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うつりぎ  作者: 西季幽司
江戸時代編
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慶安事件②

 奥座敷に通されると、塾長の由井正雪と門弟の中では丸橋に次ぐ地位にいる金井半兵衛に何故か奥村八左衛門がいた。

 金井は真っすぐな男で盲目的に正雪のことを信仰していた。丸橋のような武芸者ではないが、兵学を極めようと熱心に正雪に師事していた。だが、奥村という男は平九郎の見る限り、裏表がありそうだった。

「何事です?」

「まあ、こちらへ」と丸橋に導かれるままに奥に招かれると、正雪を囲むように円座となって座った。

 正雪は腕組みをしたまま目を閉じて座っていた。

「塾長」と丸橋が声をかけると、正雪はかっと目を見開き、「徳川の天命は既に尽きた」と言った。

「尽きましたか」と金井。

「尽きたな。お世継ぎは幼少におわす。古今東西、幼帝のもとでは国は乱れるものだ」

「なるほど。で、どうなさる」

「我らで世を正すのだ」

「世を正すとは⁉」思わず、口をついて出てしまった。どうやら他の面々は過去に何度かこのような集まりに呼ばれていたようだが、平九郎は初めてだった。

「左様。幕府を滅ぼすのです」と正雪が言った。

「幕府を滅ぼす? どうやって」

「その計画を今から、お話ししましょう。大丈夫です。軍学者である私が、精魂込めて練り上げた計画です。万に一つも失敗はありません」

「ほほう~」平九郎は興味を持った。「お伺いしましょう」

「力をお貸しいただけますか?」

「先ずはその計画というのをお聞きしたい」

「では――」と由井正雪が幕府転覆計画について語った。

 それによると、丸橋忠弥が幕府の火薬庫を襲い、江戸城を焼き討ちにする。驚いて駆けつけてきた老中以下の旗本を鉄砲で討ち取り、家綱を人質に取る。

 正雪は駿府へ向かい、駿府城から武器を奪い、久能山の霊廟にある徳川家康の遺産を奪い、全国から浪人を集める。そして、金井半兵衛は大阪市中を焼き討ちにし、混乱に乗じて大阪城を占拠する――という三方面作戦だった。

「斎藤殿には京に向かってもらい、宮中へ押し入り、後孝明天皇の身柄を押さえてもらいたい。我らの行いを正当化する為にも、是非共、後孝明天皇の将軍宣下が欲しいのです」

「将軍宣下?」

「そう徳川に代わって、この由井正雪を将軍に任じる宣下です」

「一体、いかほどの浪人が参戦してくれるのでしょうか?」

「安心めされ。私が一声かければ二千や三千は直ぐに集まります。それに、我らが蜂起したと聞けば、全国各地の浪人どもが雲霞の如く押し寄せ、力を貸してくれることでしょう」

「毛利も動きますぞ」と金井半兵衛が言う。金井は毛利の家臣の血縁だという噂があった。

「毛利も動きますか――」と言って、平九郎は考えた。

 あまりに杜撰な計画だ。天下に名だたる軍学者が考えたものとは思えない。平九郎は数多の修羅場を潜り抜けてきた生粋の武者だ。正雪の計画は、所詮は実践を知らない、似非(えせ)軍学者の戯言にしか聞こえなかった。

 だが、ここで断れば、門下生以下、押し包んで斬り殺されてしまうだろう。犬死は御免だ。

「面白き計画。是非共、お味方に加えてくだされ」と答えておいた。

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