第14話:失われた命と奇妙な転換
巨大な影が迫ってくる。アレンとリリアは立ちすくんだまま、その影の動きに圧倒されていた。その影は、まるで無数の目が集まったように、異常なほどに迫力を持っていた。
「これは…何だ?」アレンは目を見開きながら、息を呑んだ。
「気をつけて!」レオが叫んだ。その声にアレンは反応し、手に持っていた剣を握りしめた。しかし、その時、何も見えない空間が急にねじれた。
突然、レオが前に飛び出し、巨大な影に立ち向かおうとした。アレンは「待て!」と叫び、手を伸ばしたが、間に合わなかった。
レオが影に触れた瞬間、彼の体が光を放ち、空気が震えた。そして、その光が一瞬にして消えると、レオの姿は跡形もなく消えていた。
「レオ!」リリアが叫び、目の前の空間を必死で探したが、レオはどこにもいなかった。まるで、空気が彼を呑み込んだかのように、存在そのものが消えてしまった。
「どういうことだ?」アレンは呆然としたまま呟いた。「何が起きたんだ?」
その時、空間がまた揺れ、何かが変わる兆しが見えた。アレンはその気配に気づき、すぐにリリアを引き寄せた。「リリア、気をつけろ!」
突然、真っ暗な空間から、何者かが現れた。それは、何とも奇妙な姿をしていた。長い髪を持つ女性で、顔には何か不気味な微笑みが浮かんでいる。しかし、その瞳はどこか冷たく、そして無感情な光を放っていた。
「誰だ?」アレンが警戒しながらその人物を見つめた。
その女性は静かに答えた。「私はエリス。この迷宮に来た者の一人だ。あなたたちとは別の試練に挑んでいる」
リリアはその女性を警戒しつつも尋ねた。「試練? それなら、レオはどうしたんですか?」
エリスは一瞬だけ無表情を見せ、その後、ふっと笑った。「レオ? ああ、彼はもう試練を超えたのでしょう。でも、私の試練に参加する資格はなかった」
「資格?」アレンは不安げに聞いた。「どういう意味だ?」
エリスは優雅に一歩前に進み、その姿勢を崩さずに答えた。「この迷宮は、試練を越えられない者を飲み込む場所だ。レオは…あなたたちの試練を乗り越えるためには必要のない存在だった」
「そんな…」リリアが驚きの声を上げた。「レオが…試練に必要なかった?」
「そう。私がここに来た理由も同じ。私たちは、迷宮の『余剰』なのです。だって、この場所には、あなたたちにふさわしい仲間だけが残るのだから」とエリスは言い切った。
その言葉に、アレンは強い違和感を覚えた。何かがすべておかしい。レオが消えた理由は、ただの偶然ではないはずだ。
「何だ、これ…」アレンが声を震わせながら呟いた。
エリスはその言葉に反応することなく、さらに一歩踏み出した。「あなたたちがこれから進む道には、もっと恐ろしい試練が待っている。私がその道を案内するわ」
その瞬間、エリスが手を掲げると、空間がまた歪み始めた。光と闇が交錯し、その間に無数の影が現れた。エリスの姿が揺らぎ、アレンとリリアの周りが急激に変化を始めた。
「待って、どこに行くんだ!」アレンはエリスに向かって叫んだが、その声は彼女に届くことはなかった。次の瞬間、アレンとリリアは、エリスが作り出した異空間に引き込まれた。
気がつくと、アレンは目を覚ました。周りはすっかり変わり果てていた。もはや迷宮とは言えないような、広大な草原が広がっている。頭上には異常に赤く染まった空が広がり、その下に立つ一人の人物が見える。
その人物は、エリスではなく、まるで異世界から来たような格好をしていた。彼の肩には奇妙な装置が装着されており、顔にはどこか迷子になったような表情を浮かべていた。
「おい、君…誰だ?」アレンはその人物に向かって声をかけた。
その人物はゆっくりと振り返り、にっこりと笑った。「ああ、君たちか! ようやく会えたんだね。僕の名前はサイ。君たちの新しい仲間だよ」