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第7話:新ダンジョン参入の危機:3C分析で市場を攻略せよ

会議室の空気は、前話の活気とは打って変わり、重く沈んでいた。


魔力照明の光が、セリアの手元に広げられた一枚の資料に、薄い影を落としている。


その資料には、隣町で進行中の巨大なダンジョン建設プロジェクトの概要が記されており、彼女の顔にはかつてないほどの焦りが浮かんでいた。


「耕太様、大変です!隣町に、強力な資本を持つ大手ダンジョン企業が、新たな時間貸しダンジョンを建設するそうです!」


彼女の声は、微かに震えていた。


リリエルが思わず声を上げた。

その顔には、驚きと絶望が入り混じっていた。


「え!?そんな…。うちのダンジョン、せっかく軌道に乗ってきたのに…。やっと冒険者たちに認められ始めてきたのに…。」


彼女は、これまでの努力が水泡に帰すことを恐れているようだった。


耕太は資料を読み込み、顔色を変えた。


彼の脳裏には、前職で経験した大手企業の圧倒的な資本力と、それによって潰された中小企業の姿がフラッシュバックする。


「これは…まずい。向こうは最新の設備と広大なフロアを売りにしてる。僕たちがどれだけ頑張っても、正面からぶつかっては勝ち目がない。

 このままじゃ、デッドエンド・ダンジョンは潰されてしまうかもしれない…。メティス、どうすれば、この強大な敵に立ち向かえるんでしょうか?」


彼の声には、隠しきれない焦燥感が混じっていた。



その時、柔らかな光の粒子が集まり、メティスが姿を現した。

彼女の姿は、いつものように穏やかでありながら、その声には確固たる響きがあった。


「耕太よ、混乱するな。このような状況こそ、思考を整理するフレームワークが役立つ。古き世界のビジネス戦略の文献には、『3C分析』というものがある 。」


「3C分析?」


耕太は聞き慣れない言葉に眉をひそめた。

彼の頭には、漠然としたマーケティングの知識はあるものの、具体的なフレームワークを使いこなす経験は少なかった。


「『自社(Company)』、『競合(Competitor)』、そして『顧客(Customer)』 。この3つの視点から、市場環境を分析するのだ。」


メティスの言葉と共に、彼の目の前に魔力投影で3つの円が重なる図が浮かび上がった。

それぞれの円が、デッドエンド・ダンジョンの市場における立ち位置を示しているかのようだった。


耕太は図を見つめながら言った。思考が急速に整理されていくのを感じる。


「なるほど。まず、うちのダンジョンを客観的に見るんですね。

 自社の『強み』は…高品質なダンジョン・コアと、個性豊かなスタッフたち。これは他のダンジョンには真似できない部分だ。弱みは…やっぱりブランド力不足と、この立地の悪さか。冒険者ギルドからも遠いし、アクセスは良くない。」


「次に、『競合』だ 。新しく来るダンジョンの強みは何か?

 資本力、最新の設備、広大なフロア…確かに圧倒的だ。

 だが、弱みはないか?画一的なサービス、顧客への配慮の欠如…彼らが大規模であるゆえに、個々の冒険者への細やかな対応は難しいはずだ。」


メティスの言葉に、耕太はかすかな希望を見出した。


リリエルが、以前行った異世界SNSの調査結果を思い出すように言った。


「冒険者ギルドの掲示板では、『新しいダンジョンは楽しみだけど、混雑しそう』『大規模だと、狙ったモンスターが取り合いになりそう』って声が多いです!

 特にソロ冒険者や初心者からは、不安の声が上がっています。」


彼女の言葉は、顧客の真の声を代弁していた。


「それこそが、『顧客』の視点だ 。冒険者たちは、その新ダンジョンに何を期待し、何を懸念しているのか?彼らの真のニーズはどこにあるのか?」


メティスの言葉は、耕太に決定的な視点を与えた。

競合の強みに目を奪われるだけでなく、顧客の求めるものが何かに焦点を当てることの重要性。


「なるほど!この3つのCを分析することで、うちのダンジョンがどこで勝負すべきか、見えてくる!」


耕太は確信に満ちた表情で頷いた。

彼が持つビジネス知識の断片が、今、一つの強力な武器として彼の頭の中に構築されていくのを感じた。


会議室のホワイトボードには、耕太が描いた3つの円が描かれ、スタッフたちがそれぞれの視点から意見を出し合っていた。

セリアは、予算資料を広げながら、真剣な表情で耳を傾けている。


「まず、『自社』の強みは、何と言ってもブルダさんたちモンスターの個性的な指導と、ギアさんのユニークなトラップだ!これは他にはない、デッドエンドだけの魅力だ!」


耕太が力強く言った。彼の言葉は、スタッフたちの顔に誇りを取り戻させた。


ブルダが胸を張る。


「俺たちのモンスターは、ただ倒されるだけじゃねえ!冒険者の成長を助ける、最高のパートナーだぜ!訓練の成果も、冒険者たちから好評だ!」


リリエルも続けた。


「『競合』は、確かに設備はすごいけど、画一的で冷たい印象がありますね。

 大量生産されたダンジョンフロアのような。冒険者ギルドの掲示板でも、『新しいダンジョンは楽しみだけど、混雑しそう』って声が多いです!

 これは、特定の素材を効率よく集めたい冒険者や、じっくり探索したい冒険者には不向きかもしれません。」


耕太はニヤリと笑った。


「それこそが、『顧客』のニーズだ!

 冒険者たちは、単に広いダンジョンを求めているわけじゃない。効率的な狩り、ユニークな体験、そして何よりも『自分に合った成長』を求めているんだ!

 大手カンパニーの画一的なダンジョンでは提供できない、パーソナルな体験こそが、デッドエンドの真骨頂になる!」


セリアが目を輝かせた。

彼女の真面目な性格が、この客観的な分析に納得しているようだった。


「つまり、私たちは『初心者でも安心して成長できる、パーソナルなダンジョン』というニッチな市場を狙うべき、ということですね!

 ターゲットを絞り、その層に最高の価値を提供する戦略です!」


彼女の言葉には、数字の裏付けに裏打ちされた確信が宿っていた。


「その通りだ、セリア!

 この3C分析で、デッドエンド・ダンジョンの活路が見えてきた!強大な敵に正面からぶつかるのではなく、僕たちにしかできない形で、市場に食い込んでいくんだ!」


耕太の言葉に、スタッフたちは力強く頷いた。

会議室には、それまでの絶望的な空気は消え失せ、共通の目標に向かう新たな熱気が満ちていた。


耕太は、競合の脅威に立ち向かうため、「3C分析」のフレームワークを学んだ。


自社、競合、顧客の視点から市場を深く理解することで、デッドエンド・ダンジョンは独自の差別化戦略を打ち出し、存続の危機を乗り越え、成長への新たな道を切り拓くのだった。

それは、単なるビジネス分析ではなく、異世界で生き残るための、そして仲間と共に未来を掴むための、確かな戦略となった。


ようこそ、新たなビジネスの舞台へ!


デッドエンド・ダンジョン経営者の山田耕太です。 僕が突然転移してきたこの異世界で、戸惑いながらも学んできた「世界の仕組み」や「常識」「ビジネススキル」について、みなさんに共有できれば幸いです!

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