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うつりぎ  作者: 西季幽司
鎌倉時代編
13/48

元寇③

 翌朝、蒙古軍は早良郡より上陸を始めた。

 百道原の東にある赤坂と呼ばれる丘陵地を占領すると陣を布いた。赤坂は足場が悪く、騎馬戦を得意とする日本軍には不利な場所だった。息の浜にて待ち伏せする作戦であったが、肥後の御家人、菊池武房の軍勢が蒙古軍に突撃して戦端が開かれた。

 助平は戦場を見渡せる場所に陣取り、戦況を見守った。出来れば槍を持って、景清と一緒に戦いたかった。

 吉田景清が馬の腹を蹴り、「やあやあ、我こそは豊前の国、宮市(みやいち)の住人、吉田三郎景清なり~! 鎌倉殿の命により、夷狄を征伐に参った。そこなる将らしき武将よ。良き相手と見える。我と槍を合わせん‼」と名乗りを上げながら蒙古軍に突入して行く姿が見えた。

 ところが蒙古軍は景清が単騎で突入して来るのを見ると、一斉に矢を射かけ、押し包んで討ち取ろうとした。

「戦の作法も知らぬ、うつけどもよ!」

 助平は駆けだした。槍を振り回しながら蒙古軍に駆け入ると、景清の馬に飛び乗り、そのまま馬首を巡らして戦場から一目散に離脱した。景清が戻って来た。無数の矢を受け、いくつも傷を負っていたが、どれも深手には見えなかった。

「大丈夫、浅手でござる」と励ましたが、景清は口からぶくぶくと血の泡を吹くだけで、言葉が出て来ないようだった。


――毒!


 毒だ。鏃に毒を仕込んであったのだ。

(なんと卑劣なやつらよ)

 助平の胸に怒りの炎が燃え上がった。一騎打ちの作法も知らず、多勢に無勢で押し包んで打ち取ろうとするやり方、鏃に毒を塗って敵を倒そうとする卑怯なやり方に腹が立った。

「母じゃを・・・きぬを頼む・・・」と言い残して景清は息絶えた。

 手早く甲冑を脱がすと身に着け、弓と槍を手に、馬に乗ると助平は蒙古軍へとって返した。「やあやあ、我こそは豊前の国、宮市の住人、吉田三郎景清が郎党、助兵衛(すけべえ)、わが主、景清の弔い合戦なり~!」

 激戦となった。日本軍は勇猛果敢に戦ったが、赤坂の丘陵から鳴らされる太鼓の音に合わせ、寄せては引く、全軍が一体となって行動する蒙古軍の前に苦戦を強いられた。一騎打ち、個人戦が主体の日本軍には連携を取って戦うという戦法がなかった。

 しかも、てつはうと呼ばれる轟音を発して爆発し、火炎を上げる見たこともない武器は、御家人たちの心胆を寒からしめた。

 ついには支えきれず、日本軍は敗走を始めた。ここが勝機と、蒙古軍の左副都元帥、劉復亨が討って出た。

 これを見た少弐景資は周りの者に「あれぞ大将首よ。誰ぞ、腕に覚えのある者はいないか? 討ち取って参れ!」と激を飛ばした。


――吉田三郎景清が郎党、助兵衛、わが主に代わり、討ち取って参る!


 助平は馬腹を蹴ると、劉復亨目掛けて駆けだした。

 あっという間の出来事だった。

 助平は劉復亨を囲むように疾駆する一団に横から責めかかると、続けざまに弓を放った。劉復亨の供回りの兵がバタバタと落馬する。守りに隙が出来た。助平は槍を手にすると、「ふん!」と放り投げた。

 助平の放った槍はものの見事に劉復亨の体を貫いた。

「あっぱれなり! 吉田三郎景清が郎党、助兵衛、見事な働きじゃ~‼」

 少弐景資の叫びが戦場に響き渡った。

 蒙古軍は動きを止め、退却を始めた。

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