第9話:幻のモンスターと迷子のカラス
ある日、迷宮の外れにひっそりと佇む、小さな町があった。その町は、アレンやリリア、ケインが今まで一度も足を踏み入れたことのない場所だった。
町の名前は「チョコレート村」。村人たちは日々、チョコレート作りに励んでいることで有名で、その製品は世界中の迷宮の住人たちに愛されていた。
村の広場にある小さなカフェで、今日も一匹のカラスが不安そうに飛び回っていた。このカラス、名前は「ココア」。迷宮の外で迷子になってしまい、今や村の観光名物として、時折観光客に「迷子のカラス」として写真を撮られることになっている。
「うーん、やっぱりカラスって難しいなぁ」と、ココアは悩みながら飛び回っていた。彼の目的は、迷宮でよく見かける「幻のモンスター」を探し出すこと。あまりにも不明瞭な存在であり、噂でしかその姿を見た者はいなかったが、ココアはその真実を突き止めたかったのだ。
そのモンスターの名前は「チョコモンスター」。伝説によれば、チョコモンスターは迷宮内のどこかに現れ、無限にチョコレートを供給してくれるというが、誰もその存在を確認したことはない。そんなものが存在するはずもない、と思う者も多かった。
「これじゃ、カラスの足でも使って探し続けるしかないな!」と決意したココアは、突然空を飛び立った。どこに行くつもりなのか、まったくわからない。とにかく、ひたすら飛び続けるのみだ。
町の人々は、特に気にすることもなく、ココアの飛行を眺めていた。それどころか、「あれ、またココアが迷子になってるよ」と笑いながら話すことが日常的になっていた。
ここで突然、ケインが立ち止まった。
「なあ、アレン、お前さ、チョコモンスターって知ってるか?」
アレンはしばらく考えた後、「チョコモンスター? それ、何だ? お前、また変なこと言ってんのか?」と答えた。
「いや、真面目に言ってんだよ! 迷宮のどこかにチョコモンスターってモンスターがいて、めちゃくちゃ甘いチョコレートを無限にくれるっていう噂があるんだ。昔、旅の者が言ってたぞ」
リリアが眉をひそめた。「それ、どう考えても信じられない話じゃない?」
「でもさ、何か気になるんだよな。もしかしたら、迷宮の深層にそれがいるんじゃないかって」とケインが続けた。
アレンは一瞬黙り込むと、「まあ、チョコレートは好きだから、見つけたら嬉しいかもな」と笑って答えた。
「まあ、それがモンスターだとしてもな」とケインが付け加えた。
その時、リリアがふと気づいた。先ほど見かけた奇妙な足跡を思い出した。
「待てよ、これ、もしかしたら……」
一方、カフェの店内で、村の老人が古びた本をめくりながら言った。「ああ、チョコモンスターか。あれは昔、ある魔法使いが迷宮で作り出したと言われている。確か、甘いものを欲しがる者に力を与える代わりに、何かを奪っていったという伝説があったが、それが本当かどうかは誰にもわからん」
店の若いウェイターが興味津々に話を聞いていた。「じゃあ、あのモンスターって本当にいるのか?」
老人はゆっくりと首を横に振った。「いや、モンスターがいるかどうかはわからん。ただ、迷宮に関連している何かがあるんだろうな。誰かが本当に見たという話もあるが、それも夢の中の話に過ぎない」
その夜、村の広場にて、ココアはまたしても迷子になりながら、奇妙な冒険を続けていた。迷宮に向かって飛びながら思ったことは、ただひとつ。
「本当にチョコモンスターに会えるのか?」
そして、迷宮でアレンたちはその頃、奇妙な光景を目にした。
「これ、絶対変だろ……」アレンは手を腰に当てながらつぶやいた。
リリアも目を凝らして見た。そこには、普通のモンスターではなく、チョコレートでできた巨大な像が立っていた。全身がカカオの香りに包まれ、目からチョコレートが滴り落ちている。
ケインが目を丸くして言った。「……本当にいたのか、チョコモンスター」
「これ、絶対に罠だろ」とアレンが言ったが、いまさら後戻りもできない。