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うつりぎ  作者: 西季幽司
現代編
59/68

追いつめられて①

 見た目の良い女は乗り替わりの相手を探すのが楽だ。

 放っておいても、男が群がって来る。女は目鼻立ちのくっきりした顔に、すらりとした長い脚。男の視線を捉えて離さない胸の谷間を持っていた。良い女だ――!と思ったのが間違いだった。

 女を抱いた。

 女と入れ替わった後、体の奥から湧き上がってくる、渇きにも似た激しい欲求を覚えた。(これは・・・恐らく薬物によるものだ)と平九郎は思った。

 女は覚醒剤に手を出していた。

 しかも、ホテルに連れ込まれ、情事を終えた途端に、ガラの悪い男が乗り込んできた。美人局でもやっていたに違いない。

 可哀そうに、男になったばかりの女は、訳も分からずにガラの悪い男に滅多殴りに遭っていた。彼が殴られている内に、姿を消そうとしたのだが、男に見つかってしまった。しつこく絡んで来たので、叩きのめしてやった。暫く、起きて来ないだろう。

 こちとら、八百年、修羅場を潜って来たのだ。もとは武士だ。女になっても、武芸の心得の無い男など敵ではなかった。

 だが、厄介な女と入れ替わってしまった。

 早く、別の男と入れ替わりたかった。この女の外見だ。男には事欠かないだろう。

 部屋から持ち出したハンドバッグを漁って、財布を見つけた。中に運転免許証があった。塚原陽菜というのが女の名前らしい。

 まあ、名前なんてどうでも良い。どうせ、直ぐに捨てる身分だ。数えきれないほど、名前を変えて生きてきた。斎藤平九郎と呼ばれたのは、遥か昔の話だ。

 頼朝一族を根絶やしにし、鎌倉を離れた後、何年かして伊豆の山中で男の死体を見つけた。立派な体格をしていたが、山賊とでも争ったのか、肩口からざっくり袈裟懸けに斬られ、死んでいた。

 その男を見た途端、雷に打たれたような衝撃を感じた。

 男は斎藤平九郎――元の自分だった。うつりぎの術を得た後、平九郎は頼朝に近づく為に、鎌倉殿の十三人の宿老の一人、八田家の女御と入れ替わった。その八田家の女御の成れの果てだった。いきなり、男として、武士として、生きて行くことになり、世の中に適合できずに、辛い人生を歩ませてしまったようだ。

(悪いことをした。成仏してくれ)と平九郎は自分だった男の亡骸に手を合わせた。その時、(斎藤平九郎は死んだ)と思った。

 あれから八百年、名無しの権兵衛として生きて来た。

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