第6 話:新たな迷宮の試練
三人が扉を抜けると、そこは巨大な地下洞窟だった。天井には青白く輝く結晶が無数に散りばめられ、床にはいくつもの水たまりが広がっている。どこからか滴る水の音が響き、冷たい空気が肌にまとわりついた。
「ここはまた厄介そうな場所だな……」ケインが剣を軽く振りながら警戒心を隠さず呟いた。「足元に気をつけろよ、水たまりに何が潜んでるかわかったもんじゃねえ」
リリアは慎重に辺りを観察しながら進む。「あの結晶、ただの飾りじゃなさそうね。この迷宮、どの階層も何かしら仕掛けがあるから」
アレンも慎重に後をついていく。彼の心には、まだ先ほどの「犠牲」の砂時計の試練が残していった不安がくすぶっていた。だが、リリアの態度はいつも通り冷静そのものだった。彼女が砂時計の前で見せた奇妙な行動について、今はまだ問いただすべき時ではないように思えた。
三人が洞窟の奥へ進むと、目の前に巨大な石の扉が現れた。扉の表面には奇妙な紋様が刻まれており、中央には手を押し当てるための窪みがあった。
「おい、この扉も何か仕掛けがありそうだな」ケインが軽く叩くと、鈍い音が響いた。「力任せに開けるのは無理っぽい。どうする?」
「これは……紋様に何かヒントが隠されてるかも」リリアが前に出て紋様をじっくりと見つめた。「この形、どこかで見たことがあるような気がするわ」
「どこで?」アレンが問いかける。
「さあね。ただの直感よ」リリアが軽く笑って肩をすくめた。その仕草にアレンは一瞬、違和感を覚えたが、それ以上追及するのをやめた。
しばらく紋様を調べていたリリアが、突然言った。「アレン、手を貸して。ここの窪みに手をかざしてみて」
「俺が?」
「ええ、あなたの魔力が関係している気がするわ。この扉、ただの物理的な仕掛けじゃない。魔力を感知して動くように作られてるみたい」
アレンは不安を抱えながらも言われた通りに手を窪みにかざした。すると、扉全体が淡い光を放ち始め、紋様がまるで生き物のように動き出した。
「おいおい、動き出したぞ!」ケインが後ずさる。
だがその瞬間、洞窟全体が揺れ始めた。壁や天井から細かい石が落ち始め、床の水たまりから不気味な黒い液体が湧き出してくる。
「これはまずい……」リリアが低く呟く。「アレン、そのまま手を離さないで! 仕掛けを完全に起動させないとこの部屋全体が崩れる!」
「分かった!」アレンは震える手を窪みに押し当て続けた。
すると、扉から光の輪が放たれ、三人の体を包み込んだ。次の瞬間、彼らは洞窟の中央とは全く異なる場所に転送されていた。
新たな空間は奇妙だった。そこは巨大なドーム状の部屋で、床一面に幾何学模様が描かれている。天井には宙に浮かぶ石版があり、そこには複雑な文字が刻まれていた。
「またかよ……なんでこう次から次へとトラップがあるんだよ」ケインが不満を漏らす。
リリアは冷静に言った。「この部屋も試練の一つよ。でも、他の階層よりも厄介そうね」
アレンが天井の石版を見上げて言った。「あの文字、解読しないと進めないってことだろうな」
リリアは石版を見つめると、小さく頷いた。「そうね。文字自体は古代語だけど、解析する方法はあるはず。この模様も何か関係してるかもしれない」
リリアが模様を指でなぞり始めたその時、部屋全体が振動し、床の模様が光り始めた。
突然、石版の文字が大音声となって響き渡った。
「試練を受ける者よ――お前たちのうち、誰が最も価値ある者か証明せよ」
その声に三人は緊張した面持ちで互いを見た。
「最も価値がある者、だと?」ケインが眉をひそめる。「また面倒な選択を迫られるのかよ」
リリアが厳しい表情で言った。「いいえ、これは単なる選択じゃない。私たち全員がここで自分の存在価値を示さなければならないわ。それができなければ、きっと……」
リリアの言葉が終わる前に、床の模様が再び変化し、三人はそれぞれ別の光の円に囲まれた。
「おい、何だよこれは!?」ケインが焦る。
「分断するつもりみたいね」リリアが苦々しく言った。「私たちを孤立させて、それぞれの価値を試すつもりよ。別々の試練を受けなさいってことね」
「ふざけるな!」ケインは叫んだが、光が強くなり、三人はそれぞれ異なる場所に飛ばされてしまった。
アレンが目を開けると、そこは広大な鏡の部屋だった。無数の自分の姿が鏡に映し出されている。
「これが試練なのか……?」
その時、鏡の中の自分の一人が不気味に笑いながら言った。
「お前は仲間にとって、本当に必要な存在だと思うか?」
アレンはその問いに立ち尽くした――自分が選ばれた理由、そして自分の価値とは何なのか。その答えを探さなければ、この試練を突破することはできないのだろう。