第8話:三つの試練
アレンは鏡の部屋で立ち尽くしていた。目の前にはいまだに自分の「影」が映し出されている。何度振り払おうとしても、その存在は消えないどころか、ますます彼の心を揺さぶってくる。
「お前に何ができる?」
「結局、仲間にとって必要なのはリリアやケインであって、お前じゃないんだ」
アレンは歯を食いしばり、鏡を睨みつけた。「黙れ……俺だって、俺だって役に立ってるんだ!」
影は嘲笑うように言う。「じゃあ証明してみせろよ。お前がここにいる理由を――リリアに隠されている真実を知ったとしても、お前は彼女を信じ続けることができるか?」
その言葉にアレンは動揺を覚えたが、振り払うように叫んだ。「信じるさ! 俺たちは仲間だ!」
その瞬間、鏡が砕け散り、部屋全体が光に包まれた。気がつくと、アレンはまた新たな空間に立っていた。そこには大きな石板があり、中央に何かが埋め込まれている。
一方、ケインは荒れ果てた戦場の中で、次々と襲いかかる骸骨兵士たちを倒し続けていた。
「まったく、休む暇もねえってのかよ!」
剣を振り回しながら、彼は周囲を見渡す。この戦場が何を意味しているのか、どこを目指せば試練を終えることができるのか――その答えが見えないまま、彼は無数の敵を斬り続けていた。
だが、ふとした瞬間、彼の背後から声が聞こえた。
「君は何のために戦っているの?」
ケインが振り向くと、そこにはまたあの少年が立っていた。
「お前、またかよ!」ケインは剣を構えるが、少年は動じる様子もなく微笑んだ。「斬っても僕は消えるだけだよ。でも、その答えを出さない限り、この戦場は終わらない」
「俺が何のために戦うかだと? そんなもん、俺自身のためだ!」
少年は首をかしげた。「本当に?」
その問いにケインは返事をすることができなかった。だが、その瞬間、目の前の骸骨兵士たちがすべて崩れ落ち、戦場が静寂に包まれた。
「正解を見つけなくても進むことはできる。でも、それが本当にお前の選んだ道なのか、忘れるなよ」
少年はそう言い残し、霧のように消えた。
リリアもまた、自分の試練に立ち向かっていた。目の前の扉を抜けると、そこには広大な書庫が広がっていた。本棚には古びた書物がぎっしりと詰まっており、床には埃が積もっている。
リリアはゆっくりと書棚を見て回り、一冊の本を手に取った。表紙には「迷宮創生記録」と記されている。
「これが……この迷宮の正体?」
彼女がページを開くと、そこには迷宮が作られた理由や、その仕掛けについての詳細が記されていた。だが、その一部には黒いインクで消された箇所があり、読み取ることができない。
その時、背後から声が聞こえた。
「その本を読んでもすべては分からないわよ」
リリアが振り返ると、そこには自分とそっくりな姿の女性が立っていた。その顔はリリア自身だったが、どこか冷たい笑みを浮かべている。
「あなた……誰?」
「私? 私はあなたよ。でも、本当のあなたは私だとも言えるわね」
その言葉にリリアは戸惑いを隠せなかった。
三人はそれぞれの試練を乗り越え、ついに元の場所に戻ってきた。中央の広間に集まった彼らは、互いの顔を見て安堵の表情を浮かべる。
「おい、やっと終わったのかよ!」ケインが剣を肩に担ぎながら言った。「試練とかいう割に、ただの悪趣味な嫌がらせだったぜ」
リリアは微笑みながら答えた。「でも、それぞれに意味はあったはずよ。これからの迷宮を進むための準備だったのかもしれない」
アレンは何かを言おうとしたが、口を閉じた。彼の心にはまだ、試練で影に囁かれた言葉が残っていた。
だが、その時、部屋全体が揺れ始めた。
「またかよ! 一体何なんだ!」ケインが叫ぶ。
リリアが壁に手をつきながら冷静に言った。「これは……次の階層への扉が開く合図かもね」
三人は迷宮の中心に現れた新たな扉を見つめ、意を決して進むことを決めた。