんですか?常に最悪を想定し、最善を尽くす方法はないのでしょうか?」


彼の声には、後悔と、次への備えへの強い意志がにじんでいた。


光の粒子が、耕太の視界の隅に集まり、メティスが姿を現した。彼女の声は、耕太の問いに答えるかのように、静かに響き渡った。


「耕太よ、未来は不確実なもの。いつ、どのような危機が訪れるか、全てを予測することは叶わぬ。

 しかし、備えることでその不確実性を管理できる。古き世界の兵法家は『最悪を想定し、最善を尽くせ』と教えた。これが『リスクマネジメント』の根幹だ 。」


「リスクマネジメント?」

耕太は聞き返した。


彼の知るビジネスでは、「リスク」は回避すべきもの、あるいは保険で対応するものという認識が強かった。


「うむ。まず、お主のダンジョンに起こりうるあらゆる『リスク』(例:コアの魔力枯渇、モンスターの反乱、冒険者間のトラブルなど)を特定するのだ 。

 

 次に、それぞれの『発生確率』と『影響度』を評価する。発生確率は低いが影響度が極めて高い危機、あるいは発生確率は高いが影響度が軽微な危機など、その性質を見極めるのだ。


 そして、最も危険なリスクに対して、事前に『対応計画』を立てておくことだ 。」


メティスは魔力投影で、リスクの発生確率と影響度を示すマトリクスと、それに対応する計画が連鎖するイメージを示した。


「なるほど、事前にシナリオを考えておくことで、いざという時に冷静に対応できるわけですね。まるで、事前に『もしもの事態』の訓練をしておくようなものか。」


耕太は、このスキルが、単なる危機回避ではなく、組織全体の強靭さを高めることに繋がると直感した。


「その通り。備えあれば憂いなし。いかなる危機が訪れようとも、お主の組織は揺るがぬだろう。リスクを恐れるのではなく、リスクを理解し、それに対処する術を身につけるのだ。」


会議室で、耕太はスタッフたちと大きな紙を広げ、リスクマップを作成していた。それぞれのスタッフが、自分の担当領域で起こりうるリスクを真剣に洗い出していく。


「みんな、デッドエンド・ダンジョンに起こりうるリスクを洗い出そう。今回の魔力コアの暴走は、発生確率は低いけど、影響度は極めて高いと評価すべきだ。」


耕太が発言すると、スタッフたちは頷いた。


ブルダが言った。


「モンスターの反乱も、士気が下がれば起こりうるな。特に新しいモンスターを導入する際には、慎重な訓練が必要だ。これも影響は大きい。」


セリアも付け加えた。


「冒険者間のトラブルも、異世界SNSで拡散されると評判に響きます。特にデマが広がるスピードは恐ろしいです。」


ギアは、トラップの故障について言及した。


「トラップの突然の誤作動もリスクだな。冒険者に危害が及ぶ可能性がある。」



耕太は、それぞれのリスクをリスクマップ上にプロットし、対応計画を練り始めた。


「よし、それぞれのリスクに対して、どう対応するか計画を立てよう。魔力コアの暴走には、緊急停止プロトコルと、予備の魔力供給路の確保。


 さらに、精霊たちとの連携を強化して、異常の早期発見に努める。


 モンスターの反乱には、ブルダさんの訓練強化と、早期発見の仕組み、そしてモンスターたちの不満を汲み取る定期的なコミュニケーションが必要だ。」


「冒険者トラブルには、リリエルさんの迅速な対応と、誤解を解くための正確な情報開示の準備。


 そして、トラブルが起きにくいダンジョン内ルールの整備も必要だ。

 ギアさん、トラップの故障には、定期的な点検と、故障時の緊急停止システムを開発してほしい。」


耕太の指示は明確で、具体的だった。


スタッフたちは真剣な表情で、それぞれの役割を確認し、具体的な行動計画を共有した。彼らの顔には、危機に対する漠然とした恐怖ではなく、それに対処する覚悟と責任感が宿っていた。


「これで、どんな危機が来ても、慌てずに対応できるはずだ!備えあれば憂いなし!デッドエンドは、いかなる嵐が来ようとも、決して倒れない組織になる!」


耕太の言葉に、皆が力強く頷いた。


耕太は、潜在的なリスクを特定し、事前に対策を講じる「リスクマネジメント」の力を学んだ。


それは、単なる危機管理ではなく、組織全体のレジリエンスを高め、予期せぬ事態にも動じない、より強固で、より信頼されるダンジョンへとデッドエンドを進化させるための、不可欠なスキルだった。


この経験を通じて、デッドエンド・ダンジョンは、単なる冒険の場から、安全と信頼の象徴へと変貌を遂げ始めたのだ。


ようこそ、新たなビジネスの舞台へ!


デッドエンド・ダンジョン経営者の山田耕太です。 僕が突然転移してきたこの異世界で、戸惑いながらも学んできた「世界の仕組み」や「常識」「ビジネススキル」について、みなさんに共有できれば幸いです!

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