その先が茨の道だとしても
「あれ、ここは?」
私が目を覚ますとベットの上におり、そこは見覚えのある光景だった。ここは間違いなく私の家だ。
私はさっきまで魔人と戦っていたはずだがどういうことだろうか?外を見てもやはり前の世界でしかなかった。ここは間違いなく退屈で飽き飽きしてた世界だ。というか私はこの世界で死んだはずだがどうなってるのか。それに私がいた世界はどこにいったのかも分からない。ルナとキリノは大丈夫なのか不安になる。
「月ちゃん、ご飯できたわよ。早く食べに来なさい。」
私が考え事をしていると一階からお母さんの声がする。この声も久々に聞いたような不思議な感覚だ。お母さんが大きな声で私を呼ぶからとりあえずご飯を食べることにする。それにしても何故私はこの世界にいるのだろうか?もしかしたら今までのことは全て夢だったと言うのか?夢にしてはあまりにもリアルだと思うけど。よく分からないが私は顔を洗って家族の元へと向かった。
「おはようお母さん。」
私が席に着くとお母さんが台所から出てくる。
「おはよう、月ちゃんは今日も可愛いわね。ご飯はできてるから早く食べなさい。」
この風景も懐かしく感じる。しかしこんな風景二度と感じたくなかった。私はもうあっちの世界で過ごすと決めたのに。とりあえず私はパンを頬張りながらこれからのことについて考える。
お父さんはすでに会社に出勤しており、朝日もまだ起きてないようだった。正直あれは夢とは思えないほどにリアルだと思う。あの楽しい日々を私は夢なんかにしたくない。それにもう二度と縛られずに生きていけると思ったのに。
「あら、全然食べてないじゃない。体の調子でも悪いの?」
「いや、大丈だよ。心配しないで。」
「心配するわよ。だって今日はテストの日でしょ?もしこれで月ちゃんの点数が低かったらいけないもの。月ちゃんは勉強していい大学に入るのよ。」
出た。お母さんはいつもこうだ。私を心配してるようで結局そんなことしか考えてない。優秀な私にしか興味がないんだ。お母さんはいつも私には甘やかしてくれるけど兄の朝日には本当に酷い対応だった。兄はそのせいでグレてしまった。私達の家庭内は最悪と言って良かった。
「お母さんは心配性だね。大丈夫だからもう学校に行くね。」
時計を見るとすでに登校する時間だった。本当は今の気分的に学校に行きたくなかったが家にいるよりはマシだった。それに周りを探せば何か分かるかもしれない。
「あら、もうそんな時間なのね。いってらっしゃい。」
「うん、それじゃあ行ってくるね。テストが終わったらお母さんの得意料理食べたいな。」
「あら、それなら今日はルナの大好きなハンバーグを作るわね。それじゃあテストも頑張ってね。」
思い出した。いつもお母さんが喜びそうな言葉を言って機嫌をとってたっけ。だから私はこの生活が大嫌いだったんだ。この世界の私に自由なんてなかった。
私は扉を開けて学校へと向かう。家の前ではすでに二人の友達が待っていた。
「やっほー月っち。今日も可愛いね。ほら、ぎゅーしよ。」
この子は菊。茶髪でボーイッシュな髪型の女の子だ。菊はいつものように私に抱きついてくる。この子はいつもスキンシップが多い。明るくて笑顔で私とは真逆なタイプだったな。
「ありがとう、菊も可愛いよ。」
「えへへ、ありがとう。」
「もう菊ってば月に迷惑かけてはいけませんよ。」
「むー、いいじゃん少しくらい。冷っちにもぎゅってしてあげるからさー。」
「も、もうそんなにくっつかれたら恥ずかしいです。それで月はテスト勉強しましたか?」
この子は冷。金髪のロングな女の子でとにかく優しい。いつも私やかで私とは気が合う。確かいいところのお嬢様だったはず。菊といっつも一緒にいるような気がする。
「うーん、まあ、それなりかな。いい点数取れれば嬉しいけど。」
菊と冷と一緒に私は学校の方に歩いて行く。私は友達がそれなりにいたけどその中でも特に仲良かった二人だ。ただ今はそんな二人との会話も上の空だった。私は早くキリノとアンナに会いたかった。
「月っちそんなこと言っていっつもテスト満点じゃん。私にもその学力を分けて欲しいよ。」
「もう、菊はどうせ勉強してないんでしょう?また赤点取って先生に怒られても知りませんから。」
「だってめんどくさいもん。二人とも優秀だからいいよね。」
「うん、そうだね。」
いつもならもう少し会話に花が咲くのだが今はとてもそんな気分ではなかった。これが本来の日常なはずだが私はここにいたくなかった。早く魔人を倒して二人を守らないと。
「何?もしかして月っち体調悪い感じ?勉強のしすぎなんじゃない?」
「大丈夫ですか?ちゃんと睡眠は取ってます?」
だめだ、今はもうあっちの世界のことしか頭にない。
「大丈夫だよ。それより早くしないと遅刻しちゃうかよ。」
やはりこの世界はつまらない。ただいつも通りをこなすだけの何も変わらない日常。私は未知の世界を二人と旅するのが好きだったのに。本当にあれは全て夢とでも言うのか。
「うわー、もう学校に着いちゃったよ。今日も一日頑張ろうね。」
私はぼーっとしながらも教室へと向かった。
「みんな、おっはよー。」
菊はドアを開けてクラスメイトみんなに挨拶する。菊はいつも元気で本当にすごい。今の私にはそんな気力はない。挨拶をしてくるクラスメイトに私は適当に返した。
「見て、あの三人今日も綺麗だわ。」
「なあ、星崎さんって本当に可愛いよなー。」
「家がお金持ちな上に親が医者らしいぜ。」
「マジかよ、俺今度告白してみようかな。」
クラスメイトはみんな私達を見つめるが私は無視して自分の席へと着く。そういえばこの変な目線も私は嫌いだった。
みんなが勉強している中、私はテストそっちのけで異世界に行く方法を考える。何か方法はないのか。それこそまた女神様に会えることが出来ればいいかもしれない。しかしそんなこと出来るのだろうか?もしかしたら夢の中でなら会えるかもしれない。一度寝るのもありか。
「何、また考え事してるの?やっぱり私が話くらい聞いてあげるよ?」
考え事をしていると再び後ろから菊が抱きついてくる。まあ、せっかくだし菊に聞いてみるか。
「ねえ、菊はこことは別の世界に行きたいと思ったことはある?」
「えー、急にどうしたの?私は今の生活で満足してるからいいかな。月っちはどこか別の世界に行きたいの?」
「うん、この世界は退屈だから。」
やはり私はおかしいのだろうか?それでも私はこの世界に飽き飽きする。
「そっかー、確かに月っちはいつも大変そうだもんね。困った時は私や冷っちを頼っていいんだからね。それじゃあもうすぐテスト始まるからまた後でね。」
菊はそれだけ言ってどこかに行ってしまった。本当に元気だな。私もテストの準備をするがやはり頭には何も入って来なかった。
「それでは今から一時間テストを始めます。皆さん諦めずに頑張りましょう。」
先生の合図と共に私は問題を解き始める。どれも簡単な問題ばかりでやはりつまらない。この世界には分かりきったことしかなく好奇心が揺さぶられない。
すぐに全ての回答を書き終えた私はあちらの世界に思いを馳せる。どうか二人が無事でありますように。
「ういー、それじゃあ学校も終わったことだしどこか寄ろうよ。」
あれからテストも全て終えて私達は帰る所だった。テスト中ほとんど別の考え事をしてたけど、おそらくテストは全て満点だろう。それにしても学校ってこんなに退屈だったっけ。前はもう少し面白かったと思うけどやはり本当の楽しみを知ってしまったからだろうか?
「いいですね、私も賛成です。」
「うん、楽しそうだね。」
本当は家に帰って方法を探りたかったが、今日は二人と遊びに行くことにした。
しかし学校を出ようとしたところで一人の女性に出会った。とても綺麗な女性だ。
「あんなに綺麗な人初めて見たよ。モデルさんかな?」
「ええ、オーラがありますね。」
二人が女性に目を奪われている中、私は驚きを隠せなかった。私はその女性のことを知っている。あの女性はおそらく。
「ごめん今日は二人で店に行って。私は用事ができたから。」
私はそう叫ぶと急いであの女性を追いかける。やはりあの世界は夢ではない。私はアンナとキリノは助けに行かないといけない。
「ちょちょ、急にどうしたの?待ってよ月っち。」
「急に急いでどこに行くんですか?」
私にはすでに二人の声は聞こえておらず、ただ私は女性を必死に追いかけていた。絶対に私は諦めないから。
「はあはあ、ここは一体どこ?」
追いかけた先は人気のない公園だった。しかし誰もいる様子はなく静まり返っていた。もしかして見失ってしまったのだろうか。あの女性は間違いなく私をあちらの世界に招いた女神様だった。私は女神様と話してもう一度異世界に飛ばしてもらわないといけない。
「あらあら、いいんですかこんな所にいて。ルナさんいや今は月さんでしたか。」
後ろから突然女神様の声が聞こえる。この人は本当にいつも唐突に現れる。
「女神様がどうしてこの世界に?」
「まあ、私は女神ですので。大抵のことは出来ますよ。」
女神様は初めて出会った時と同様に穏やかに笑っていた。いや、そんなあっさり言われても困るんですけど。
「というか私は死んだはずだよね?何でここに?」
「本来はダメですが私の禁忌の魔法でこの世界に戻したのです。貴方があまりにも不憫だったので。」
「いや、そんなことできるの?」
「ええ、そもそもトラックに轢かれた時貴方はまだ死んでいませんでした。ギリギリのところで私が回復させて異世界へと転移させたのです。私の転移魔法は死者でなければ何度でも行き来できますので。そしてその後に私の魔法で貴方はこうして普通に生活してるというわけです。」
女神様ってもしかしてかなりすごい人なのかも。
「それよりこの世界を楽しんでもらえましたか?」
穏やかに笑う女神様に対して私は余裕などなかった。
「女神様、私を異世界に戻して。私はこの世界にはいたくない。」
懇願する私に対して女神様は酷く険しい顔をする。まるでもっと現実を見ろと言ってるような顔だ。
「貴方は魔人に殺されかけたんですよ。今も貴方は死の間際を彷徨っています。だから私は優しさでこの世界に戻してあげたのですが。」
それなら尚更私はこんな所にいるべきではない。二人が苦しい思いをしているのであればすぐにでも助けに行かないと行けない。
「それでも私は異世界で旅をしたいの。お願い女神様。」
「あら、どうしてですか?この世界であればあなたは死にかけることはありません。私は反省しているのです。貴方のような若い子にあの世界は危険すぎたと。」
女神様は本当に申し訳なさそうな顔で私を見てくる。でも私は女神様に感謝してるのだ。二人に合わせてくれたことを。
「ここの世界は私とは合わない。それに私はあっちの世界で大事な仲間を見つけたから。魔人は私が倒して二人を救うの。」
それだけは絶対に譲れなかった。
「はあ、貴方と言う人はなんとも無謀ですね。言っておきますがこれから先は何度も危険な目に遭うでしょう。魔人というものは恐ろしいですからね。しかしこの先この世界に帰ってくることは出来ません。文字通りここから先は茨の道ですよ?」
それでも私は歩き続ける。道があるなら進むのが私だ。
「大丈夫。もう覚悟なんてとっくにできてるから。」
私の意思を感じ取ったのか女神様は呆れたように笑う。
「貴方は大物ですね。もうこの世界に未練はありませんか?」
未練はないかな。菊と冷ともおしゃべりできたし。
「ん、大丈夫。」
「なら、今すぐに異世界まで飛ばしてあげましょう。ですが無理はせずにどうかご無事でいてください。」
「ありがとう女神様。もちろん無理はしないよ。」
「では目を瞑ってください。」
私は静かに目を瞑る。確かにこの世界にも楽しいことはあったけど今日でもうおしまいだ。今日一日この世界にいてここは私のいるべきでは場所じゃないって分かった。私はもう魔人と戦うと決めたから。二人とも待っててね。




