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#9 距離感…

「では、私たちはこれで失礼いたします」


「鍛鉄おじいちゃん連絡待ってまーす!鋼太くんもまたね〜」


談笑もほどほどに山城家の2人は帰って行った。

…かと思いきや、ギャルが「そうそう!」と言いながら、くるっと踵を返して戻ってきた。


「鋼太くん、私のことは"千紗"って呼んでね!今日は全然話せなかったし、このままだと名前も覚えてくれてなさそうだったからさぁ…かなしみ。同い年なんだし、バイト仲間になるんだから仲良くしてこーね」


「…善処します。山城さん」


「ん!違う〜、千・紗!ちーちゃんでも、ちさたそでもオッケーだよ。仲良し達はそうやって呼ぶからさ!…その場合、こう君って呼んだほうが良いのかも!?そうしよ!」


何かよくわからない理論で展開が進んでいく。…考えるのがめんどくさくなってきた。ギャルは理屈で生きていないってことなんだな、きっと。


「…ちさたそさん、ちーっす」


「お!いいね、こう君ノリ良い〜。それとさそれとさ、今度包丁研ぎ?も教えて欲しいの!この間、お店でやってるの見た時、職人さんみたいでちょーカッコよかったの!私もできるようになりたいって気持ちもあるんだけど、まずはもっかい同じ作業を見てみたい的な感じ」


「…ちさたそさん、善処します」


「ゼンショゼンショ!約束ね!じゃまたね〜。ばいばいきーん」


軽い足取りでちさたそさん(毎回これは無理)が店から出て行った。夕立の後のような静けさが店内を満たしている。


「元気で可愛らしい子だったな。小さい頃しか知らなかったから、見た目にはちと驚いたが…」


「驚いたじゃねぇよ!あの身なりで学校の前で出待ちされてて…おまけに名前まで大声で呼ばれたこっちの身にもなれよ!」


「それは悪かったっての。奏士郎さんのあの顔見ただろ?あんな雰囲気で店にいられたんじゃ俺の大事な寿命が縮まるわ。」


「じっちゃん、まじであの子店番にするん?あっちの爺様は満足げだったけど、正直浮いてたぞ」


「ん?まぁここらは外人さんも多いからいいんじゃねぇかな。素直で真面目で元気がありゃ問題ないだろ」


「さいですか。まぁ落ちる売り上げもないし、俺は工房いけるし、何でもいいや」


「やかましいわい」


「あ、そうそう。店番の件なんだけど…」


「ん?なんだ、まだ文句があるんか?いくら言っても採用は覆らんぞ、女々しいやつだな」


老眼鏡を片手にシフト表(手書き)を絶賛作成中のじっちゃんはめんどくさそうに顔を上げた。


「ちげーよ。実は俺の友達にもこの店を手伝いたいって言ってる子がいるんだけど…」


「…は?このオンボロで?なんで?」


えぇ…ひでぇ言いようだな。歴史ある店構えなのではなかったのか?


「鋼太よ、まさか学校で大袈裟にこの店のことを誇張したんじゃないのか?素晴らしい技術が〜とか、時給が良い〜とかなんとか。お前の尻拭いはせんぞ!誰がなんと言おうと時給はお前と同じだからなッ!分かったらきちんと訂正して、男らしく謝罪して…」


「んなこと金もらっても言わねぇよ。誰がこんな辛気臭くて客もろくに来ない店の事を自慢げに話すんだよ。褒める場所なさすぎて話のネタにもなんねぇよ」


「お前ッ!この店の事そんな風に思ってたんかッ!」


自分の発言も顧みて喋って欲しいもんだね。言ってることがめちゃくちゃだし、最低賃金は誇れることじゃないんよな。


「んなことより、店番の件考えておいてくれよ、山城さんちの子優先でいいからさ。ダメならダメってはっきり断るし、今回ばかりはタイミングが悪かったよ」


「分かった分かった。まぁ2人も店番が居てくれるんなら、鋼太が店番する必要ないかもな。ひとまず山城さんの所からは希望日を聞いているから、それ以外の日付を伝えるってことで良いかね?」


「あぁ、ノープロよ。向こうの予定もあるだろうから、2人とも入れない日は俺が店番するわ」


「…話は変わるが、例の書の解読は進んでるんかねぇ?」


「ギクッ!…マジでサボってるわけじゃないんだけどさぁ〜むずすぎるんだわ、テストもあったし。攻略本とかヒントとかないん?」


「ガッハッハ。前も言ったが自分で解読してこそだが…まぁ俺も鬼じゃねぇ。工房で修行しながらの方が体感もできるし身につきやすいからな」


「…じっちゃんは1人で全部読めたんかよ」


「あったり前じゃ。死ぬ気になれば人間なんでもできるぞ」


…じぃーーーーー


「…んまぁ、時間はな。時間はそりゃかかったぞ。2週間やそこらじゃなくてそりゃ長い時間はかかった。ま、まぁそれぐらい長い時間熱意を持ち続けたってことだな」


「…なんでちょっと焦ってんだよ。なーんか怪しいな」


「ぅおっほん!まぁ知識を頭に入れるだけでもそれだけ根性が必要ってことよ。鍛治の書もあの一冊だけじゃねぇし、体を動かす必要も出てくんだから覚悟しとけよ!」


「…ふ〜ん。まぁいいけど。俺ってば頭よくねぇからさ、猿でも分かるように頼むよ。ウキキ」


この後、本日2度目のゲンコツを食らった。謙遜って難しいな。

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