記憶喪失の少女
「えっと、私は誰だ?」
助けた女の子はどうやら記憶がないらしく自分の名前も覚えていないようだった。魔物に襲われて頭でも打ったのかもしれない。
「えっと、何も覚えてないの?名前とかなんでここにいるかとか。」
「分からない。気づいたらこの森にいてこの森を歩いていたら突然魔物が現れたんだ。」
「それで、私が貴方を助けたと。」
女の子は小さく頷いた。待てよ、気づいたらこの森にいたということは魔物に襲われる前から記憶がなかったりする?とりあえずこんなところにいたら危ないし早く異形を倒してこの森を出ないと。
「とりあえずここは危険だから私と一緒に進もう。私の名前はルナ、よろしくね。」
私がそう言って手を差し出すと女の子も私の手を受け取ってくれる。しかし少女は何やら考え事をしていた。
「私の名前はどうしよう。ルナが決めてくれるか?」
そう言われても困ってしまう。私はなんとか彼女の名前を捻り出す。
「そうだ、霧の中で出会ったからキリノってのはどう?」
流石に安直すぎたかな?
「キリノか、いい名前だ。それじゃあよろしくルナ。」
キリノは私を見つめると微かにに笑う。キリノという名前を気に入ってくれたようで良かった。とりあえず私とキリノは森の奥へと進んで行く。
「そういえばキリノって戦えるの?この森にはすごい大きい異形がいて、それを今から倒しに行くんだけど。
「ああ、私は名前や自分の過去、なぜここにいたかは思い出せないがそれ以外の記憶はある。戦いもそれなりには得意だ。」
キリノはそう言って懐から銃を取り出す。私は本物の銃を見たことがないからとても気になってしまう。
「すごい。本物の銃だ。始めて見たよ。」
キリノは頭を傾げる。
「銃を初めて見た?ルナの地域では銃は珍しいものなのか?」
そうか、ここは異世界だ。別に銃もそこまで珍しいものではないのかも知れない。私は別の世界から来たことがバレては困るしなんとか誤魔化す。
「えっと、その何というか私の住んでた村はすごい田舎だったから。」
「そうか、銃はすごいぞ。こうやって使うんだ。」
キリノは私に銃を向けるとそのまま引き金を引いた。私は打たれると思い、身を構えた。
パンッと大きな音が森全体に響き渡る。
「うっ、あれ?痛くない。」
後ろを見てみると魔物の心臓が貫かれていて死んでいた。一瞬私が打たれたのかと思い、ヒヤヒヤする。
「大丈夫か?魔物に襲われそうになっていたぞ。」
「大丈夫だよ。助けてくれてありがとう。」
「ああ、しかし魔物はまだたくさんいる。戦えそうか?」
「グルルルル。」
「ガルー。」
さっきの銃の音のせいか私達めがけて大量の魔物が襲って来る。
私は炎の魔法を魔物に放ち、キリノが銃を乱射して魔物を撃ちまくった。キリノが撃った玉は途中で軌道を変えて一発で複数の魔物を撃ち抜く。銃で魔物を撃つたびに生々しい音と共に血が飛び散って気持ち悪くなる。しかし、そんなことを考える間もなくたくさんの魔物が襲ってくる。私は炎で魔物を燃やし続けるがこのままでは埒が明かない。
「ルナ、このままではキリがない。魔物を倒しつつ奥に逃げるぞ。」
「う、うん。今すぐ行くよ。」
私はキリノと一緒に森の奥深くへと進んで行った。
「はあはあ、なんとか逃げ切ることができたな。」
「もう無理、一旦休みたいよ。」
私達は魔物に気をつけながら一旦休むことにした。私は枝を集め、火をつけて焚き火をする。周りにはたくさんの魔物の死体があって気持ち悪い。狼みたいな魔物はまだいいけど虫のような見た目の魔物は気持ち悪くてあまり見たくなかった。
「それにしてもキリノって本当に強いんだね。」
キリノがいないとあの量の魔物を倒しきれなかった。というかキリノの撃つ弾は変な挙動をするし魔法でもかけられているのだろうか?
「ルナの方こそすごい魔法だったぞ。あの魔力量はなかなかのものだ。」
「私の魔法ってそんなに強いの?」
私以外の魔法を見たことないし魔力量とかもまだピンと来てないから私の魔法がどんなものかは自分では分からなかった。
「ああ、あの炎の強さでバンバン打てるのは相当強いと思うぞ。」
私はまだ魔法についてよく分かっていない。今度アンナにもっと魔法について教わろう。
「キリノの銃こそどうなってるの?変な挙動してたけど。」
「ああ、この玉には私の魔法がかけられてるからな。普通の銃よりも威力が高く、殺傷性も高い。」
キリノはそう言って弾丸を見せてくれる。確かにこの弾丸からは魔力を感じる。魔法について分からない私でも魔力を感じることくらいはできた。武器があったら便利だろうし私も何か欲しいな。銃もいいけどカッコいいし剣もアリだな。
「はあ、それにしても異形がいる場所にはいつ辿り着くんだろう。」
もうすでにかなりの距離歩いたがまだ異形には出会っていない。本当に異形がいるのか心配になってしまう。
「安心しろ、この奥からすごい嫌な気配がする。多分この奥にいるだろう。」
確かに奥からは悍ましい雰囲気がするし、何より匂いが強く吐きそうになる。
「そうだ、私を助けて名前までつけてくれたこと、本当に感謝する。」
キリノはそう言って私にお礼を言う。
「うん、キリノが無事で本当に良かったよ。」
「それでだ。ルナはこの森を出てからどうするつもりなんだ。」
「私はもう一人の仲間と薬を探して旅をしてるんだ。だからもっと奥の方へ向かうかな。」
アンナは今大丈夫だろうか。変なことはされてないと思うけど不安に思ってたらどうしよう。
「そうか、ここから先は本当に危険な区域だと聞くな。二人で大丈夫なのか。」
キリノは私達の心配をしてくれているのだろうか。
「まあ、なんとかするよ。それでも行かなくちゃだから。」
私がそう言うとキリノは少し顔を赤くしてもじもじする。
「その、なんというか私も一緒について行っていいか?私はこの後、行く先もないし一人だと怖いからルナと一緒にいたいんだ。」
キリノがそう言ってくれて私はとっても感情が昂る。
「私もキリノと旅がしたい!キリノは強いし優しいからキリノがいたら絶対楽しいよ。」
私がキリノの手を掴んで言うとキリノも嬉しそうに言葉を返す。
「ああ、よろしく頼む。」
これで私達は三人で旅をすることになる。私はそれが楽しみで仕方なかった。
「そういうことならさっさと異形を倒してこの森を出ないとな。」
「そうだね、早く行って異形を倒そう。」
休憩も終わったことだし私とキリノは森の奥深くへと足を踏み入れた。
「間違いなくこの先に大きな魔物がいる。気をつけろ。」
キリノは銃を構え、私もいつでも魔法を使える態勢を取る。キリノは走りながら奥へと突撃し、私もキリノの後ろを追う。
「グギュルルゥ。」
「いたぞ、絶対に油断するな。」
私達が突撃するとそこには巨大なゴキブリとカマキリのハーフのような姿の異形がいた。キリノは怯むことなく無数の弾丸を異形には打ち込んだ。私もキリノの後に続き異形には火を放つ。
「グギュルァァァ。」
「いいぞ、そのまま攻撃し続けろ。」
異形は燃やされて苦しむが一切攻撃の手を止めようとしない。私も油断することなく二発、三発と魔法を打ち続ける。
異形は口から毒を吐き、手の鎌で私達に襲いかかる。私は風魔法で飛んでくる毒を全て飛ばしながら炎を放ちまくる。
私達は交互に攻撃を交わしつつ、異形にダメージを与え続ける。
確実に効いてはいるがそれでも異形は私達に攻撃し続ける。さらに周りには他の魔物までおり、キリノはその魔物の相手までしていた。
「グギャァァァ。」
異形は口から糸のようなものを吐きキリノに飛ばす。キリノは他の魔物の相手までしていたせいで糸に絡まり身動きが取れなくなる。
「クッ、私のことは気にせずに異形を倒せ!」
私は無数の炎を出して異形を燃やすがやはり全然動きは止まらない。まずい、このままじゃ私もやられる。こうなったらキリノを助けて一度逃げるしか。
「ダメだ、私に構うな。」
私はキリノを助けようと糸を燃やそうとするが一才燃えず糸が取れない。
「いやだよ、キリノを放っておけるわけない。」
「でもこのままじゃルナまでやられてしまう。早く逃げろ。」
異形は再び私に向かって糸を吹く。私は咄嗟によけ、そのまま魔法の詠唱を始める。
こうなったらさっきエルフの男に捕まった時に使ったあの技を使うしかない。私はもう一度あの魔法を使うために全ての力を込める。
「なんでもいいからあの異形を倒せる魔法を!」
すると、その再び私の体から光が放たれる。でもこの光では異形を倒すことなんて出来ない。
「グギュルアアア。」
しかし、光を浴びた瞬間、異形は叫びながら悶え始める。さらにキリノに巻きついていた糸がサラサラと砂のように消えた。
「これで止めだ。」
糸から解放されたキリノは高く飛び上がり、異形の頭を銃弾で何度も打ち込んだ。
「グギャァァァ。」
異形は大きな悲鳴と共に体を崩壊させる。はあ、危なかったがなんとか勝つことができた。
「私としたことが油断した。ルナのおかげで助かったよ。」
異形を倒した影響かさっきまで大量にいた魔物もどこかにいなくなっていた。
「いや、キリノのおかげだよ。それより異形は倒したし、早くこの森を出よう。」
「そうだな。早くここを出よう。」
私達は急いでこの森を出ることにした。初めて大きな魔物と戦ったが案外何とかなるものなんだな。しかし、私にはあの光が何なのかがさっぱり分からなかった。
「それにしても今日は疲れたな。早く眠りたいぞ。」
そうだ、早くアンナをつれてこの森を出ないと。というか今日は宿を取れるのかな?
色々と不安はあったがとりあえず私はアンナを探しに元の森へと向かうのだった。
「チッ、せっかく大きな異形を設置したと言うのにあっさりやられるなんて。もっとこの森をぐちゃぐちゃにしたかったのに。」
割と大きめの異形を置いたのに、少女二人にやられるとは思わず苛立ちが隠せなかった。もっとエルフどもの苦しむ顔が見たかった。
「そんなのはどうでもいいだろう。それよりもここにも宝玉はない。早く次へ向かうぞ。」
ヴィースはそう言って私を睨みつける。こいつには面白みが一切ない。
「アンタに遊び心ってものがないわね。ちょっとくらい遊んだっていいじゃない。」
「お前はいつもそうやって変なことしかしてないだろ。魔人なんだから魔王様のことだけを考えろ。」
はあ、どいつもこいつも真面目なやつしかいない。魔人らしくもっと自由でいればいいのに。
「アンタこそ真面目すぎるのよ。アタシ達魔人は人を苦しめてこそなのよ。」
「はあ、何で俺がこんなやつと一緒に同行せねばならんのだ。」
それはアタシのセリフだ。これくらいの任務私一人でもこなせるに決まってる。
「別にいいじゃない、それより少し面白くなってきたわ。」
魔王様のために早く宝玉を探すのは勿論としてさっきの二人の少女はとても気になる。アタシ達魔人の恐ろしさを見せてやるんだから。




