元冒険者
「はあ、もう限界だよ。ここら辺何もないんだけど。」
私達は次の目的地である遺跡に向かっていたのだがどこを見ても何もなくただ草原が続くだけの地獄だった。モンスターは襲ってくるしものすごく暑いしでもう限界だ。
「はい、当分は何もないかと。ですので今日はずっとこの草原を歩き続けないといけません。」
その言葉に私は落胆する。このままでは干からびてしまう気がする。水だって量が限られてるからたくさん飲めないしもう地獄だ。
「それにしても本当にこの辺りは何もないな。この先は他に何かあるのか?」
「いえ、もうこの先に村はありません。あるのは塔と遺跡だけです。」
ということはこれから先は野宿確定ということなのか。そう思うと頭が痛くなる。でもみんなでワイワイしながら野宿というのも楽しそうではあるか。
「その塔というのは何なんだ?」
キリノの質問にアンナは塔の話を始める。
「確か月の塔といって何百年も前からある塔のことですよ。この世界に同じような塔が五つあってよく冒険者が攻略しようとしています。」
月の塔という名前で五つあるということはアンナが前に言ってた五人の救世主と何か関係があるのだろうか。
「なるほど、何百年も前からあると言うのにその塔はまだ攻略されてないのか?」
「はい、その塔は無数の仕掛けによりたくさんの犠牲者が出ています。そしてその塔を攻略したら一生遊んで暮らせるとか塔の中に宝玉が眠ってるなど色々な噂が広まっているそうですよ。」
はえー、この世界にはそんなに面白そうなものがあるんだ。
アンナってば本当にすごい物知りだよね。モンスターや魔法に詳しい上にこの世界の歴史などもよく知ってる。
「まあでも私たちには関係ない話だね。私達は遺跡に行くんだから。」
ここから先はずっと歩いて遺跡を目指すだけだ。これ以上他の場所で時間をかけてる暇は無い。
「まあ、そうですね。そうだといいのですが。」
さらっとアンナが怖いことを言う。私達はこれ以上変なことに巻き込まれたくはない。ただでさえエルフや人狼のせいで苦労してるのだ。これ以上変なことが起こるのはやめてほしい。
「まあ大丈夫だろう。私達はそれなりに強いし何かあっても無問題だ。」
「そうだよ、キリノの言う通り何かあっても私達が守るから。」
アンナはとても心配そうな顔をしていたがまあなんとかなると思う。今までだって何とかなったし。
「はあ、二人は楽観的でいいですね。それと見てください。あの奥にあるのが月の塔ですよ。」
あれからさらに歩くとアンナの言っていた塔が見える。そこには私が思っていたよりもかなり大きな塔が立っていた。何百年も前からあるとは思えないほどに綺麗で何やら神秘的な塔だった。
「ああ、あれが数々の冒険者が散っていった月の塔だ。あそこは本当に危険だぜ。」
突然声がして私が後ろを振り返るとそこには一人の男が立っていた。長い茶髪の髪で頭にバンドを巻いており格好的に冒険者だろうか?
「えっと、貴方は?」
「おう、俺はロイド。元冒険者で今はしがない旅人さ。」
私が尋ねるとロイドは私達に気さくに挨拶をする。陽気な感じだしとりあえず悪い人ではなさそうだ。
「それで冒険者が何の用ですか?」
「私達の邪魔をするなら容赦はしないが。」
キリノは銃を構えてアンナもロイドを睨みつけていた。二人とも警戒心が強いな。まあ、私の警戒心が無さすぎるだけかもだけど。
二人に睨まれ、ロイドは慌てて否定する。
「おいおい、勘違いするなよ。俺は別にお前らの敵ではない。」
「では何でしょうか?貴方のような男の人はあまり信用できないんですが。」
二人に睨みつけられロイドは若干居心地が悪そうだ。
「二人とも怖いな。ただ俺はここから先は危ないから行かない方がいいと注意しようとしただけだ。俺は優しいからな。」
どうやらここより先は本当に危険らしい。まあ、考えて見たら塔がかなり危険って話なんだからロイドが心配する気持ちも分かる。それでも私は進むのだけど。
「注意してくれた所悪いが私達はこの先にようがあるんだ。だから引き返すことはない。」
「そうだよ。私達はどうしてもこの先に行かないと行けないから。」
私達は危険を承知でここまで来ている。今になって引き返すことはありえない。
私達をじっと見つめるとロイドは何か考え事をしていた。
「そうか、どうやら本気のようだな。それなら俺も連れて行ってくれないか?塔の近くまででいいからよ。」
ロイドはそう言って私を見つめる。まあ、私としては戦力が増えるから良かったがアンナとキリノは明らかに嫌そうな雰囲気だった。
「本当に一緒に行くのか?私は信用できないぞ。」
「ええ、男の人はあまり信用できません。純粋なルナさんとキリノさんは私が守るんです。」
アンナはアンドレのこともあるのか明らかに男に対して警戒してる気がする。ロイドが不憫で仕方ない。
「おいおい、少しは話を聞いてくれよ。俺はただ塔に行きたいだけなんだ。」
「どうして塔に行きたいの?やっぱりお宝目当てとか?」
元冒険者とか言っていたし宝に興味があるのだろうか?
「いや、まあこっちにも色々あるんだ。もちろん塔の近くまででいいから頼むよ。ここから先は危なくて一人じゃ心細いもんでな。」
ロイドがここに一人でいたということはもしかしたらずっと一人で誰かが来るのを待っていたのかもしれない。そうなると気の毒で仕方ない。
「いいよ。それなら塔までの間よろしく。」
私はロイドに手をやる。別に悪い人では無さそうだし一緒に塔まで向かうことにする。
「いいんですか?そんな軽い感じで。」
「うーん、まあ大丈夫じゃない。私達だって仲間が大いにこしたことはないでしょ?」
どうせ塔までだし移動距離もあまり変わらないから私としては別に問題なかった。何かあったらあったでその時考えればいいし。
「まあ、そうだな。もし変なことをすれば私が撃ち抜くだけだ。」
「ええ、アンナさんが言うなら従いましょう。ただし二人に手を出したら容赦しませんよ。」
「おお、少し怖いがいいだろう。それじゃあ少しの間だけよろしく頼むぜ。」
二人もロイドのことを認め、私達は四人で塔まで進むことになったのだ。
「なるほどな、薬のためにはるばるここまで来たのか。ここまで来れるとは嬢ちゃん達なかなかの手練だな?」
私達は四人で塔へと向かっていた。まだモンスターは出てこず私達はおしゃべりしながら塔へと向かっていた。
「はい、ルナさんとキリノさんのおかげです。二人ともそこら辺の冒険者に負けないくらい強いんですよ。」
アンナは私をベタ褒めするが私はそこまで強くはないと思う。森の異形や人狼を倒したのもキリノだし。
「そうか、俺は攻撃はあまりできないが防御は任せてくれ。冒険者の頃はずっとタンクを務めて来たからな。」
ヒーラーのアンナとタンクのロイド、そして攻撃のキリノと私。意外といいパーティーなのでは?
「それは助かるな。それにしてもロイドは何故一人であんなところにいたんだ。」
「まあ、色々あって塔に用事があるんだが、一人では塔に行くまでの道中が不安でな。嬢ちゃん達がこないと終わってたぜ。」
ロイドはそう言って豪快に笑う。塔に用事があると言うことはやはり宝玉が目当てだったりするのだろうか?
「塔の道中ってそんなに危険なの?ここまでそんな強い敵と当たって来なかったけど?」
ここら辺は獣型のモンスターやスライムがほとんどで特に苦戦したことはない。
「嬢ちゃん達気づかないか。塔に近づくほど雑魚モンスターが全然いないだろ?ここら辺は大型モンスターが棲みついてるから雑魚モンスターはよって来ないんだよ。」
通りで全然モンスターがいないわけだ。今の道中はあまりにも静かでとても不安になる。
「ロイドさんは詳しいんですね。もしかしてここら辺に来たことがあるんですか?」
アンナの質問にロイドを少し悲しそうな表情をして話を始める。
「ああ、俺はパーティーで世界中を旅したからもちろんここに来たこともあるぜ。」
ロイドの言葉に私を目を輝かせる。私はこの世界のことがたくさん知りたい。
「旅ってどんな感じだったの?のんびり気ままな生活だったりする?」
興味津々の私を見てロイドは大笑いをする。
「はっはっは、嬢ちゃんは旅に興味があるのかい?旅はいいぞ。みんなでワイワイして協力してモンスターを倒すんだ。」
「それで、それで?」
「大陸によって風習や文化が違うもんだから色々と学べるんだよな。」
「やっぱり旅っていいよね。私も早くいろんなところに行ってみたいな。」
美味しいご飯も綺麗な景色も色んなことを私は経験したくてたまらなかった。しかしロイドは険しい顔をしていた。
「嬢ちゃんは旅をしたいのか?」
「うん、今も旅してるし、これからいろんなところに行くつもりだよ。」
「そうか、だが一つだけ覚えておいた方がいい。旅は決して楽しいことだけではない。その分苦しい思いもするだろう。」
ロイドの表情からして色々とあったのだろう。しかし私の意思が揺らぐことはない。
「それでも私は旅をするよ。それは私の決めたことだから。」
私はもう自分らしく生きると決めた。私はただ自由に旅をしたいんだ。
「若いやつは危険知らずでいいな。ただ、俺のようにはなるなよ。旅は時に何か大切なものを失うことがある。そのせいで俺はここにずっと囚われているからな。」
ロイドの表情は全てがどうでもよくなったような寂しげな表情をしていた。
「まさか月の塔で何かあったのか?」
「まあ、この塔では色々あったな。だから俺は絶対にあの塔へ行かないといけないんだ。」
ロイドはそう言って再び真剣な表情になる。それは覚悟をしている者の表情であった。
「ロイドさんも大変な思いをして来たんですね。それならここから先は私達も覚悟を決めないといけませんね。」
「ああ、私がみんなを守る。」
アンナもキリノもすでに覚悟は出来ていた。もちろん私だってこの世界に来た時から覚悟は出来ていた。
「おっしゃ、その意気だぜ。じゃあこのまま初陣だ。」
突然空から大きな風が吹きあられたと思うと目の前に竜のような生き物が現れる。
「気をつけてください。あれはワイバーンです。」
この世界はワイバーンもいるのか。ワイバーンから放たれる威圧で肌がピリピリする。明らかに今までの敵とはレベルが違う。
「グギャアー」
ワイバーンは大きな鳴き声と共に口から勢いよく私に向かって炎を放つ。突然放たれた炎に私は避ける暇などなかった。
「大丈夫か嬢ちゃん。防御は任とけ。」
ロイドはそう言って防御魔法を使いワイバーンの炎を全て防ぎきった。さすが元冒険者、魔法が洗礼されている。
「未だ、行くぞルナ。」
「うん。炎よ燃え盛れ。」
「グギャアアアー。」
キリノ掛け声と共に私はワイバーンに向かって炎を放った。キリノの銃弾と私の炎がワイバーンに直撃し、ワイバーンはそのままどこかに去ってしまった。
「チッ、逃げられたか。まあ、ルナが無事で良かった。」
キリノの言う通り無事でよかった。ロイドが守ってくれなかったら私は今頃燃やされていた。
「ありがとう、ロイドの魔法はすごいね。私はまだシンプルな魔法しか使えないから助かったよ。」
「いや、嬢ちゃん達こそすごい魔法だ。ワイバーンを追い払っただけでもすごいんだぜ。」
「そうなの?」
「ああ、普通の冒険者ならワイバーンにあったら丸焦げだろうな。こっから先はそんなモンスターばかりだから気を引き挟めろよ。」
ロイドはそう言って再び塔へと向かっていく。私達も覚悟してロイドの後をついて行くのだった。




