第4話:試練の部屋とリリアの秘密
三人は新たな階層に足を踏み入れた。そこは今までの不気味な迷宮とは異なり、広大な空間に幾何学的な模様が描かれた床が広がっていた。部屋の中央には一つの台座があり、その上には赤い宝石が浮かんでいる。
「何だ、ここは?」ケインが辺りを見回す。
「試練の部屋よ」リリアが冷静に答える。「この部屋では、試練をクリアしない限り次に進めない。そして、失敗すれば……」
「死ぬってことか」ケインが苦々しく言った。
すると突然、部屋の壁に無数の文字が浮かび上がり、重々しい声が響いた。
「試練の開始を宣言する。選択せよ――『協力』か、『分断』か」
文字が光り輝き、三人の足元に「協力」と「分断」の二つの道が浮かび上がった。
「協力か分断……?」アレンは混乱した。
「この迷宮、いちいちいやらしい仕掛けを出してくるな」ケインが剣を肩に乗せながら吐き捨てる。
「分断なんて選んだら確実に死ぬわ」リリアが即答する。「協力しか選択肢はないわね」
リリアの言葉に同意し、三人は「協力」の道を選んだ。
次の瞬間、三人の周囲に光が走り、部屋の中央に新たな仕掛けが現れた。それは六つの巨大な砂時計だった。それぞれの砂時計には異なる色の砂が流れており、上には「勇気」「知恵」「信頼」「忍耐」「力」「犠牲」と書かれている。
「全ての砂時計を止める方法を見つけよ」
部屋全体に声が響いた。
「……これ、どうすればいいんだ?」アレンが焦りながら言う。
「落ち着け。こういうのはまず冷静に仕掛けを調べることだ」ケインが部屋を歩き回りながら砂時計を観察し始める。
リリアも慎重に砂時計を見ていたが、途中で視線を外し、何かを考え込むような表情を見せた。
それぞれの砂時計の前には、異なる試練が用意されているようだった。例えば、「力」の砂時計の前には巨大な岩があり、それを動かさなければならないようだった。一方で、「知恵」の砂時計の前には複雑な暗号が記された石板が置かれている。
「三人で分担してやるしかなさそうだな」ケインが提案した。「力は俺がやる。お前たちは他のを頼む」
「私が知恵の石板を解くわ」リリアが即答する。
「なら、俺は……信頼か、犠牲ってところかな?」アレンは不安げに呟いたが、仕方なく自分の位置についた。
時間が流れる中、それぞれが試練を進めていった。ケインは巨大な岩を押し、リリアは石板の暗号を解き、アレンは「信頼」の試練で仲間を信じる選択を強いられていた。
だが、その途中でアレンは異変に気づく。
リリアが「犠牲」の砂時計の前で手をかざしていたのだ。
「リリア! 何をしているんだ!?」
彼女は驚いた様子で振り返り、すぐに言い訳するように答えた。
「こっちが少し気になって……助けるために確認してただけよ」
だが、その言葉にはどこか違和感があった。彼女が暗号を解いている途中で、なぜ別の砂時計に関わるのか――それは試練のルールに反しているようにも思えた。
さらに不審だったのは、リリアが砂時計に手をかざした瞬間、「犠牲」の砂時計の砂が止まっていたことだ。
その後、三人は何とか試練をクリアし、次の扉が開かれた。しかし、アレンの中に芽生えた疑念は消えなかった。
なぜリリアは、「犠牲」の砂時計を止めることができたのか? そもそも彼女の行動は試練のルールに適合していたのか?
リリアの態度は一見すると自然だったが、その裏には何か隠されているように思えた。
「よし、これで次に進めるな」ケインが満足そうに言う。
「……ああ、そうだな」アレンは曖昧に答えた。
リリアは何も言わず、ただ扉の先を見つめていた。その目には微かな迷いと、何かを隠すような影が映っていた。