第7話:交錯する真実
アレンが鏡の部屋で自分の「影」と向き合っている一方、リリアは別の空間に飛ばされていた。その場所はこれまでの迷宮とは全く異なる雰囲気だった。空は灰色に染まり、廃墟となった町のような場所が広がっている。街灯は折れ曲がり、建物の壁は黒い煤で覆われている。どこからか聞こえる遠い悲鳴と泣き声が不気味に響いていた。
リリアは慎重に辺りを見渡し、呟いた。「これは……迷宮の試練じゃない。何かが混ざってる」
その時、背後から声が響いた。
「ここに来るのは……久しぶりだな」
リリアが振り返ると、そこには一人の男が立っていた。黒いコートに身を包み、無精ひげを生やしたその男は、リリアを見て薄く笑った。
「あなた……誰?」リリアは冷静を装いながら問いかけた。
男は答えず、足元に散らばる瓦礫を蹴りながら言った。「まだ覚えていないのか? それとも、この場所が何を意味しているのかを知るのが怖いか?」
「意味……?」リリアの眉が険しくなる。
男は無造作に手を上げると、空中にいくつもの光の欠片が浮かび上がった。それらの欠片は一つずつ動き、やがて一枚の大きな絵となった。その絵には、リリア、アレン、そしてケインの三人が描かれていた――だが、どこか異様だった。
三人の後ろには何か巨大な影が立っており、その目は赤く輝いていた。そして、アレンの手は血で染まり、ケインは崩れ落ちた瓦礫の山の中で動かなくなっている。リリアはその光景をただ見つめるだけで何もしていなかった。
「これは……未来?」
男は首を横に振った。「未来でも過去でもない。ただ一つの可能性に過ぎない。だが、お前たちが進む道次第では、これが現実になるだろう」
リリアは冷ややかな声で言った。「そんな脅しには乗らないわ。あなたが誰であろうと関係ない」
男は笑みを深めた。「本当にそうか? お前は、何を忘れているのかすら気付いていないだろう。この場所が何なのか――そして、お前自身が何者なのかもな」
一方その頃、アレンは鏡の部屋での試練を進めていた。鏡に映る「影」は、執拗に問いかけてくる。
「お前は何のためにここにいる?」
「お前がいなくなっても、誰も困らないのではないか?」
「お前はリリアを信じているのか?」
アレンはそのたびに反論しようとしたが、影の言葉は自分の心の奥底をえぐるように響き、思考がまとまらない。
「俺は……リリアを信じている!」アレンは叫んだ。
だが、影は嘲笑うように答えた。「本当に? 彼女がすべてを隠しているのにか?」
その言葉にアレンは動揺した。
さらに別の場所では、ケインもまた奇妙な空間に放り込まれていた。そこは広大な戦場だった。彼の周りには無数の骸骨兵士が転がり、空には血のような赤い月が浮かんでいる。
「おい、ふざけんなよ! こんなとこで何をしろってんだ!」ケインは叫ぶが、答えはない。
その時、目の前に現れた一人の少年が言った。「ねえ、君ってさ、本当に"ケイン"なの?」
ケインは眉をひそめた。「は? 何言ってんだ、お前」
少年は笑顔を浮かべながら続けた。「君がケインじゃないなら、どうしてここにいるのかな? 本当は誰か他の人の役割を奪ったんじゃない?」
「黙れ!」ケインは少年に向かって剣を振りかざしたが、少年は霧のように消えてしまった。
それぞれが異なる試練を受ける中、視点は突然切り替わり、全く異なる情景が映し出された。
ビルが立ち並ぶ都市の中、スーツ姿の男が慌ただしく歩いている。手にスマートフォンを持ち、画面を確認しながら誰かと話している。
「リリアの進捗はどうなってるんだ? アレンたちも順調に動いているのか?」
その男の背後には、「迷宮管理局」と書かれたビルの看板が見える。
彼の声は次第に遠ざかり、またリリアたちの視点に戻る――まるで先ほどの場面が何かの幻だったかのように。
リリアは再び廃墟の町に戻っていた。男の姿は消え、目の前にはいつの間にか一つの扉が現れていた。
「……進むしかないのね」
彼女は扉に手をかけ、ゆっくりと開いた。