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うつりぎ  作者: 西季幽司
戦国時代編
29/68

下剋上①

第二部で追加した作品

 まただ。武士に手籠めにされた。

 どうやら女の身でいる時、隙だらけに見えるようだ。直ぐに男に襲われる。上坂弥助という京極家の重臣の家に下働きとして上がった。

 京極家は名門だ。近江源氏と称され、家祖の佐々木定綱は源頼朝の旗揚げ以来の臣下だった。鎌倉時代末期には、バサラ大名と呼ばれた佐々木道誉という傑物が出る。元弘の乱に於いて、常に足利尊氏の盟友として行動し、五カ国の守護に任じられ、幕府の重鎮であり続けた。

 やがて佐々木氏は京極氏と六角氏に分かれたが、京極氏は出雲、隠岐、飛騨の守護を代々、務めている。

 佐々木定綱とは一緒に戦った仲だ。京の京極家の家臣の家で下働きの下女を探していると伝え聞き、女の身であった平九郎は懐かしさを感じて奉公に上がった。

 館の主は好色な人間であった様で、奉公を始めて三日目に、もう手がついた。

(まあ、良い。このような時期に色恋沙汰にうつつを抜かしているようなやつは、京極家に必要ないであろう)

 平九郎は上坂弥助と入れ替わると、女の身となり呆然とする弥助を屋敷から放り出した。

「何をする! わしは、この屋敷の主だぞ~‼」と喚いていたが、誰もが「可愛そうに。この女、気がふれたか」としか思わなかった。

 京極家はお家騒動の真っただ中にあった。

 世継ぎ争いだ。京極家の当主と嫡男が立て続けに亡くなった為、嫡子と庶子の間で争いが起きた。それに重臣たちが加わって、お家を二つに割る騒動が勃発したのだ。

 ここに登場するのが京極政経という人物だ。先代当主の三男で、庶子派として次兄が率いる嫡男派と争ったが破れ、出雲へ逃れた。だが、政経はめげない。出雲の兵を引き連れて上洛すると、嫡男派と争い続けていた。

 そんな時期だ。上坂弥助は政経配下の武将だ。女の尻を追い回している時期ではない。

 弥助と入れ替わると直ぐに、政経より呼び出しがあった。

 屋敷に駆けつけると、政経は近江に出陣していて不在で、奥方の常盤が「弥助よ。これに」と奥座敷に招き入れた。

 二人切りになると、「弥助。何故、もっと顔を見せぬ」と常盤が弥助にしなだれかかって来た。

 弥助は武よりも色に長けた武士であったようだ。

(ええいっ! 折角、武士になれたものを)

 呪ってみたが仕方がない。今度は常盤に成り代わった。

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