月の光
「ルナさん、着きましたよ。さあ起きてください。」
女神様の声がゆったりと聞こえる。私は女神様の声と共に徐々に意識を取り戻していく。
「あれ、ここは?」
頭が痛くものすごい吐き気が私を襲う。私が目を開けるとそこにはとても顔色の悪いアンナがいた。
どうやらこちらの世界に戻ることが出来たようだ。とりあえずアンナが無事そうでよかったがアンナは涙を流して私に抱きつく。私が気を失っている間に何があったのだろうか。
「ルナさん意識を取り戻したんですね。本当によかったです。」
突然泣き出すアンナに困惑を隠せないがとりあえず私は今の状況を知りたかった。
「もしかして私、気を失ってた?」
だとしたら私はどれだけ気を失っていたんだろうか?
「はい、心配したんですよ。キリノさんはボロボロな状態で戦って、ルナさんは気を失うものですから私不安で仕方なかったんですからね!」
いつになく怒ってるアンナに私は何も言えなくなる。確かにあれは無茶しすぎたなと思う。それにしてもまだ少し重たいが目立った傷はなかった。アンナが治してくれたのだろうか?
「それで今はどうなってるの?」
「今はロイドさんとアンドレさんが力の魔人を抑えてくれています。キリノさんも何とか持ち堪えていますがそれでも今の状況は決していいとは言えません。」
まさか二人が助けに来てくれるなんて。どうやら私が気を失ってる間に大変なことになっていたらしい。みんなが頑張っている中、気を失うことしかできなかった私は苛立ちを隠せない。今すぐにでも立ち上がって力の魔人を倒さないといけない。
「それなら私も戦うよ。もう動けるし。」
ただでさえ気を失っていたんだし、ここからは頑張らないといけない。少しふらつく程度で他に支障はなさそうだ。
「それは無茶ですよ。いくら薬草を使って良くなったとはいえまだもう少し休んだ方がいいです。」
「え?今薬草を使ったて言った?」
その言葉を私は理解できなかった。アンナは何を考えているのだろうか。その薬草はアンナの妹に使うための物なのに。そのための旅なのに。
「はい、ルナさんはあの時薬草を使わない物危ないほどの重症でした。」
「いや、だとしてもこれは妹に使う物でしょ?これだと私達がここまで来た意味がなくなるじゃん。私のせいでアンナの妹が救えなくなるんだよ?それなら私のことなんて放っておいて良かったのに。」
だってアンナはずっと妹のことを心配していた。それにここまで辛い道のりを越えてきたのにそれが全て私のせいで無駄になるなんて自分を許せなくなる。
アンナはそんな私の手を優しく握るといつものように微笑んでくれる。アンナはどうしてそんな顔ができるのだろうか?
「いいんですよ。確かに妹の傷は治せないかもしれないですがここでルナさんを救えるのならそれでいいんです。私にとってルナさんもとっても大事な人ですから。」
その言葉に私は何も言えなくなる。私だってアンナとキリノが大事だから。しかしそういうことであればより私は動かなければならない。絶対にこの手で魔人を倒す。
「ありがとうアンナ、私の命を救ってくれて。それなら私は行くよ。これ以上みんなが傷つく所を見たくないから。」
だから私は前へと進む。それにさっきの戦いで剣の使い方は分かったし魔力も漲っている。覚悟もできているし今の私は負ける気がしなかった。
「もう、ルナさんはいつもそうですよね。それなら絶対に死なないと誓ってください。」
「もちろんだよ。絶対にもう迷惑はかけないから。」
私とアンナは互いに目を合わせて約束する。アンナは呆れつつもいつものように優しく笑ってくれる。その優しさに私は温かくなる。アンナもキリノも私にとっては大事な人だから守ってみせる。
私は剣を握ってヴィースの元へと向かうのであった。
「ふん、もう限界か?それなら終わりだ。」
「チッ、魔人はやっぱり強えな。アンドレまだいけるか?」
「ああ、救世主様が復活するまで持ち堪えてみせる。」
「もう遅い。」
ヴィースがロイドに向かって大きな拳を振りかざす。その拳は本来受け止めることなどできないほどの力と速さだった。しかし今の私ならそれよりも早い速度で動ける。
気づけば私はロイドの目の前でヴィースの拳を受け止めていた。さっきまでは苦戦していた拳も今は簡単に止められる。
「チッ、お前はまだ死んでなかったのか。やはり救世主は魔人にとって害でしかない。」
「おいおい、大丈夫なのかよ。まだ休んでた方がいいだろ。」
「そうですよ、まだ貴方は完璧に力を引き出すことが出来ていない。今の貴方では魔人には勝てない。」
二人は私を心配してくれるがここで引くつもりはない。
「もう大丈夫だよ。それより私があの魔人を倒すから二人はサポートをお願い。」
私は月の剣を構えてヴィースと再び対峙する。今の私なら魔人にも勝てるような気がする。というかさっきから力が溢れているがこれは薬草の力なのだろうか?
「そうかよ、だが無理だけはするなよ。」
二人は頷くとそのまま戦闘体制に入る。
いきなりヴィースは私に向かって攻撃してくるが私は剣で全てを受け止める。
一発一発が重く剣と拳がぶつかるたびに重低音が鳴り響く。それでも私は何度も攻撃を受け逆転できるタイミングを見極める。
私が攻撃を受け流してる間にアンドレとロイドが魔法を唱える。いくら魔人で三人相手するのはキツイはずだ。それに魔人だって完全な訳ではない少しずつでもダメージは蓄積されていると思う。
「おかしいな、少しずつ動きが速くなっている。それにその魔力。まさかお前!」
ああ、何故だろう。今は体がとても軽く、まるで踊っているようだった。痛みなどはなくただ体が高揚している。全ての攻撃がゆっくりに見える。
「ルナ、お前その目と光は。」
「まさか、覚醒されたのか。これが救世主の光。」
よく分からないが今の私には輝かしい光が纏われており、魔力も普段の倍以上に感じる。
「ヴィース、私は貴方を許さない。私の大事な人を傷つけた罪を受け取って。」
「黙れ、小娘が。」
ロイドは大きく叫ぶと同時に姿を消した。しかし私はどこから現れるか自然と分かっていた。
今までとは比べ物にならないほどの勢いで放たれる拳。私は魔力で自分を守りながら剣で拳を受け止める。ロイドとアンドレは吹き飛んだが私だけがその場に立ちヴィースの拳を受け止めていた。魔法の精度も今までとは比べ物にならないほど高まっていた。
「何?何故まだそれほどの力がある。」
「もう無理だよ。諦めて。」
「ほざけ、お前が諦めろ。」
確かに火力は高いが慣れさえすれば避けるのも容易い。そして私は少しの隙も見逃さない。
私は魔力を全て剣に集中させる。今までの分の怒りを全て魔人にぶつける。
「バカな、これが救世主の力とでもいうのか。まさかこれほどとは。」
私は月の光を纏った剣でヴィースを切り裂いた。するとヴィースは体を燃やしながら少しずつ消滅していく。体が燃えているのは魔人だからなのかこの剣の影響なのか分からない。とりあえず魔人に勝つことが出来てよかった。苦戦していた魔人との決着は案外一瞬だったな。
「どうやら俺はお前をみくびっていたようだ。しかしお前は他の魔人や魔王様には勝てないだろう。」
「いいよ、それでも私は戦うから。」
もし私の仲間を傷つけるのであれば私は他の魔人や魔王とだって戦う覚悟がある。
ボオオと静かな音は立ててヴィースの体は完全に燃え尽きていった。
ヴィースが完全に消滅したのを確認したところで私は地べたに倒れた。魔力が一気に尽きて動けなくなる。さっきあれほど使ったのだから当然だ。でも魔人を倒すことが出来て本当によかった。
アンナやロイドが駆け寄ってくる中、私は勝利を噛み締めていた。
体が重い。あれからどれほどの間戦っただろうか。体は悴んで魔力もほとんどない状態だった。
「もう、本当しつこいわね。何でまだ立っていられる訳?それに何で凍死してないのよ。私の氷は絶対零度なのに。」
ソフィアの氷魔法は確かに恐ろしいほどの冷気を纏っていたが何故か私にはそこまでの影響はなかった。それどころか今は体が軽くまだ戦える。魔力がなくても私には大量の爆弾がある。
「私はまだ負けるつもりはない。その程度では私は倒れない。」
私は銃を構えて、ソフィアと戦う。ルナの方がどうなっているかは分からないが私がここでやられる訳にはいかない。二人には絶対に近づかせない。
「ふふっ、ならもうこれで終わらせてあげるわ。ってこの感じ嘘でしょ?ヴィースったらやられちゃったの?」
ソフィアは突然魔法を止めるとその場で立ち尽くしていた。一体何があったのだろうか?
「ええっ、何であんな弱そうな奴に負けるのよ。信じらんないんだけど?いくら救世主とはいえ私達魔人なら勝てるでしょうよ。ああもう、予定が変わっちゃったじゃない。それなら今は戦略的に撤退するわ。」
そうはさせない。せめて宝玉だけでも取り返さないといけない。宝玉にはおそらくありえないほどに力が込められている。
「逃げるな、戦いは終わってないぞ。」
私は逃げようとする魔人の背後に周り、宝玉を奪おうとするが簡単に遇らわれてしまう。私が宝玉を奪おうと懐に手を入れた瞬間、魔法によって大きく吹き飛ばされる。いや、しかしこれは。
「今回は見逃してあげるけど次はこうはいかないから。それに今回はいい収穫だったしね。」
知の魔人はそのまま別の場所へと消えていった。とりあえず魔人はいなくなったようだし二人の元へと戻ろう。とりあえず二人が無事なことを心から安堵する。
「ルナさん、やりましたね。まさか本当に魔人を倒すなんて。」
「ああ、まさか嬢ちゃんにこれほどの力があるとはな。」
ああ、本当に私が魔人を倒したんだな。もう疲れたしあまり動きたくないけど。後さっきからアンナが抱きついてきてすごく重い。
「流石です。まさか救世主様のお力をこの目で見れるとは思いませんでした。」
「ねえ、本当に私が救世主なの?」
正直私が救世主だとは思えない。ヴィースを倒せたのも私一人の力ではないし。
「あの力は間違いありません。貴方は間違いなく月の救世主です。」
「それに戦闘中のルナさんは目が紅く光ってましたよ。」
「ああ、それに月のような光も放ってたな。」
周りからはそんなふうに見えてたんだ。戦ってる時とか気にしてなかったな。救世主って急に言われても実感がないし、今は戦いに終わったことの方が大事だ。
「とりあえずみんなが無事でよかったよ。ってキリノは?」
そう言えばキリノのことをすっかり忘れていた。キリノは一人で魔人と戦っていたが大丈夫だろうか?
「安心しろ。私も無事だ。」
ボロボロになったキリノがよろけながらも私の元へとやってくる。キリノも無事でよかった。これで私達の目的は終わったわけだ。
「キリノさん、その怪我で歩いたら危ないですよ。今すぐ回復しますので座ってください。」
「すまないな。それと知の魔人は逃してしまった。その上、宝玉まで取られた。」
「私からしたらキリノが生きてるだけ嬉しいよ。」
この戦いは正直死を覚悟してたからこうやってみんなの顔を見れるだけ幸せだ。後やっぱりキリノは強いなって思う。
「そうですよ。二人とも無茶しすぎなんですから気をつけてくださいね。二人の戦いを見ている時心苦しかったんですから。」
私もキリノも今のアンナには強く出られない。
「ロイドは怒らないのか?あの宝玉はロイドの仲間と手に入れた宝玉じゃないのか?」
「あー、別にそんなもん気にすんな。まあ魔人の手に宝玉が渡るのは少しまずい気もするが。」
その言葉に一番強く反応したのはアンドレだった。
「いや。もっと気にしてください!宝玉は危ないものなんですから。」
「いいじゃねえかアンドレ。今は生きてるだけ良しとしようぜ。そもそも魔人二人相手に全員生存は奇跡だろ。」
「それはそうですが。やはりこの先が少し危険です。」
「やっぱり宝玉ってそんなに危険なんだね。」
まだ宝玉の力をわかってない私からするとそこまで気にすることなのだろうか?
「そうですね。あれは言ってしまえば兵器のようなものですからね。」
思った以上にやばそうで私は何とも言えない表情になる。ま、まあその分得たものもあるから。例えばこの剣とか。私はずっとこの剣について気になっていた。
「ねえ、この剣は何なの?戦いの途中で手に入れたんだけど?」
私は改めてこの剣を手に取ってみる。この剣もただものではないような気がした。アンドレとロイドは興味深そうにこの剣を見る。
「ふむ、確かに不思議な剣ですが私には分かりませんね。このような剣を見たことはありません。」
アンナもアンドレもこの剣のことを知らないようだ。もしかしたらものすごいお宝なんじゃ。
「というかここずっといるのもあれだ。そろそろ出ないか?」
「そうですね。ということはもうお別れの時間なんですね。」
アンナはそっと寂しそうに呟いた。そうだ、私達はここでお別れになるのか。
私は何とも言えない気持ちになるのであった。




