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うつりぎ  作者: 西季幽司
鎌倉時代編
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元寇④

 豊前国京都郡宮市へやって来た。

 吉田三郎景清の領地だ。今川が切り開いた平地に田畑の広がる、のどかな場所だった。無論、宮市に足を踏み入れたのは初めてだ。

「拙者が案内して進ぜよう」と申し入れてくれたのは平井経康(ひらいつねやす)という若武者だった。

 赤坂の激戦の後、蒙古軍の追撃が始まった。そこで知り合った。気の良い若者で、御家人の経康は助平と身分が違うが、劉復亨を討ち取った助平の武勇を目の当たりにし、「見事な武者働きよ」と経康の方から声をかけてきた。「槍は得手なのだが、弓は今一つ」という経康を庇護する形で、助平は弓を射続けた。

 夜が明けると、蒙古軍が海上から消え失せていた。

「貴殿のお陰で存分に武者働きをすることが出来た。戦も終わりのようじゃ。これからどうなさる?」と経康に聞かれたので、吉田三郎景清の領地に行ってみたいと答えると、「豊前国京都郡宮市なら我が領地の隣、共に参ろう」と誘われた。

 景清が領地争いを抱えていた相手、平井経秀の子息であったのだ。

 領主とは言え、農家に毛の生えたような屋敷だった。景清の母と妹は、景清が戦で命を落としたことを聞くと、ひどく落胆した様子で悲嘆に暮れたが、戦で手柄を上げ、総大将の少弐景資より感状を賜り、近々、所領の加増があるはずだと伝えると、安堵の表情を浮かべた。

 無論、助平の手柄であることは伏せておいた。

 景清に頼まれた「困ったことがあれば仲津にいる叔父御を頼るように」という言葉を伝えた。

 寄る辺のない身だ。母子の期待が助平に向けられていることは手に取るように分かった。景清の妹、きぬは熊のようだった兄に似ず、たおやかで美しい女子(おなご)だった。

(こういう娘と所帯を持って穏やかに暮らすのも悪くない)と思ったが、平九郎は時の旅人だ。ひとつところに留まることなど、出来そうもない。

 平井経康には母子のことを伝えておいた。気の良い若者だ。ひどく同情した様子で、「拙者に出来ることがあれば何でも言って下され。助兵衛殿は命の恩人だ」と言ってくれた。

 平井経康と景清の妹は似合いの夫婦となるであろう。

 蒙古軍がまた攻めよせてくるやもしれない。総大将の少弐景資より、景清の母に戦死を伝えたら、直ぐに戻って来てくれと言われている。

 助平は後ろ髪を引かれる思いで、宮市を後にした。

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