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うつりぎ  作者: 西季幽司
新作(江戸時代編)
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越後伝吉②

 京都所司代への使いを済ませ、江戸への帰途、高崎の宿までやって来た。

 ここで越後へ向かう伝吉と別れた。

 平九郎は、街道の真ん中で、若い女がごろつきに絡まれているところに通りかかった。女一人に男三人。男が一人、道端に伸びている。

 女はドスを片手に、男どもに対し、一歩も引かない姿勢を見せていた。すらりと背の高い、目鼻立ちのはっきりとした良い女だ。切れ長の大きな目が女の意思の強さを感じさせた。


――良い男たちが、女一人に見っともない。


「悪いな。通りを塞いでいると、道行く人たちの邪魔だよ」と平九郎は男たちと女の間に割って入った。

「お侍さん。そこにいると怪我をしても知らないぜ!」

 ごろつきが喚くのは理解できたが、女まで「お武家様には係わりのないことでごさいます。どうか、このまま旅を続けておくんなさいまし」と言う。

 こうなると平九郎の義侠心が放っておけなくなった。

「多勢に無勢。加勢いたそう」

「御無用にと申しております」

「まあ、そう申すな。こちとら、退屈しておる」

「怪我をしても知りませんよ」

「それは、そちらのごろつき共に言うが良い」

「はは。お武家様。見た目はそうでもないのに、弁慶のように勇ましいことをおっしゃる」

「おおっ! 弁慶。懐かしい。良き坊主であった」

 平九郎と女が話をしているのに焦れた男が近づいて来て言った。「何をごちゃごちゃと、ふざけたことを言っている」

 平九郎が見上げるような大男だ。腕っ節も強そうだ。普通のものなら一目見ただけで縮み上がることだろう。

 平九郎は振り向きざまに、大男の頬を拳で殴りつけた。

 大男はその場で駒のようにくるくると回ると、どしんと音を立てて地面に倒れた。気を失ったようだ。

「おわっ!」、「げっ」

 これにはごろつき共が驚いた。

「拙者、この女子(おなご)と話をしておる。少し、待っておれ。話が終われば相手をしてやろう」

 平九郎が凄むと、わっとごろつき共が逃げ出した。

「おいおい。この大男を置いて行くのか?」と平九郎が声をかけたが、誰も振り返らなかった。

 ごろつき共が逃げ去ると、「礼は言いませんよ。お武家様が、勝手にやったことだ」と女が言った。

「別に礼などいらん。退屈しておっただけじゃ」

 立ち去ろうとすると、「お武家様。今夜はどちらにお泊りで?」と女が声をかけてきた。

「どこぞ宿でも探して泊まろうかと思っておる」

「だったらうちに来なよ」と女が言う。

「ほう~旅籠を営んでいるのか?」

「まあね」

 女は「三浦屋のせん」と名乗った。

「三浦屋のおせん⁉」

 伝吉が言っていた女だ。

「あたしのこと、知っているのかい?」

「おぬし、越後の伝吉という男を知っているだろう?」

「伝吉さん。ああ、知っているよ」

「伝吉が――」と言いかける平九郎を、せんは「お武家様。立ち話も何ですから、うちに来て話をしましょうや」と袖をつかむと、ぐいぐいと引っ張って行った。

 通り沿いにある小ぢんまりとした旅籠だった。掃除が行き届いて、居心地の良い宿なのだが、客は平九郎しかいない様子だった。

 喧嘩の訳を聞いた。

「喧嘩だなんて・・・」とせんは笑いながら事情を語った。

 三浦屋のある一帯は鉄火の安治一家が仕切っていた。ところが、安治が寄る年波に勝てず、病に伏せるようになってから、黒門助右衛門という流れ者が幅を利かせているらしかった。

「黒門の野郎がみかじめ料を寄こせってしつこいから、追い返してやっただけです」とせんは言う。

 みかじめ料は鉄火の安治一家に支払っている。本来であれば、黒門のようなやからは安治一家が追い払わなければならない。でなければ、みかじめ料を払う意味がない。だが、安治が病に伏せるようになってから、一家は凋落の一途にあった。一家のものが次々と黒門一家へと鞍替えしてしまっているのだ。

 近隣の旅籠や商家は、安治一家にみかじめ料を払うのを止め、黒門にみかじめ料を払っている。せんの三浦屋だけが、義理堅く、安治一家にみかじめ料を払っているのだ。

 旅籠は父親から受け継いだもので、生前、父親は安治には義理があると言っていた。父親の教えを守っているのだ。

「義理堅いのは良いが、それでは旅籠の客に迷惑がかかろう」

「そうなんですよ・・・」とせんが顔を曇らせる。

 黒門一家が三浦屋へ客を寄せまいと、立ち寄る客を脅しつけたりして、嫌がらせをして来るのだ。

「いっそ、宿をたたんで、気ままに旅でもしてみたい」とせんが言う。

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