表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うつりぎ  作者: 西季幽司
現代編
60/68

追いつめられて②

 商業ビルの地下にあるバーに足を踏み入れた。もう零時を回っていたが、女に飢えた男を捕まえるのは、容易いはずだ。

 バーのカウンターに腰かけ、水割りを注文した。十分も経たない内に、「お一人ですか?」と声を掛けてきた男がいた。

 長身で手足が楊枝のように細長い。狐を思わせる鼻の長い面高の顔だ。こちらも女が放っておかないような男だ。平九郎の好きな筋肉質の男ではなかったが、乗り替わるには絶好の相手だと思った。

「ええ、一人よ」としなをつくって見せる。

 男が隣に座った。

「ねえ、彼女、いくつ?」、「いくつだと思う?」、「僕より年上かな?」、「さあ?」

「何をしている人?」、「何をしていると思う?」、「モデルさんか何か?」と暫く、会話で弄んでから、「場所を変えない?」と誘ってみた。

「いいね。何処に行く」

「ホテルが良いわ」

 男を連れ出した。「いいとこを知っている」と言うので、その辺のラブホテルに連れ込まれるのかと思ったが、意外にも一流ホテルだった。支払いはカードで男は財布を持っていた。最近は何でも携帯で、財布を持ち歩かないものが増えた。指紋認証や顔認証なら良いが、暗証番号で携帯電話をロックしてあると、少々、面倒くさい。

「お金持ちなのね?」と聞くと、「ふふ。こう見えても会社社長なんだ」と答えた。

(玉の輿か)と心の中でほくそ笑んだが、何処か男に危うさを感じた。

 スイートルームになだれ込んで、男の要求にこたえた。

 そして、精を放つと、男は意識を失った。

 男に戻った平九郎はシャワーを浴びて身支度を整えた。上着の財布には運転免許証が入っていた。それにカードに現金があった。二十万円近くあった。

 宇野光隆――それが男の名前だった。

 女の携帯からヒモ男にメッセージを送信し、ホテルの部屋番号を教えておいた。これで直ぐに引き取りにやって来てくれるだろう。(じゃあな。あばよ)と宇野だった女に別れを告げると、ホテルを出た。

 厄介払いが出来た思いだった。

 取りあえず宇野の家に向かうことにした。住所にメゾン・デンヒルとある。マンションぽい名前だ。会社社長だと言っていた。さぞや豪勢なマンションに住んでいることだろう。ポケットに鍵があった。マンションの鍵だ。

 終電はとうに終わっていた。現金があったので、タクシーに乗った。タクシーなら運転手に住所を伝えるだけで、家を探す必要がない。

 うとうととした頃、「お客さん、着きましたよ」という運転手の声で起こされた。

 夜気が冷たい。タクシーを降りると、ほんのりと朝焼けが空を染めていた。大きく深呼吸をしてマンションを見上げた。

 予想に反して、六階建ての小さなマンションだった。マンションと言うより、アパートと言った方が近いかもしれない。

(まあ、良い。どうせ仮の身だ)

 部屋は最上階のようだ。平九郎は階段を登って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ