第3話:迷宮のルールと新たな出会い
扉の先に待っていたのは、まるで別世界のような光景だった。先ほどの暗く陰鬱な空間とは打って変わり、天井からは青白い光が差し込み、地面には青く輝く苔が広がっている。だが、その静寂がかえって不気味だった。
「おい、ここは一体……」アレンが呟いた瞬間、不意に声が響いた。
「よくぞこの階層まで生き延びたな、外の者よ」
二人が声の方向を向くと、そこにはフードを被った男が立っていた。長い杖を持ち、細身の体つきのその男は、アレンたちを冷たい目で見つめている。
「誰だ……!」ケインが剣を構えるが、男は一切動じない。
「名乗るほどの者ではない。だが、この迷宮の掟を教える役目を負わされている。お前たちが生き延びたければ、耳を傾けることだ」
フードの男は杖を軽く振り、地面に魔法陣を描き出す。その中心には、いくつかの言葉が浮かび上がった。
「迷宮のルール」
男は淡々と語り始める。
1. 迷宮には階層ごとに試練があり、これを突破しなければ次の階層には進めない。
2. 迷宮内では定期的に「掃討」が行われる。この時、生存者以外はすべて消される。
3. 迷宮の深部に辿り着く者には選択が与えられる。だが、それは世界の命運を左右するものだ。
「世界の命運……?」アレンが聞き返すと、男はじっと彼を見つめた。
「そうだ。この迷宮に足を踏み入れた者は、ただの探検者ではない。お前たちは、この世界を救うか、滅ぼすかの役目を担う者たちだ」
意味がわからなかった。単なる冒険の延長でこの迷宮に挑んだはずのアレン。だが、その言葉には抗えない力が込められているように感じた。
「お前たちには、次の階層でさらに難解な試練が待ち受けているだろう。そのためには”仲間”が必要だ」
男が杖を振ると、背後の霧の中から一人の少女が現れた。
年の頃は16~17歳だろうか。赤い髪を短く切りそろえた少女は、腰に双剣を下げており、その目には強い意志が宿っていた。
「紹介しよう。彼女はリリア。ここまでの階層で”掟”を守り抜き、生き延びた者だ」
リリアは一言、「よろしく」とだけ短く言い、アレンとケインを見つめる。
「三人……か」ケインが腕を組む。「まあ、戦力が増えるのは悪くないが、ガキじゃ役に立たねえぞ」
「誰がガキよ!」リリアは険しい顔で睨みつける。「私だってここまで生き残ったんだから、それだけの実力はあるわ」
「まあまあ!」アレンが二人の間に入る。「これから一緒にやるんだから、まずはお互いを知るところから始めようぜ」
フードの男は静かに三人を見つめていたが、やがて再び口を開いた。
「最後に言っておこう。この迷宮において、”信じすぎること”も、”疑いすぎること”も命取りだ。お前たち自身で選択することだ」
男の姿は次第に霧に溶けていき、完全に消えた。残された三人はしばらく沈黙していたが、やがてリリアが口を開いた。
「次の階層に行きましょう。ここで立ち止まっている時間はないわ」
ケインが不敵に笑い、アレンは小さく息をついた。
「よし、行くか。どうせ俺たちに帰る道なんてないんだ」
三人は再びダンジョンの奥へと足を踏み入れる。背後には、誰もいない静寂だけが広がっていた――。