絶対絶命
「それじゃあここで死になさい。」
ソフィアが魔法を唱えると同時に冷気が広がり空間全体が凍りつく。
ソフィアは容赦なく私達に向けて魔法を放ってくるが私は痛みでここから動くことができずにいた。ソフィアに刺された所から血が溢れ出し、少しずつ意識が薄れていく。早くここから出ないと行けないのに苦しくてここから立つことすらできない。
「アンナ、ルナの回復は任せた。私が時間を稼ぐ。」
「分かりました。キリノさんも無茶だけはしないでくださいね。」
キリノは銃を構えて、二人めがけて乱射する。いつもより目は青く光っており、静かに怒ってるようだった。
「アハっ、その程度でアタシに勝てるとでも思ってるの?いいわ相手してあげる。ヴィースはそこで見てなさい。」
「はあ、お前というやつは本当に。なら俺はもう一人の方を相手しよう。」
ソフィアの氷魔法とキリノは銃が当たって何度も爆発を起こす。無数の氷の矢を放つもキリノは全て交わしながら銃弾を打ち込む。
「アハハ、もっと本気出しなさいよ。守ってばっかじゃアタシは殺せないわよ。」
「ふん、ここからが本番だ。」
二人はさらに速度を上げて弾幕合戦を始める。
キリノが頑張って魔人と戦っているのに私が何もできないのが心底悔しい。私だって今すぐ助けに行きたいのに。
「アンナさん大丈夫ですか?今すぐ回復しますから。」
アンナは焦った様子で私に駆け寄ると服を捲って何やら呪文を唱え始めた。
アンナが手をかざすと魔力のようなものが体に染み渡り痛みが少しずつ和らいでいく。アンナの回復魔法のおかげで少しは動けそうだがそれでもこの状況を返せそうにはない。早くいい作戦を思い付かねば。
「怪我も和らいだし私も戦いに行くよ。このままじゃキリノが危ないから。」
私は立ち上がってキリノの加勢に向かおうとするがアンナが私の手を掴んで離さなかった。
「ダメです。まだ動いたら危ないですよ。」
「でも戦わなきゃ私達死んじゃうよ。」
「その通りだ。お前達はここで死ぬ。」
目の前にはヴィースがおり、すでに私には戦う以外の選択肢はなかった。まだ少し傷が痛いがそれでも私は立ち上がった。アンナは心配そうな顔で私を見つめるがアンナを守るためなら私はなんだってする。
「そもそも宝玉は手に入れましたよね?どうしてまだ私達を殺そうとするんですか?」
「最初は宝玉を奪うことだけが目的だったが魔王様の障害になりそうなお前は先に殺しておく。」
「なら私だって負けるわけにはいかない。貴方達を倒して宝玉も返してもらう。」
「そうか。なら死ね。」
ヴィースの拳は私めがけて飛んでくるがある程度動きを見た今なら避けること自体は簡単だ。あの拳は当たったら間違いなく致命傷になるが当たらなければいいだけ。相手の攻撃を交わしつつこちらの攻撃だけ当ててしまえばいい。
「燃え盛れ炎よ。」
私は出せる限りの炎をヴィースに放つがヴィースは避けることなくそのまま直撃した。しかし体格のせいか魔人だからか分からないがあまり効いてるようには見えない。
「その程度では魔人は殺せん。」
これが魔人の強さか。おそらく今の私ではどうやっても勝てないだろう。何かいい方法を探すしかない。
炎が効かないなら別の魔法で攻撃すればいい。いくら魔人とはいえ確実に弱点はある筈だから。
「それなら次は別の魔法を使えばいいだけのこと。雷鳴よ、鳴り響け。」
今度は雷魔法を詠唱して雷撃を放つがやはり効いてる様子はない。何かの魔法なのかただの屈強なだけかも分からない。
「だから無駄だと言っているだろう。貴様の力が覚醒するまでに殺してやろう。」
そう言った瞬間ヴィースが視界から消え、その次の瞬間には私の目の前に現れて拳を振るっていた。
「危なっ!死ぬかと思った。」
私はギリギリで避けたがこれじゃあ埒が明かない。おそらくまだ本気も出してないだろうしこのままじゃ全員やられてしまう。
私は何かいい方法は無いのか考えるしかなかった。
まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。私は二人がボロボロになるのを眺めることしか出来なかった。悔しさのあまり吐きそうになる。
キリノさんは知恵の魔人と互角の戦いを繰り広げてるが魔人は余裕そうなうえキリノさんの体力も長くは持たなそうだった。ルナさんも魔人と戦っているが明らかに押されていた。どうしてこんなことになったのだろうか。
最初はただルナさんと二人で旅に出て薬草を取りに行くだけだけで魔人に遭遇するとは思わなかった。ルナさんに助けられてから旅を始めて本当に楽しかった。旅の途中でキリノさんやロイドさんのような優しい人と出会えていろんなことを知れて幸せだったというのに。どうしていつも私から大切なものを奪うのだろうか。魔人の理不尽さと私の無力さに腹が立つ。
本当はルナさんが神秘の遺跡に行こうとした時止めるべきだった。でも外の世界を見たいという好奇心とナミを助けたいという気持ちが私を突き動かしてしまった。私はどうなってもいいけどルナさんとキリノさんだけは無事でいて欲しい。二人とも私のために行動してくれて私なんかを守ってくる。そんな優しい二人だから幸せに生きてほしかった。
だけど魔人には絶対に勝てない。ただでさえ魔人と遭遇したら終わりだというのにそれが二人もいるなんて死を覚悟するしかない。二人とも強いが魔人には到底及ばない。魔人の恐ろしさは私が一番知っているから。
それにルナさんもキリノさんも頑張って魔人と戦っているというのに私は何も出来ないのがもどかしい。せめて私が何かできればこの状況を少しでも打開することができるかもしれない。少しでも二人の負担を減らせたら。
私の出来ることを考える。何か私でも役に立てることがある筈。私は辺りを見渡して何かないか探した。
鞄を探したが特に役立ちそうな武器はなく私が使える魔法も回復魔法しかない。
宝玉があればもしかしたら魔人にも効くかもしれないが宝玉は魔人に奪われている状況だ。となると他に何か武器でもあればいいかもしれない。
そこで私は大樹に書かれていた文字を思い出す。この大樹が月に照らされた時、大樹は剣となるだろうという文字に何か隠されているかもしれない。かなり安直だが今はできることなんてこれくらいしかない。
「ルナさん、天井を思いっきり破壊することって出来ますか?」
私はルナさんに届くように大きな声で叫んだ。
「できると思うけどどうしたの?」
「もしかしたらこの状況をひっくり返せるかもしれません。どうかお願いします。」
もし違ったらルナさんが無駄に魔力を消費するだけでより私達に勝ち目はなくなる。ただ私はもうこれに賭けるしかなかった。
「そういうことなら任せて。」
「おい、何するつもりだ。」
ルナさんは魔法を詠唱し天井に向けて出せる最大の火力を放った。ドカンと大きな音と共に天井が崩れ始める。この場所はかなり深い筈だがいとも簡単に壊すとはさすがルナさんの魔法だ。
月の光が漏れ出すと突然大樹が輝き出した。大樹は月の光で輝くと同時に剣へと姿を変えていく。私の思った通りだ。これならもしかしたら魔人にも勝てるかもしれない。
「わっ、何これ?」
アンナに言われた通りに天井を壊すと月の光と共に大樹が剣に変わった。よく分からないが私は剣を取ると再びヴィースと対峙する。
剣を握るのは始めてだがなんだか手に馴染む。剣を握ると魔力が流れてきてさっきよりもより少し体が軽い。
「なんだその剣は?」
私は剣を構えてヴィースに斬りかかる。さっきまでの戦いとは違いヴィースの拳を剣で受け止めながら剣に魔法を纏って斬りかかる。先ほどよりも格段に戦いやすくなってる。
「武器を持ったところで何も変わりはしない。」
しかし剣で斬りかかるが体が鋼のように固く結局あまり効いてるようにも見えない。あまりにも肉体が強靭すぎる。他の魔人もこうなのだろうか?
「ルナさん、凄いです。魔人相手に戦えてますよ。」
アンナの言う通り魔人とも戦えているがこのままじゃ結局私が負けてしまう。それにまだこの魔人は本気を出していない。
「はあ、人間のくせに小賢しい。こうなったら俺も本気を出そう。」
ヴィースは拳に力を込めるとそのまま地面に叩きつけた。すると大きな揺れと共にダンジョンが崩れ始める。
「嘘でしょ?そんなことある?」
まさかまだこれほどの力を持ってるとは思わないじゃん。地面が揺れて私は立ってるだけで限界だった。
「ちょっと、アンタ何するつもり?こんなところで本気出すんじゃ無いわよ。」
「うるさい、こいつらはここで潰す。」
どうやら本気で私達を潰す気のようだ。私も剣を構えて次の攻撃に備える。ヴィースはさっきまでとは比べ物にならいない速度で突っ込んでくる。なんとか剣で防ぐが一発が重く防戦一方だった。
「ふん、そんなものか。」
ヴィースは冷たい眼差しで私を見下す。だけど私にだって覚悟はある。この世界にきて私は自分のやりたいことを全てやると決めたのだから。みんなを守りたいしこれからも旅に出ていろんな景色を見てみたい。だからここで魔人を倒す。
「まだ諦めない。魔人は絶対に私が倒す。」
こんなところで諦めるわけにはいかない。その思いが届いたのか突然剣が光出した。
「ルナさん、その光はまさか。」
まるで月の光のようだった。光の影響かさっきまで消耗していた魔力も回復していく。
体は軽く今なら無限に戦えるような気がする。私は攻撃を全て交わして敵の背後へと回った。それと同時に剣を振り翳し、左腕を切った。今なら倒せるかもしれない。今まで一番手応えを感じた。
「なんだと?まさか人間程度にやられるとは。」
しかしヴィースはすぐに左腕を再生するとそのまま殴りかかってくる。やはりその程度で魔人はやられないか。おそらく心臓を狙わないといけない。
「くっ、早い。」
ヴィースの動きも先ほどよりも明らかに速くなってるしそれ以上に私の体が持たない。もう立ってるだけで限界だ。剣を持ってから明らかに体の消耗が激しい。これが代償かもしれない。
「ふん、これで終いだ。」
気がつくと私の目の前に拳があり避けることなど出来なかった。もしかして私死んでしまうのだろうか。
よく分からないが突然吹き飛ばされ、頭が真っ白になる。もう今の私に何か考えることは出来なかった。
アンナがものすごい表情で私に迫ってくるがもう意識が持たない。二人ともごめん。
ここで私の意は途切れるのであった。




