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うつりぎ  作者: 西季幽司
室町時代編
17/48

南北朝①

 新田義貞軍に属したことに深い意味はない。

 平九郎は武士だ。新しい体を得る為に、女になって男に抱かれることがあったが、平素は武士でいることが多かった。関東に盤踞し、坂東武者として生きて行くことに誇りを感じていた。

 そんなある日、関東に乱あり!――と聞いて駆け付けた先が新田軍だった。

 後醍醐天皇が北条氏打倒を目指して立ち上がった。一度は統幕の密計が幕府に漏れ、隠岐に流されたが、島を脱出、天皇の命を受けた楠木正成が千早城で挙兵した。

 平九郎は源氏の一門、新田氏の氏族、堀口氏の端に連なるものとして、堀口平九郎貞政と名乗り、新田軍に加わった。単騎で参陣した平九郎を侮りもせず、義貞は自ら出迎えると、「良き武者ぶりじゃ。存分に槍働きなされよ。期待しておりますぞ」と手を取った。一兵でも欲しい時期であっただろうが、平九郎は感激した。

 待ち望んだ動乱の世がやって来た。平九郎にとって、日頃、練り上げた武芸を披露する絶好の機会だった。腕が鳴った。

 幕府軍として楠木正成が籠る千早城攻撃に加わったが、義貞は病気を理由に帰国、足利尊氏と呼応し、北条氏に背き、関東で挙兵した。新田軍は反幕府勢力を糾合し、雪だるま式に増えながら鎌倉を目指した。

 分倍河原の合戦では、幕府軍相手に苦境に陥った。

 幕府軍の猛攻の中、平九郎は鬼神のごとき働きを見せた。槍を振るうと、幕府軍の武者が二、三人、束になって吹き飛んでいった。

「平九郎殿や良し。みなのもの、平九郎殿を見習え!」

 義貞は馬上、平九郎の槍働きを誉め、怯む味方を叱咤し続けた。

 平九郎の奮戦もあって、幕府軍を撃破することに成功すると、稲村ケ崎を突破し、新田軍は鎌倉になだれ込んだ。

 鎌倉は落ちた。呆気ないほどだった。北条高時以下、北条一族は鎌倉葛西ケ谷の東勝寺に集まると、自刃して果てた。

 ここに鎌倉幕府は滅亡した。

 平九郎たちは義貞について京に上った。北条氏を滅ぼした功により、建武政権下で義貞は厚遇された。義貞は戦に強く、兵に優しい。共に戦うに足る好人物であったが、平九郎にとって京での生活は退屈だった。

 平九郎は戦に飢えていた。

 やがて、関東に下った足利尊氏が独立の機運を見せた。後醍醐天皇の新政は武士の信用を失いつつあった。衆望は尊氏に集まっていた。

 後醍醐天皇より尊氏追討の命が義貞に下る。新田軍は鎌倉を目指した。

 戦だ。平九郎の胸が躍った。太平の世に飽き飽きしていた。義経について平氏を追い、一の谷から壇之浦まで転戦して回った記憶が蘇って来た。

 戦の場に身を置いている瞬間、平九郎は生きていることを実感できた。

 新田軍は箱根竹之下で足利軍と激突した。鬼神の如く暴れ回る平九郎を足利軍は遠巻きに見守るだけだったが、この合戦で新田軍は足利軍に破れた。

(何の。勝敗は時の運。まだまだこれからよ)

 大敗を喫したが、主従共々、戦意は喪失していなかった。

 勢いにのった足利軍は京を占拠した。新田軍は陸奥より馳せ下った北畠顕家と共に京に攻め入り、足利尊氏を京から追い落すことに成功した。尊氏は九州へと落ち延びた。

(尊氏の息の根を止めることができなかった。まだまだ戦は続くぞ)

 平九郎が危惧した通り、足利尊氏は息を吹き返した。

 九州から怒涛の勢いで攻め上ると、湊川の合戦で楠木正成を屠った。後醍醐天皇は京都を放棄し吉野に逃れ、義貞は北陸、越前へと逃げ落ちた。そして、金ケ崎城を拠点に尊氏への抵抗を続けた。

 足利尊氏は一族の斯波高経を越前の守護として、新田義貞の討伐に向かわせた。

 斯波軍の猛攻を受けて金ケ崎城は陥落、新田義貞は杣山城に籠った。

「まだまだ、これからよ――!」杣山城から打って出る新田軍の先頭には、常に平九郎の姿があった。新田軍は斯波軍を撃破し、斯波高経は足羽城へ逃れた。

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