第11話:過去との対峙
アレンの目の前に現れたのは、間違いなく亡き父親の顔だった。その姿に、アレンは言葉を失った。長い間思い出すことができなかった顔、その顔が今、目の前に立っている。
「父さん…?」アレンが震える声で呼びかける。言葉が喉に詰まり、思うように口から出てこない。
父親の姿は、どこか遠くを見つめるような目をしていた。まるでその目の奥に隠された何かを探しているように。やがて、父親はゆっくりとアレンの方を向き、その口を開いた。
「お前、どうしてここにいるんだ?」
その言葉は、アレンの胸に深く突き刺さった。何もかもが分からなくなった。迷宮での試練、父の死、そして今ここに立つ父親――すべてが矛盾しているように感じた。
「どうして…父さんが…?」アレンは呆然としたまま父親に問いかけた。「あなた、死んだはずだ! どうして…」
父親は静かに首を振った。「死んだ…? いや、俺は死んでいない。ただ、迷宮に引き寄せられたんだ。この場所に囚われているだけだ」
その言葉にアレンは眉をひそめた。「迷宮に引き寄せられた? それってどういうことだ?」
「俺もお前のように、迷宮の力に飲み込まれた。だが、俺にはお前を守ることができなかった」父親は目を閉じ、深いため息をついた。「お前が迷宮に足を踏み入れた時点で、すべてが決まっていたんだ。お前の試練も、俺の試練も、すべてこの場所の力によって決められている」
その言葉を聞いたアレンは、ますます混乱した。「試練…それって一体どういうことなんだ? どうして僕がこんなことに巻き込まれなきゃならない?」
父親は再びアレンを見つめ、その眼差しはどこか懐かしさと悲しみを帯びていた。「お前がここに来た理由は、きっとお前の中にあるものを試すためだ。この迷宮は、お前の心の深層を映し出す場所だ。それが答えだ」
アレンは、父の言葉にますます疑念を抱いた。「心の深層? それって、どういうことだ?」
その時、突然、周囲の空気が変わった。迷宮の空間が歪み、光と闇が交錯し、アレンの周囲が揺れ動いた。父親の姿もぼやけ、すぐに消えていった。
「アレン、しっかりして!」
アレンが気がつくと、リリアの声が耳に届いていた。彼は目を開けると、そこにはリリアとケインの姿があった。
「おい、大丈夫か?」ケインが心配そうにアレンの肩を揺さぶった。
アレンはしばらく放心していたが、やっと現実に戻ると、父親の姿は消えていた。周りを見渡すと、あの奇妙な部屋に戻っていた。
「何が…起きたんだ?」アレンは息を切らして言った。
リリアが真剣な表情で答えた。「あなた、急に倒れて、幻覚を見ていたみたい。何かに取り憑かれたみたいに」
「幻覚…? でも、あれは確かに父さんだった…」アレンは自分が何を見たのか信じられず、頭を抱えた。
ケインは腕を組み、あごに手を当てながら言った。「どうやら、この迷宮、ただの迷宮じゃないな。お前の過去に深く関わっているみたいだ」
アレンはしばらく黙っていたが、やがて決心したように言った。「父さんが言っていたこと、試練だとすれば、僕には何かを乗り越えないといけないってことだ」
リリアはしばらくアレンを見つめ、やがて頷いた。「そうね。私たちがここにいるのも、きっと試練を乗り越えるため。あなたの過去を知ることで、何かが変わるのかもしれない」
ケインが冷静に言った。「そうだとしても、この迷宮には危険が満ちている。慎重に進まないと、何が待っているかわからないぞ」
アレンはしばらく黙った後、再びその先に進む決意を固めた。「よし、行こう。この迷宮の真実を知るために」
リリアとケインも頷き、三人は再び迷宮の奥深くへと進んで行った。その先に何が待ち受けているのか、誰にも分からなかった。しかし、アレンは一つ確信していた。それは、迷宮を抜けるためには、自分の過去をしっかりと向き合う必要があるということだ。