第5話:リリアの裏切りと不気味な兆候
三人が次の階層に進むと、そこはこれまでとは異なり、美しい草原のような空間だった。太陽のような光が空から降り注ぎ、鳥の鳴き声が響いている。
「おい、何だよこれ。迷宮の中だろ? 外に出ちまったのか?」ケインが目を見張る。
「いや、これは……ただの錯覚よ」リリアが険しい表情で辺りを見回す。「迷宮はこんな優しいはずがないわ。気を抜けば死ぬだけよ」
その言葉通り、空間のどこかに違和感があるのをアレンも感じ取った。
草原の奥には一本の大木がそびえ立っていた。その根元に一人の男性が立っている。豪華なローブを身にまとい、長い白髪をなびかせたその男は、三人が近づくと微笑みを浮かべた。
「ようこそ、挑戦者たちよ。我が名はリオル。この階層の守護者であり、試練を司る者だ」
「試練だと?」ケインが剣を抜き構える。「さっさと出してこいよ。そのためにここまで来たんだからな」
「慌てるでない、若き戦士よ」リオルは微笑みを崩さない。「試練は既に始まっている。お前たちがここに辿り着いた瞬間からな」
その言葉と同時に、大地が揺れ始めた。草原の一部が崩れ、無数の怪物が地面から這い出してくる。
「おいおい、聞いてねえぞ!」ケインが声を荒げる。「こんな試練、どう考えても無理だろ!」
アレンとリリアも武器を構えたが、怪物の数はあまりに多かった。三人が戦いを始めるも、次々と押し寄せる怪物に追い詰められていく。
その時、リリアが突然叫んだ。
「アレン! ケイン! 逃げて!」
彼女は一歩前に出て、自分の体を怪物たちに向けた。その瞬間、リリアの体が輝き始めた。
「おい、リリア! 何をするつもりだ!?」アレンが叫ぶ。
「私には、やらなきゃいけないことがあるの!」リリアは振り返らずに答えた。「これは私の役目だから……」
光が彼女を包み込み、怪物たちが一斉にその場で動きを止める。次の瞬間、リリアの体が消え去り、怪物たちも同時に霧のように消えていった。
リリアがいなくなった後、アレンとケインは呆然と立ち尽くした。だが、突然状況が急変する。
リリアが消えたはずなのに、次の場面では、リリアが何事もなかったかのように二人と一緒に歩いていた。
「次の階層にはもっと厄介な試練が待っているわ。気を引き締めて」リリアは普通に話し出す。
「……おい、お前、さっき……」ケインが驚いた顔で彼女を見たが、言葉を飲み込む。
アレンも混乱したが、それを口にするのをためらった。彼女が怪物の中で消えた光景は確かに見たはずだ。それなのに、今ここにいるリリアは普通に振る舞っている。
三人はそのまま次の階層への扉を進んでいったが、彼らの中に芽生えた違和感は解消されることはなかった。