次の旅路へ
まさかヴィースがやられるとは思わなかった。確かにアイツは魔人の中では一番弱いがそれでもまさかあんな小娘にやられるとは。宝玉こそ手に入ったが救世主二人を殺しそびれたし本当に腹が立つ。この天才のアタシをイラつかせるなんて。
アタシは重い扉を押して中の部屋へと入る。正直アイツらとは会いたくもないがしょうがない。
「あら?もうみんな揃っているのね。」
そこにはすでにアタシが招集した魔人が揃っていた。何か緊急事態があった時はこの会が開かれる決まりだ。まあ、いつも通り偽りと無はいないけど。
「おっ、お前今回の任務失敗したみたいだな。自称天才のソフィアさんよお。」
コイツは龍の魔人ロン。いつもアタシを見下してくるガキだ。雑魚の癖に口だけは達者だ。
「あのねえ、あの場には救世主が二人いたのよ。その上に何かとイレギュラーがあったの。本来なら余裕よ。」
「救世主?んなもん余裕だろうが。魔人は救世主なんかに負けねえんだよ。」
コイツは人の苦労も知らないで。アタシより弱いくせに。
「口なら何とでも言えるわ。それに宝玉はこの手にある。一応任務自体は成功よ。」
私達の目的はあくまで宝玉集めだ。とりあえずの任務は成功している。
「あらあら、流石ですねソフィアさんは。私達は魔王様の為に動けばそれでいいんですから。愛さえあればいいんです。」
コイツは愛の魔人アモル。何でも愛に結びつけるヤバい奴だ。その上魔王様のことしか考えてない。アタシと違って。
「それにヴィースさんははっきり言って弱すぎます。弱いものから淘汰されていくのは自然の摂理です。それに比べてソフィアさんはよく生きて帰ってこれましたね。よしよししてあげましょうか?」
コイツらはアタシのことを下に見ているようで本当に腹が立つ。
「別にいらないわ。それよりこれからについて話し合いましょう。」
「これから?んなもん適当に宝玉探せばいいだけだろ?」
「そんなこと言ってたら痛い目見るわよ。救世主もバカにならないわ。」
そう、救世主はありえない力を持っている。油断しているとヴィースの二の舞になるだけだ。特に月はヴィースとの戦いで覚醒してしまった。おそらくあの力はアタシ達にとっても十分な脅威だ。
「そうですよ。私達が魔王様に貢献するにはもっと気合いを入れないといけません。なので二人の救世主の情報を教えてください。」
「月と霧よ。どちらもまだ若い娘だったわ。月は今回の戦いで覚醒してしまったけど霧はまだ完全には覚醒してない。早い内に殺したいわ。」
霧に関しては記憶すら失っている状態だ。全てを思い出す前に殺しておきたい。覚醒した救世主は厄介だ。
「へえ、二人とも女の子なんだ?それは少し興味深いね。僕は女の子が大好きだからね。」
「ルクスリア、アンタまたこんなところに人間を持ってきてるの?いい加減その癖直したら?」
欲の魔人ルクスリア。コイツは女が大好きでよく貪り尽くしている。性的な意味で。その上に賭け事が好きなヤバい奴だ。コイツはいつも人間を連れ歩いてて気持ち悪い。人間と馴れ合うなんて気持ち悪いだけだ。
「意地悪を言わないでくれよ。僕は欲の魔人だ。それにこんなに可愛いんだ。そりゃあ連れ歩きたくもなるだろう?本当に女の子って素晴らしいよ。」
いや、その女助けてって呟いているが?
「それは分かりますよお。愛はとても大切なことですからね。混じり合うことでお互いに理解し合うことができるのですから。」
ねえ、この空間ヤバい奴しかいないんだけど。早くここから帰りたくて仕方ない。というか無と偽りは何してるの?偽りに関しては外見すら知らないし。
「それでソフィアが失敗したんだ。次は僕が救世主に会いに行ってもいいよね?」
「はあ?次は俺が行くぜ。そもそもお前はあの街から出ることねえだろ。」
「いやいや、私が行きたいです。私だってその可愛い子ちゃん気になります。」
はあ、コイツらとは本当に気が合わない。それにアイツらを倒すのはこのアタシだ。コイツらには渡さない。
「はあ、いい加減にして。救世主は後回しで宝玉探しの方が大事よ。これでやっと一つ目なんだから。」
「ふーん、そう言って君が殺したいだけじゃないのかい?」
「どうかしら。とりあえず貴方達も宝玉を見つけることね。」
今ある宝玉は一つ。成果を出してるのはアタシだけだ。
「チッ、偉そうにすんな。」
「まあとりあえず僕は自分の街に帰るよ。次会う時には誰も死んでいないことを祈るよ。」
「ええ、それではみなさんお元気で。魔王様の為に頑張りましょうね。」
二人の魔人はどこかへと消えていった。本当に騒がしい。
「はあ、やっと二人になれたなあ。それでお前は次どうするんだよ?」
「アタシは適当にフラつくわよ。別にそこまで魔王様の為に動こうとも思わないしね。」
アタシは世界の混沌が見たいだけ。別に魔王様の為に全てを尽くしてるわけではない。
「お前は変わらねえな。とりあえず薬草を渡せよ。」
宝玉を探すついでにロンに頼まれていた薬草を懐から取り出す。あれ、これだけしかなかったけ?もっとたくさんとっておいたと思うけど。
「はい、感謝しなさい。それと死なないことね。アンタは弱いんだから。」
「お前こそ死なないことを祈るぜ。クソザコソフィアがよ。」
「誰がクソザコよ。アタシは最強なんですけど?」
ロンもどこかへとさり、真っ暗な空間にアタシだけが残る。ああ、本当に腹が立つ。
「よくもこのアタシを怒らせたわね。絶対に許さないわ霧の救世主。」
あんな雑魚に時間を稼がれてそのせいで全てが狂った。あの女を絶対に殺して見せる。あれはアタシの獲物だ。
「アンナとももうすぐお別れなんだね。」
「ええ、寂しいですがこれ以上はナミを心配させてしまうので。」
「なんというかあっという間だったな。」
私達の目的は終わったしこれで別れるのは決まっていたことだ。しかし覚悟していたとはいえ辛いものは辛い。
「それでキリノさんとロイドさんはどうされるんですか?」
「私はルナと引き続き旅をするよ。今の私には他に居場所もないからな。」
キリノは強いし一緒に来てくれるのは嬉しい。
「俺はまた一人でぶらぶらするかな。まあ、どうせどこかで会うだろうけどな。」
ロイドはそう言って満面の笑みを見せる。ロイドの言う通りきっとどこかでまた会えると思う。
「そうだね、旅をしてたらどこかで会えるよね。」
しかしアンナの顔は曇っていた。
「それでも心配なんです。二人が危険な目に遭うのが怖くて。今回だってギリギリだったんですから。ですので二人が良ければ私の村で住みませんか?魔物もそんなにいませんし安全ですよ。」
アンナがそこまで私達の心配をしてくれていることにグッとくる。アンナの言う通りこの先は危険な道だと思う。それでも私は。
「ごめん、私憧れちゃたから。だからこの先も旅を続けるよ。」
アンナが私に自分の気持ちを伝えてくれたように私もまたその気持ちをアンナに伝える。やっぱりこの世界で私は自由に生きたいのだ。この世界の知らないことを全てを私はこの目で見たい。
「最初から最後までルナさんは変わらずですね。そんな貴方に私は憧れたんです。それなら約束してください。二人とも絶対に死なないと。」
アンナの目はまっすぐで迷いのない眼差しだ。
「もちろんだよ。それと定期的にアンナの村にも顔を出すから。」
「ああ、約束するよ。だからアンナも幸せに生きてくれ。」
私達三人はお互いの顔を見つめ合って笑い出す。そうだ、私は心の底から分かり合える友達が欲しかったんだ。本音を打ち明けられる友達が。
「ありがとうございます。二人に会えて本当に良かったです。この旅を忘れることはありません。」
「いやー、友情は熱いねえ。それで結局薬草は取れたのかよ?」
ロイドのその言葉に私は体が硬直する。なんかいい感じだったけど薬草はもうないんだった。私とアンナはこの世の終わりみたいな顔になる。
「そ、それが私のために薬草を使ったせいでアンナの妹の分はもうないんだ。本当にごめん!」
やっぱり今になって罪悪感が湧いてくる。
「もういいですよ。ルナさんは何も悪くないですから。」
そうは言ってもやはり罪悪感は大きい。というかさっきまでの感動の雰囲気がめちゃくちゃだ。私は罪悪感感で死にそうだしロイドは俺が悪いの?見たいな顔で見てるし。
「安心しろ、薬草なら私が持っている。」
キリノがポケットから取り出した草は間違いなくあの薬草だった。しかし何故キリノが持っているのか分からない。私達が薬草を取った時周りにはもうなかったはずだが。
「えっ、何でキリノが持ってるの?」
「実は知の魔人から宝玉を取り返そうとした時ついでに薬草があったから取っておいたんだ。」
私とアンナは一気に顔を明るくする。
「キリノさんすごいです!」
「キリノのおかげだよ。本当にありがとう。」
私にとってキリノは光そのものだった。もはや私よりキリノの方が救世主なのでは?
私とアンナは嬉しさのあまり思いっきりキリノに抱きついた。これで私達の目的は全て達成されたということになる。
「ふふっ、急にくっつかれるとびっくりするぞ。とりあえず二人が喜んでくれてよかったよ。」
こうやって楽しんでいるとやはり名残惜しくなってしまう。本当は三人でもっと旅をしたかった。
「それじゃあ今からアンナの村まで帰ろうか。」
「そうですね。帰るまでが旅ですので気を引き締めていきましょう。」
というか今からまたあの長い距離を歩くなんて地獄なんだけど。
「それでしたら私にお任せください。私の転移魔法で森の近くまでなら移動できますよ。」
さっきまで無言だったアンドレが突然口にする。なるほど、転移魔法であったからアンドレはこの遺跡まで来れたという訳か。何とも便利な魔法だ。
「本当ですか?それなら助かります。」
「ええ、アンナさんは私が森まで転移させましょう?お二人はどうしますか?」
その言葉に私は頭を悩ませる。この先の予定は特に決まっていないしどうしようか?
「うーん、これからどうしよう。まだ何も決めてないんだよね。」
アンナと一緒に森まで戻ってもあそこら辺は特になかったしそれならここでアンナと解散するのがいい気がする。
「おいおい、嬢ちゃん達この先のこと何も考えてないのかよ。」
ロイドは呆れたようにツッコミを入れるが私はこの世界に来てからずっとノープランで動いている。
「しょうがないじゃん、そもそも私この世界のことあまり知らないし。」
「私も何も知らないからこの先はまずいかもな。」
あれ?もしかしてアンナがいないのって相当やばかったりする?
「マジかよ。それなら少し話が変わるな。なら一つお前らに手伝ってもらいたいことがある。」
「どうしたの?何でも聞くよ。」
「実はナトゥラの西の方に獣人が住む森があってだな。そこに少し予定があるんだ。嬢ちゃん達もついて行くか?」
私はロイドの言葉に目を光らせた。この世界には獣人までいるのか。それは会ってみたい。それにロイドがいればこの先も安心できる。
「私はルナに任せるよ。」
「絶対行きたい!獣人って気になるもん。」
「決まりだな。それじゃあ次は獣人の森に向かっての旅だな。」
大自然ナトゥラ、それは他の大陸よりも未知の生命が多く自然豊かな大陸だ。ここもナトゥラではあるのだからどうやらもっと先の方ではより未知の世界らしい。
「獣人ですか。それは少しまずいかもしれませんね。」
「え?何か言った?」
「いえ、独り言です。」
アンドレが何か言ったように聞こえたが気のせいだろうか。次の旅は変な目に遭わないといいけど。
「名残惜しいですがここでお別れですね。二人ともご無事であることを願います。」
「ああ、アンナと会えて嬉しかったよ。」
アンドレが何やら魔法陣のようなものを展開してアンナはその上に乗った。
「この世界で最初に出会ったのがアンナで良かったよ。短い時間だったけどありがとう。」
私は率直にアンナに感謝を述べる。アンナがいたからこそここまでの旅ができたのだから。
「私も二人に出会えて良かったです。また会いましょうね。」
アンナは涙を流してそのまま消えていった。アンナの涙が頬に当たる。ああ、これが旅というもの。出会いと別れがあるものだ。しかしそれでも寂しものがある。
気がつくと私も涙を流しているのだった。
「大丈夫かルナ。もしかして怖気付いたか?」
「いや、そんなことはないよ。それじゃあ出発しよう。」
「ああ、ここから先が楽しみだな。」
私はキリノとロイドと共に未知なる場所へと向かうのだった。
これからも私の自由な冒険は続くのだから。




