第15話:サイの秘密と歪んだ世界
サイという新しい仲間が加わったことで、アレンとリリアは少しだけ安心した気持ちを抱いていた。彼は不安げな表情をしていたが、どこか頼もしい感じがしていた。
「君たちが迷宮に迷い込んだ理由は、きっと僕も同じだろうけど、ここからは少しずつ謎を解いていかないとね」とサイは言った。彼の言葉には確信が込められていた。
アレンはその言葉に耳を傾けながらも、サイの言動に少し違和感を覚えていた。「でも、君、さっきから何も説明してくれないよね?どうしてここにいるんだ?」
サイはにっこりと笑った。「それはまだ話せないけど、君たちが知るべき時が来る。今は、君たちも同じようにここで試練を乗り越えなければならない。」
その時、リリアがふと空を見上げた。「あれ…何かおかしい気がする…」
空が、まるで重力を無視してひとつの点に引き寄せられるような動きを見せ始めた。それはまるで時間そのものが歪んでいるかのような感覚だった。空がねじれる音が響き、その中心から赤い光が漏れ始めた。
「この現象は…?」アレンは目を見開いた。
サイは冷静に答えた。「そう、これは『リセット』だ。ここに閉じ込められている私たちが、一度すべてを終わらせて、新たな試練を迎えるための儀式だ」
「リセット…?」リリアは意味が分からない様子で尋ねた。
「そうだ。リセットをすることで、過去の試練を無にし、新しい道を開くんだ。でも、この過程には犠牲が必要だ」とサイは淡々と説明した。
その瞬間、空間が一瞬にして歪み、アレンの目の前で何かが崩れ落ちていった。それは、レオの死のように瞬間的だった。アレンが振り返った時、サイの姿が消えて、空間が再構築されていくのが見えた。
「まさか…」アレンが呆然とした。
「リセット完了…」リリアが静かに呟いた。その声には、どこか冷徹な響きがあった。
アレンがその変化に気づくと、リリアはもう目の前の世界に興味を失ったかのように空を見上げていた。その視線は虚ろで、どこか遠くを見つめているようだった。
「リセットが…終わったんだね」リリアは、どこか乾いた笑みを浮かべながら呟いた。「もう戻れないかもしれないけど、私たち、やるしかないんだよね」
アレンはその口調に戸惑いながらも、すぐに切り替えて周囲を見渡した。目の前に広がるのは、かつて見たこともない世界だった。地面は宙に浮き、空はひび割れ、まるで何もかもが崩れ落ちる寸前のような状態だ。時間そのものがねじれて、まるで現実が解けていくように感じた。
「ここは一体…?」アレンは言葉を失った。
リリアはもうアレンの方を見ず、どこか遠くの景色を眺めながら静かに言った。「知ってる。こんな世界、初めてじゃない。私たち、きっとまた試練を受けるんだ」
その言葉の裏には、以前のような希望や不安は感じられなかった。どこか達観したような冷徹さがあった。
「でも、もう逃げられないんだよね」リリアの目が鋭く光り、まるで何かを決意したかのように続けた。「私たちが今、ここにいる理由…その答えを見つけるしかない」
その時、再び空間が歪み、ひび割れた地面から何かが現れる気配がした。アレンはその気配に反応し、リリアの方を見たが、彼女はもう振り返らず、ただ一歩を踏み出した。
その先に何が待っているのか、アレンには分からなかった。ただ、今は進むしかないと思った。
突如、地面が崩れ、アレンの足元がすくわれそうになった。その瞬間、アレンの目の前に現れたのは、かつてサイと同じように異世界的な装置を身に着けた人物だった。髪は黒く、顔に無表情な笑みを浮かべたその人物は、まるでアレンたちを待っていたかのように、静かに立っていた。
「君たち、やっと来たね」その人物が言った。その声はどこか穏やかで、しかし何か冷たい響きがあった。
「君は…?」アレンはその人物を警戒しながら尋ねた。
その人物は、アレンをじっと見つめながら静かに答えた。「僕の名前はフィン。君たちの試練を観察する者だ。これから君たちには、前よりももっと過酷な選択が待っている」
「選択?」アレンは目を見開いた。「何を言ってるんだ?」
フィンは微笑んだ。「それは君たちが、今、ここにいる意味を知る時に分かるよ」彼の目はどこか深い闇を秘めているようだった。