第16話:フィンの試練と新たな闇
フィンという人物の登場に、アレンとリリアは次第に警戒心を強めていった。彼の言葉には明らかに計算された冷徹さがあり、どこか人間味を感じさせない雰囲気を持っていた。
「僕が君たちの試練を観察する者だって言っただろう?」フィンは静かに続けた。その目は、まるで全てを見透かすようにアレンとリリアを見つめている。
アレンは少しだけ顔をしかめ、言葉を選ぶようにして尋ねた。「試練を観察する? その意味が分からない。」
「簡単なことさ。君たちは今、迷宮の最深部に足を踏み入れた。ここには、すべての試練が集まっている。しかし、その試練を突破するためには『選択』が必要だ。」フィンの言葉には重みがあった。「君たちがどう進むか、どう選ぶか、それがすべてだ」
リリアが静かに口を開いた。「選択? それは…私たちに何かを選ばせるってこと?」
フィンは微笑んだ。「そうだ。試練を超えた者だけが次に進むことができる。だが、注意しなさい。選択を間違えれば、全てを失うことになる」
その時、アレンの背後で何かが動いた。振り返ると、そこには見覚えのない人物が立っていた。身なりは少し荒れているが、どこか貫禄のある男性だ。その目は鋭く、まるで戦いを重ねてきたような厳しさを感じさせた。
「誰だ?」アレンが警戒心を込めて声をかけた。
その人物はゆっくりと歩み寄り、軽く肩をすくめて言った。「俺の名前はジョージ。呼びやすい名前だと思うけど、まあ、どうしても難しければ『お兄さん』でもいいよ」
「ジョージ…?」リリアがその人物を見つめる。「あなたも試練に来たの?」
ジョージは肩を竦めて、冗談めかして答えた。「まあ、試練って言えばそれまでだけどさ。人生は色んな挑戦で成り立ってるし、何だって試練みたいなもんだろ?」
アレンが少し目を細めて尋ねる。「試練? それってどういうこと?」
ジョージは軽く笑い、足元を見ながら話を続けた。「ほら、なんて言うか。人ってさ、気づかないうちに自分に挑戦してることが多いんだよね。今もこうして迷宮に来てるわけだし、どうしたって選択しなきゃならない時がくるってわけ」
アレンは少し困惑しながらも、さらに話を続けた。「それで、君はどういう立場でここにいるんだ?」
ジョージは少し黙った後、真面目な顔をして答えた。「俺は、君たちが進むべき道を選ぶ手助けをしに来たんだ。君たちがどんな選択をするにしても、それには大きな意味がある。どんな選択をしても、それなりの結果が待っている。それがこの迷宮の面白いところなんだ」
リリアはジョージの言葉をじっと聞き、少し考え込んだ。「選択には、何か…代償が伴うの?」
ジョージは無邪気に肩をすくめながら答えた。「代償がない選択肢なんて、どこにもないって。選んだ瞬間に、それなりの責任を背負うことになるんだよね。でも、選ばなければ次に進むこともできない。選択って、そういうもんだろ?」
その時、アレンは不安を感じながらも一歩踏み出した。「それで、君はその選択をどのようにして知っているんだ?」
ジョージは意味ありげに微笑みながら言った。「だってさ、俺は過去に何度もこの迷宮を歩いたからね。だからこそ、君たちには『今』の選択をしっかり見極めてほしいんだ。もちろん、君たちが何を選んでも、後悔することはないと思うけど…どんな結果が待ってるかは、誰にも分からないってことだけは覚えておいて」
アレンとリリアはジョージの言葉に何かを感じ取ったが、まだ完全にその意図を理解していない様子だった。
「それで、君たちの選択はどっちかって?」ジョージは急に真剣な顔をして言った。「進む道がどんなに険しくても、引き返すことだけはできない。進んだ先には、どんな試練が待ってるか分からないんだから」
その瞬間、周囲の空間が揺れ、ひび割れた音が響く。アレンとリリアは身を固めて警戒したが、ジョージは何事もなかったかのように続けた。「まあ、最終的に選ばなきゃならないのはお前たちだってことさ。さあ、選べって」
その言葉を最後に、空間の歪みが広がり、再び迷宮の深部へと彼らを導く準備が整った。