魔人との遭遇
「ねえ、ここはどこなんだろう?ものすごい距離歩いたと思うんだけど。」
とてつもなく長い階段を登りきり私達は入り口を目指してずっと歩いていた。しかし一切たどり着く気配がなくもうすでに限界であった。というか明らかに塔の大きさを超えてるし何か魔法がかけられているのかもしれない。
「ああ、明らかにこの塔はおかしい。なんらかの罠が仕掛けらてる可能性があるな。前来た時はこんなことなかったからお手上げだよ。」
元冒険者のロイドですらお手上げならかなり詰んでるような気がする。もう体力も限界だしモンスターもいっぱい襲ってくるし一度休みたい。
「とりあえずあの二人とは合流しておきたいな。何かいい方法があればいいんだがな。」
「もう一度宝玉の力を使うってのは?」
「バカか、そんなことしたらどんな目にあうか分からねえだろ。そもそも宝玉の影響でこうなったってのに。」
確かに不思議な力を持つ宝玉を使ったせいで今この状況になっているんだからもう一度使ったら今度こそ私達は死んでしまうかもしれない。でもこのまま歩いてもキリがないよ。私が転移魔法でも使えたらよかったんだけどね。
「ねえ、なんか丁度良い魔法ないの?ワープできる魔法とか。」
「そんな魔法はねえ。俺はそんな器用な魔法は使えないんだ。」
「それなら魔法で壊しながら進むとか?」
「なんでお前はそんな脳筋なんだ。黙って大人しく進むしかないんだよ。」
私はなんとか楽する方法を考えるが全てロイドにあしらわれる。結局私はロイドに無理やり引っ張られ奥へと連れて行かれるのだった。
「いや、にしても長いな。これは何者かに操作されてる可能性があるな。」
何かを考えだしてるロイドを眺めため息を吐く。迷いの森の時も森全体がアンドレに操られていたし、今回もまた誰かによってこの塔全体が操られているとでもいうのか。どうして私の旅はこうも波瀾万丈なんだ。
というか魔法がかけられてるとしたらいくら歩いても無駄じゃない?ちょっとくらい休んでもいいよね。
「よっと、少し休もうよ。」
私は地べたに座り一休みしてここから出る方法を見つけることにする。もしこの塔を操っている者がいたとしてアンドレの時みたいに姿を現してくれないと一生このままの可能性がある。だからこうやって休むのも作戦ということだ。
「おいおい、だから休む暇はないだろ。俺たちは早く出ないと。」
「もしかしたらこの塔に魔法をかけた奴が私達を探してる可能性だってあるじゃん。ならここで待ってた方が良くない?」
とりあえず私は一度休みたくて仕方ない。呆れるロイドを無視して私はここで待つことにする。ロイドはせっかちなんだから。
「ルナは本当に自由だな。どうなっても知らねえぞ。にしてもこうなったのは全部こいつのせいだ。」
ロイドは再びポケットから宝玉を取り出す。あれからしばらく経ったからか、月のような光を照らしており本当に宝玉なんだと思い知らされる。
「ねえ、私も少し触ってみていい?」
「ああ、別に構わないぜ。絶対に壊さないでくれよ。」
私はロイドから宝玉を受け取って軽く握りしめた。すると宝玉が今までにないほどの光を放ち始める。
「うわあ、急に光った。」
あまりにも急に光るから私は焦って宝玉を落としそうになる。急に光初めてどうしたんだろうか。
「おい、絶対に壊すなよ。それにしてもこの光はなんだ?一体何をしたんだ?」
疑問の目で私を見つめるロイドに私は狼狽えることしかできない。というか私が一番知りたいんですけど。私はちょっと触っただけだもん。
「知らないよ。急に光っただけで私は何も知らないから。」
「宝玉がルナに反応して光ったということはまさかルナは。いや、そんなわけないか。」
ロイドはぶつぶつ考え事をしてるけどそんなものより早くこの光をどうにかしたい。月のように神々しい光が私を照らして眩しい。
「とりあえず宝玉を俺に渡せ。今すぐここを出るぞ。」
「う、うん。とりあえず返すよ。」
本当はもっと休みたかったがロイドは急いでるようだったし進むことにした。
「ドオオーン」
しかしロイドに宝玉を返そうとした時、すごい音が鳴り後ろを振り返ると壁が壊れていた。そこには大きな男が立っていた。
「やっと見つけたぞ。命が惜しければその宝玉を俺に差し出せ。」
何故だか大男の威圧感に私は立つだけで精一杯だった。ドクドクと心拍数が上がっているのが分かる。明らかに今まで会ってきた者とは違う何かがある。
私は初めて感じる恐怖に体が動かなかった。
「はあ、それにしてもかなり歩きましたね。現在地がどこか分かりませんし二人の姿もまだ見えません。」
あれから引き続きキリノさんと行動して二人を探していたが見つかることはなく、それどころかここがどこかも分からなかった。これは単純に塔が大きいわけではなく、明らかに何らかの魔法がかけられていた。おそらく地形を変化させる魔法だと思う。何故私達の旅はこうもめんどくさいことになるのか。
「このままではキリがないな。何かいい方法はないのか?」
「方法としては術を破るか術を書き換えるくらいしかないと思います。それかルナさんのいる方角さえ分かればもしかしたら。」
とりあえず私の魔力では術を書き換えることは出来ない。大方な範囲さえ分かればもしかしたら私の魔法でルナさん達に辿り着けるかもしれない。でもどうやって。
「ああ、ルナの方角であれば分かるぞ。あっちの方だ。」
キリノさんはそう言って壁の方へ指を向ける。何故分かったのだろうか。
「何か根拠とかあるんですか?」
「実は私は月の塔に来てからずっと変な感覚だったんだ。何かモヤモヤするような変な感覚だ。」
私は別にどうにもなっていないが何かあるのだろうか?いや、まさか。
「もしかしてその感覚って月に照らされてるような感じですか?」
私の大声にキリノさんはビクッとなりながらも静かに頷く。
「ああ、まさにその通りだ。」
それなら二人に会うことができるかもしれない。それにしてもルナさんもキリノさんも本当にすごい。
「あちらの方向ですね。すぐに魔法の準備をしますのでキリノさんも手伝ってください。」
「ああ、私にできることなら何でもしよう。」
私はすぐに転移魔法の準備をする。それにしてもまさかルナさんだけでなくキリノさんまでとは思いもしなかった。こんな偶然があるなんて信じられない。
ともあれこれでルナさんの元へ向かえる。早く二人の元に向かわないと危ないような気がする。多分だけどこの塔に魔法をかけたのは魔人だ。だとすると本当にまずいことになる。ナトゥラにいる力の魔神は今のルナさん達では敵うはずがないから。
「待っててくださいルナさん。今すぐに助けますから。」
「とりあえず名乗れよ。この宝玉を渡す気はないけどな。」
ロイドは私を庇うようにして男の前に立つ。私は怯えながらもいつでも戦える体制に入る。宝玉を渡すつもりなんてない。
男は私達を睨みつけながらもゆっくりと口を開く。
「俺はヴィース、力の魔人だ。貴様らが宝玉を渡す気がないと言うのであれば力ずくで奪う。」
聞き間違えだろうか。力の魔人ってアンナが言ってた世界に七人しかいない魔神の一人だ。なんでそんな魔人がこんなところに。
「おいおい、こんなところで魔人に会うとはな。だが宝玉は渡す訳には行か。」
「遅い。」
ロイドが言い終える前にすでにヴィースはロイドの前に移動しておりとてつもない勢いでロイドめがけて拳を入れる。
私は一切目で追うことができなかった。なんて強さなのだろう。これが魔人の力か。
「ぐっ、なんて速度と威力だ。ルナ、お前だけでも早く逃げろ。宝玉だけは絶対に渡すな。」
ロイドはギリギリでヴィースの攻撃を受け止めるがロイドに余裕はなかった。
「ほう、なかなかやるな。だが甘い。」
ロイドは再び防御の体制に入るがヴィースが拳を振るった瞬間ものすごい勢いでロイドは吹っ飛ばされていく。
「ロイド!」
「他人の心配をしてる場合か?早くその宝玉を渡せ。」
私はヴィースの攻撃を交わして魔法を唱える大勢になる。いくら魔人相手でも逃げはしない。というか逃げようにも逃げられないし。
「なんで宝玉が欲しいの?これは私達が手に入れた物なんだけど。」
「全ては魔王様のため。貴様ら人間には分からないだろうがこの宝玉にはとてつもない力が秘められている。だからさっさと渡せ。」
魔人の目はとても冷たく私は冷や汗をかく。なんとかここから逃げないといけない。
「嫌だ。魔人の言うことなんか従わない!」
「ならば殺して奪うだけだ。」
再び攻撃がくる。私は敵の攻撃をよく見て避けることに集中する。相手の攻撃を避けつつ、私も反撃にかなりの力を込めた炎魔法を唱える。
「いい攻撃だ。しかしその程度魔人の敵ではない。」
間違いなく今までで一番強い魔法を最も容易く弾かれ私は頭が真っ白になる。これが魔人の強さなのか。確かに今の私じゃ勝てそうにはない。
こうなったらもう一度宝玉の力を使うしかない。
「宝玉を渡すつもりはないから。これ以上動くなら容赦はしない。」
「何をするつもりだ小娘。」
私は宝玉に手をかざし、ありったけの力を込めてヴィースに向ける。すると宝玉は光出してヴィースに放射する。
「チッ、何だこの力は?これはまさか月の力か。」
よし、光の影響かヴィースの動きが止まった。さすがは宝玉の力。
「ぐっ、だがその程度ではどの道変わりはしない。終わりだ。」
再び私に向かって飛んでくる攻撃を交わそうとするがそもそも攻撃が私に来ることはなかった。ロイドがヴィースの攻撃を防御魔法で止めていたのだ。かなり遠くに吹っ飛ばされたはずだがピンピンしていた。
「ロイド、吹っ飛ばされたはずじゃ。」
「おいおい、この程度じゃ俺はやられないぜ。それより今だ、ぶっ放せキリノ!」
「ああ、私に任せろ。」
ヴィースの後ろに突然現れるとキリノはそのまま引き金を何度も引き、容赦なく弾丸を打ち込んだ。流石の魔人も無傷とはいかない筈だ。キリノ達が来てくれなかったら危なかったよ。
「今は少々分が悪いようだな。ここは一旦退くとしよう。」
「待て、逃すか。」
逃げようとするヴィースにキリノは瞬時に弾丸を打ち込むが弾が当たることはなく気がつくと魔人の姿はなくキリノの弾丸だけが残っていた。しかしそんなことはどうでもよくて私は地べたにぺたんと座っていた。
それにしても魔人があれほどの恐ろしさだとは思いもしなかった。正直私は役立たずだったしもっと魔法を極めないと冒険はできないかもしれない。そう思うほどに魔人との力の差を感じた。
「ルナさんご無事でしたか?怪我があるなら回復します。」
すごい勢いで涙目のアンナが抱きついてくるがまあ私は元気だ。それよりロイドのほうが心配だ。
「私は大丈夫だからロイドの怪我を治してあげて。」
「いや、今はまだ回復しなくていい。そんなことより早くこの塔を出ることが先だ。」
ロイドは冷静に今の状況を見ていた。確かに早くここを出ないといつ魔人が現れるか分からない。それにさっき宝玉の力をまた使ったから何か変なことが起こるかもしれない。
「分かりました。それでは向かいましょう。」
私達はロイドを支えながら出口を急いで探すのだった。
「はあ、宝玉を奪えなかったの?信じらんないんだけど。」
月の塔を出るとそこには明らかに機嫌が悪そうなソフィアがいた。
「宝玉の力を使われるとは。しかもあの場には救世主もいた。」
まさかこんなところに救世主がいるとは思わなかった。面倒なことだ。
「救世主ねえ、そんなのアタシ達の敵ではないわ。」
「正直人間を舐めすぎていた。大体の人間は魔人に恐れをなす物だと思っていたがなかなかやる者もいるんだな。」
それにしてもあの少女が放った月の光は間違いなく救世主の力。それが知れただけ大きな収穫だろう。次は確実に仕留める。
「せっかくアタシがあいつらを閉じ込めてドラゴンまで蘇生してあげたというのになんて体たらくなの?それにその間私暇だったんだからね。暇すぎてずっとゲームしてたんだから。」
ソフィアはそう言って文句を吐き続ける。こいつは本当にガキだな。こいつの魔法は最上級だがいかんせん性格に問題がある。
「そんなに怒るな。それより次の作戦を考えるぞ。俺たちは魔王様のため早く宝玉を手に入れないといけない。」
それに早くこんな奴と別れたい。こいつは我儘ばかりで疲れる。
「それならアタシに任せなさいよ。この叡智の結晶の私がいい策を思いついてあげる。」
「どうせ碌なことではないだろう。まあお前に任せるが。」
こいつの考えは碌なことじゃないがこの際こいつの作戦に乗ってやろう。俺は魔王様の役に立てさえすればそれでいいのだから。全ては魔王様のために。
「今に見てなさいあの小娘達。この天才ソフィアちゃんがギッタギタにしてあげるから。」




