第12話:心の試練と奇妙な遊び
迷宮の奥深くに進むにつれ、空気はますます重くなり、足音が響くたびにその音が異常に大きく感じられた。アレン、リリア、ケインの三人は、何度も立ち止まりながらも、ひたすら歩き続けた。迷宮の廊下はどこまでも続き、時折不気味な音が響いてくるだけだった。
「ここは…どこまで続いているんだ?」ケインが顔をしかめながら言った。
「分からない。ただ、前に進むしかないんだ」とアレンは答えた。
突然、前方に扉が現れた。その扉は、どこか普段の迷宮のものとは違って、鮮やかな色彩に包まれていた。赤や青、緑、黄色の光があたりを照らし、その扉の周りには奇妙な模様が刻まれていた。
「この扉、今までのとは明らかに違う」とリリアが言った。
アレンは深呼吸し、扉を開ける決意を固めた。「進むしかない。俺たちの試練が待っているんだ」
扉を開けた先に広がっていたのは、奇妙な空間だった。まるで現実世界から隔絶されたような場所で、空間は歪んでおり、無数の光が漂っていた。その中央には、奇妙な形をしたテーブルが置かれており、その上に何かが乗っていた。それは、まるで子どもが遊んでいるかのような、不思議な道具だった。
「何だ、これは?」ケインが目を丸くしてその道具を見つめた。
アレンとリリアもその道具に近づくと、それはまるで「無重力ボール」と呼ばれる不思議な道具だった。この道具は、手で軽く触れると、空中に浮かんで回り始め、自由自在に動かすことができる。しかし、見た目に反してその動きには一切の制約がなく、ボールが一度動き始めると、どこまでも追いかけることができるのだ。
「これは…何だ?」アレンが訝しげに尋ねた。
リリアがしばらく考えた後、答えた。「これは『無限回転ボール』という遊びに使う道具だと思う。まるで迷宮のように、終わりがないように見える」
「無限回転ボール? そんな遊び、聞いたことがないぞ」とケインが言った。
「そうだろうね。現実には存在しない遊びだから。でも、この迷宮の中では、そういう奇妙なものが現れることもあるんだ」
「どういう意味だ?」アレンが首をかしげた。
リリアは道具を指差して説明を始めた。「この遊びは、無重力ボールを使って、自分の意識を集中させ、ボールの動きに合わせて進む道を探すというものなんだ。ボールがどこに飛ぶかを予測し、その予測を次々と繰り返すことで、次に進むべき道を導き出すことができる」
ケインは少し不安そうに言った。「それ、結局ボールを追いかけてただ走り回るだけじゃないのか?」
「いいえ、そうじゃない。無重力ボールは、あなたの心の状態を映し出す鏡のようなもの。ボールがどこに飛ぶか、それにどう反応するかが重要なんだ」とリリアが静かに言った。
アレンはその意味を理解できないまま、無重力ボールを手に取った。手にした瞬間、ボールは軽く回転を始め、空中で不規則に動き出した。アレンはその動きに合わせて追いかけるが、ボールはあまりにも速く、まるで自分の意志とは無関係に動いているかのようだった。
「どうやら、ボールの動きには、こっちの思考が反映されているみたいだ」とリリアが言った。「ただし、集中力が足りないと、予測はうまくいかない」
アレンは深く息を吸い、心を落ち着けてボールを追い続けた。ボールは一度も同じ場所に留まることなく、次々と新しい方向に飛んで行く。その動きに合わせて、アレンは無意識に足を動かしていった。
「これが試練だって言うのか…?」アレンは自分の意識と体を駆使してボールを追いながら、ふと思った。だが、その時、突然ボールが逆方向に飛び、アレンは思わず足を止めてしまった。
その瞬間、ボールがそのまま床に落ち、跳ね返った。跳ね返り方が不規則で、まるで無限に跳ね続けるように感じられる。
「これも一つの試練だ」とリリアが言った。「お前の心の奥底に隠れているものが、無重力ボールを使って現れる。それを乗り越えることが、この試練の目的だ」
その後、アレンはボールを追い続けるうちに、少しずつ自分の心の中に潜む不安や恐怖を感じるようになった。そして、ボールが跳ねるたびにその不安は増していき、最終的にアレンは思わずボールを力強く掴んだ。
「やっと、捕まえた…」アレンは息を荒げながら、ボールをしっかりと握りしめた。
その瞬間、目の前の空間が歪み始め、無数の光が放たれて、ボールが消えた。
「試練が終わったということか?」ケインが呟いた。
リリアは静かに頷いた。「そうだ、アレンは無重力ボールの試練を乗り越えた。次の扉が開くはずだ」
その言葉とともに、前方に新たな扉が現れ、三人はその扉を開ける決意を固めて進み続けた。