月の塔
「二人とも起きてください!もう出発しますよ。」
私がぐっすり眠っているとアンナが私の体を揺すって無理矢理起こしてくる。外を見てみるとすでに明るくもう出発する時間だった。
「うーん、あと少しでいいから眠らせて。」
「ああ、まだ眠くてしょうがないぞ。」
私達は昨日のこともあって、あまり眠ることが出来ずにいた。
「もう、二人とも夜更かしでもしてたんですか?ここから先は危険なんですからしっかり睡眠してください。」
「だって眠れなかったんだもん。ふわぁ、まだ眠いけどしょうがないか。」
私は欠伸をしながらも出発の準備をする。なんと言っても今日は気合いを入れていかないといけないのだから。
「おいおい、嬢ちゃん達大丈夫か?今日はお互いに大事な日だろう。」
ロイドもアンナもすでに準備を終えており、私とキリノは急いで準備をしていた。今日はついに目的地の遺跡へと向かうのだ。私も当然覚悟を決めないといけない。
「そうだね、もちろん覚悟はできてるよ。どんな敵だろうが私がアンナを守るから。」
そう言って私はアンナの手を握った。
「ありがとうございます。私もできることを頑張りたいです。みんなさんは準備出来ましたか?」
「ああ、私も準備OKだ。いつでも戦闘に入れる。」
「それじゃあ早速出発するか。塔まで後少しだからそれまでは頼むぜ。」
「はい、それでは頑張って行きましょう。」
そう言って進むロイドの後を私達はついて行く。昨日会ったばかりだけどロイドは面白くていい奴だった。
やっぱり旅はいろんな出会いがあるからいいな。
私達は森の中に入り、月の塔へと向かって歩いて行く。昨日に引き続き歩き続けるが今日は何やら静かだった。あまりにも静かで少し不気味なくらいだ。
「ふむ、今日は全くといっていいほど魔物が出てこないな。何か罠でもあるのか?」
「ああ、ここら辺は何故か魔物が出ないんだ。塔の影響かもな。」
ロイドが言うには塔にはすごい魔力があるためモンスターは近づいて来ないらしい。
「月の塔ってそんなにすごい所なんだね。」
「月の塔は本当に危険な場所なんですよ?どれだけの冒険者が犠牲になったことか。」
塔の恐ろしさを知っているアンナの言葉はすごく重みがあり、私まで緊張してきた。
「前から気になっていたんだが月の塔と月の救世主って関係あるのか?」
それは私も気になっていたことだ。キリノの質問にアンナとロイドの両方が反応した。
「よく気づいたな。救世主と塔は全て同じ名前で、まず何か関係があると言われてるな。」
「ええ、塔の中で救世主が生まれるとか塔を登りきった者が救世主になれるなどいろんな噂がありますね。」
「ふむ、救世主とはそんなにすごいものなのか。」
救世主と五つの塔にそんな関係性があるとは思わなかった。それにしても私は救世主というものに興味がある。
救世主、それは突如世界に現れてこの世界を脅かす魔人を倒す存在。人類にとっての英雄であり、百年に一度の周期でこの世界に現れ今まで何度もこの世界を救ってきたまさに人類にとっての最後の砦らしい。
アンナが言うには救世主はとても大事な存在なので都会の方ではかなり捜索されてるらしい。私もアンドレに救世主って呼ばれたし救世主が一体なんなのかよく分からなかった。
「まあ、とりあえず救世主はすごい存在ってことだ。魔人から俺たちを守ってくれるんだからありがたいな。」
魔人、それは人類を脅かす存在でありそれはまさに厄災。魔人によって長い間人類は苦しみ続けているらしい。
「そうですね。早く救世主は見つかって欲しいものです。それに魔人も早くいなくなればいいんですが。」
アンナとロイドは苦しい顔つきになる。
私やキリノは魔人の脅威を知らないがアンナとロイドは嫌になる程魔人の恐ろしさを知ってるんだろうな。
「こんな話はもうやめだ。それよりこっから先は分岐点だぜ。それじゃあ俺たちはお別れだな。」
ロイドはそう言うと月の塔の方へ向かおうとする。
すでに目的地に辿り着いており、本来ならここでロイドと別れることになっていた。しかし私達はすで覚悟を決めていた。
「待って、月の塔には私達もついて行くよ。ロイド一人じゃ心配だし。」
私はすでに決めていたのだ。ロイドと一緒に月の塔に登ると。
「おいおい、嬢ちゃん達は遺跡に用事があるんだろ?俺に構ってる暇はないんじゃないか?」
ロイドの言う通り、私達にもやることはあるがそれでもロイドを一人にするわけにはいかなかった。今のロイドを一人にするのは危ない気がするのだ。
「それでもお前を一人にする気はない。私達は仲間だからな。」
「そうですよ、私はロイドさんの力になりたいんです。それに四人でいけば塔だってすぐに登れるはずです。」
私だけでなくアンナとキリノも同じことを考えていて安心する。今の私達には相当の覚悟があった。
ロイドは私達の決意を感じだったのか諦めたようにため息をつく。
「はあ、嬢ちゃん達には敵わねえな。そういうことならもう少し頼むぜ。ただしここから先は本当に危険だから気をつけろよ。」
ロイドはそう言って真剣な顔つきになる。私達も気を引き締める。
「もちろんだよ。それじゃあ早速行こうよ。」
私達に迷いはなかった。すぐに塔を攻略して神秘の遺跡まで行ってみせる。
私達は覚悟して塔の中へと向かうのだった。
私達は大きな扉を開いて塔の中に入った。塔の中はとても薄暗く周りが見えづらい。
「ここが月の塔ですか。思った以上に広いですね。」
アンナはランプに火を灯し周りを明るくした。壁には絵が描かれており、とても古そうな塔だった。確かにアンナの言う通り思った以上に大きな空間だ。
「この塔は見た目以上に大きいから注意しろよ。大体の場所は俺が分かるから静かについてこい。」
私達は静かにロイドの後をついて行く。それにしても月の塔はとても古くて少し怖い雰囲気がある。それとさっきから少し気持ち悪い。これも月の塔の影響なのかもしれない。
「どうしたルナ、体調が悪いのか?離れないように私が手を握っておこうか。」
キリノはそう言って私の手を握りしめる。キリノの手はひんやりしててとても気持ち良い。
「むっ、二人だけずるいですよ。私も手を繋ぎたいです。」
そう言ってアンナも私の手を握る。アンナの手はとても暖かくて落ち着く。しかし今のわたしは両手が塞がっておりこの状態で魔物が来たらとても危ない。
「おいおい、遊んでないでしっかりしてくれよ。ここから先は死ぬ恐れがあるんだからよ。」
ロイドは私達を見てため息をつく。それにしてもロイドはこの複雑な塔を迷うことなく先へと進んでいく。それに今のロイドはいつになく真剣だった。
「それにしてもロイドはどこに向かっているんだ。目的も一切聞いてないんだが?」
「そうだな、ここまで来たからには話しておくか。今から向かうのは塔の頂上だ。」
今からこの塔の頂上を登るというのか。かなり広い上にかなりの高さがあるからかなりきつそうだな。
「塔の頂上には何があるんですか?」
アンナの質問にロイドは最初は答えるのを戸惑っていたが少し経ってから答えてくれる。
「そうだな、理由は二つだ。一つは仲間の遺品と死体の回収だ。俺のパーティーは月の塔に一度登った時、俺以外の全員がボスモンスターにやられちまったんだ。だからせめて遺体だけでも回収したい。」
全てが分かった。だからロイドはあんな所に一人でいたのか。塔まで行く仲間が欲しくてずっと待っていたのだろう。だからロイドは時々寂しそうな顔をしていたんだな。
「ボスモンスターはそんなに強いのですか?」
「ああ、それはもうあり得ないくらいにな。俺たちは必死に戦った。最初の一撃でヒーラーがやられ、それでも俺たちは戦い続けた。火をくらい爪で切り裂かれても怯むことなくそれぞれの役割を全うしてなんとかボスモンスターを倒したさ。」
「あれ?ボスモンスターは倒せたんだね。」
「ああ、なんとかギリギリ倒せたんだ。しかし戦いの中でヒーラと魔術師は死に、トドメの一撃を放った戦士も戦いの後で傷が深くて死んでしまった。残ったのは俺だけだったんだ。俺はタンクなのによ、誰も守れず俺だけが残っち待ったんだ。」
ロイドの悲しそうな声色と顔を見ると私まで胸が痛くなってしまう。それなら余計に私はロイドに力を貸したかった。
「だからロイドさんは月の塔に登りたかったんですね。」
「ああ、今度は絶対に誰も傷つけはさせない。今度こそ俺は誰も失うことなくこの塔を攻略してやるさ。」
そのロイドの声は覚悟のこもった声だった。
「私もロイドのために頑張るよ。これ以上ロイドが傷つかないためにも。」
「ああ、私達でこの塔を攻略しよう。」
私達三人は決意に満ちていた。これ以上ロイドを傷つけさせないためにも私達はこの塔を攻略してみせる。」
私達の覚悟が伝わったのか、ロイドもいつもの表情に戻りいつものように笑った。
「そうだな、それなら急いで頂上へ向かうぞ。こんな所でチンタラはできねえ。」
私達は急ぎ足で塔の頂上へと向かう。私達はモンスターを払いながら少しずつ上へと向かっていた。
「そういえば目的は二つあると言っていたがもう一つは何なんだ?」
あれから私達はモンスターを倒し、トラップを掻い潜りなんとか塔の三分の二を登った所だった。
かなり時間はだったがもうすぐつきそうだし何より今は大した怪我もない。このままいけば塔の攻略は簡単そうだ。
「そういえば言うのを忘れてたな。もう一つの理由はこの塔に宝玉を返すためだ。」
ロイドはさらっと言うがアンナと私は目を丸くする。アンナの話を聞くかぎり宝玉ってかなりレアなのでは?なんでも世界に四つしかないとか。
「なんでロイドさんが持っているんですか?」
「ああ、ボスモンスターを倒した後、俺は一人でこの塔を彷徨ったんだがそこでこの宝玉を見つけたん
だ。」
ロイドはそう言って懐から宝玉を取り出した。宝玉には月の模様が描かれておりとても綺麗だった。宝玉からは月の光のようなものが出ておりとても神秘的だ。
「わあ、すごい綺麗だね。だけどなんでそれを戻そうとしてるの?」
世界に四つしかない宝なら手放すなんて勿体無いと思うんだけど。
「そうですよ。宝玉なんてものすごくレアな物なんですよ。」
「俺にはこんな物勿体ねえ。もっと未来ある冒険者に渡った方がいいと思うんだ。だからこの宝玉を元の場所に返したい。」
そんな考えに至るなんてロイドは本当にすごいと思う。私ならすぐに売って豪遊する気がする。
「ロイドはすごいな。そう言うことなら早く目的地へ向かわないとな。」
「ああ、そういうことだ。もう少しで頂上だが絶対に油断はするなよ。」
私達は気合いを入れて最後の階段を登るのだった。
どうか強力な敵と出会いませんように。




