プロローグ:死者の呼び声
夜明け前の静寂を破るように、アレン・クロードの目が覚めた。
体中を冷たい汗が流れ、荒い息が胸を震わせる。夢の中で見た光景が、まだ鮮明に脳裏に焼き付いていた
「デスダンジョン」
その名前を聞いた者は恐れ、決して近づくことを許されない禁忌の迷宮
人々はそこを「生ける者が死者になる場所」と呼び、ただの伝説として語り継いでいた
だが、アレンにとってそれはもう伝説ではない。夢の中で見た無数の死体、崩れ落ちた建物、そして黒い霧の中に立つ一人の「女王」
彼女は微笑みながらこう告げた
「運命はもう逃れられない。この世界は終わるのだから」
アレンは普通の冒険者だった。いや、普通以下だったと言える。C級冒険者として日々の生活に追われ、迷宮探索の依頼をこなすことでかろうじて食いつないでいる。スキルも平凡、体力も普通。唯一の特徴は、異常なまでの「生き残り運」だった。どれだけ危険な状況に陥ろうとも、何故か最後には生き延びていた。
しかし、それは彼の「幸運」ではなく、世界そのものが仕掛けた罠だったのかもしれない。
その日、アレンは酒場でいつものように次の仕事を探していた。冒険者たちが交わす噂話に耳を傾けると、ひとつの話題が繰り返し耳に入ってくる。
「デスダンジョンが動き出した」
どうやら近隣の村々で異常現象が起きているらしい。家畜が突然死する、空が黒い霧に覆われる、行方不明者が増える――そして、その中心にあるのがデスダンジョンだという。
アレンは心の奥底で感じていた。「これは、俺に関係がある」と。
翌日、アレンの前に一通の黒い封筒が届けられる。差出人の名前は書かれておらず、中に入っていたのは一枚の古びた地図だった。
地図の中央には、不気味な文字が描かれている。
「死者の迷宮へ至れ」
迷うことなく、アレンは決意する。どうせこのまま生き延びても、答えが得られることはない。全ての真実を知るために、彼は禁忌の地へ足を踏み入れる。
運命の歯車が、いま動き始めた。
「デスダンジョン」への入り口は、巨大な崖の中腹に存在していた。黒い霧が渦を巻くその入口に立つと、冷たい風がアレンの頬を撫でる。
「さあ、行こうか――」
足を踏み入れた瞬間、世界が裏返ったような感覚に襲われた。そして次に目を開けたとき、そこは死者の迷宮と化した地下世界だった。