#7 じっちゃん、説明してくれよ
「それで、じっちゃんよぉ。この状況どうなってるか説明してくれるんだよな?」
自転車で家に帰ると、店の前で鹿せんべいをあげているギャルがおり、その隣にはじっちゃんと、見知らぬダンディーな爺様が俺の帰りを待っていた。先ほどの出来事はやはり夢ではなかったらしい。
「おぉ、鋼太よ、待っていたぞ。まぁ立ち話もなんだ、ひとまず店に入ろうかね」
「聞きたいことは山々だけど、ひとまず茶でも買ってくるわ。先入ってて」
「おぉ、すまんな。よろしく頼むわ」
途中で買ってくればよかったのだが、非現実的な出来事を頭が処理しきれず、白昼夢の可能性を否定できなかったのだから致し方無い。ひとまず、逃げると言う選択肢もあるにはあるが…ここは大人しく状況に流されることにした。
じっちゃんが1番好きな『お~い、お茶』を主軸に、『午後の紅茶』などのジュース類と紙コップをレジで購入。あとで請求しよっと。
店に入ると奥の方の小上がりに皆さん勢揃い。
「お待たせしてすみませんでした、っと。では、飲み物準備してるから、適当に始めちゃってください〜」
「あ、私は午後ティーのミルクティー1番好き!ありがとう!自分で注ぐからいいよ、お気遣いなく〜」
「では遠慮なく、そちらの爺さんは…?」
そう言った途端、ゴチンッとゲンコツが飛んできた。マジでいてぇ…。
「このバカ孫がッ!礼儀も知らんのかッ!…山城さん、ウチのもんが世間知らずですみません」
「いえいえ、構いませんよ。急にお邪魔して迷惑をかけてるのはこちらですからね。それに我々は"城"同士。一族みたいなもんですから、持ちつ持たれつで堅苦しくなくいきましょう。」
ん?城同士?なんかよく分からんワードが飛び交ってるな…もしかして知らないのって俺だけ?
「鋼太よ、この方は山城家の方達だ。昔話したかと思うが…ありゃ話してなかったかの?」
「聞いたことねぇよ。親戚付き合いすらほとんどないし、榎森んとこのおじちゃんおばちゃん以外ウチと関係がありそうなことに驚きだわ」
「あぁ、そうかそうか。そりゃすまんかったな。山城さんとこは親戚じゃねぇが、俺の仕事仲間だよ」
「仕事?鍛治関係とは思えないほど華奢だけど…?」
「何でもかんでも体力で解決できるもんでもない。少し昔話をしながら山城さんとことの関係を話すかの」
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刀鍛冶の歴史は深く、平安時代から始まり明治時代までの約1400年近く、日本という国の技術の根幹に根ざしていた。
歴史を追うごとに技術は洗練されていったが、現代まで続く技術の根幹は鎌倉時代に築かれたと言われている。
鎌倉時代には後に七大鍛治士と呼ばれる者たちが誕生する。その内の1人が昔の奈良県、大和国にいた吉田与那吉であり、玉城家のご先祖様にあたる。
与那吉は元々商人として鉱石を主軸とした卸をしていたが、自分の商品を活用して何か出来ないかと考え鍛治を始めた。良い鉱石を見極める目、それを最良の状態で加工する感性によって、しなやかで強靭、且つ美しい日本刀を打つ名人であった。
しかし、日本刀とは刀身だけで出来ている訳ではなく、鞘や柄、鍔といった他の部位も合わせて構成されている。
吉田は素晴らしい刀身を打つことはできたが、それ意外にはめっぽう弱く、そこを支えていたのが山城さんのご先祖様である。2つの家は城下町の近くに家を与えられたことから、玉城・山城と性を改め一つの日本刀を製作した。
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「むかーしからウチの鍛治に付き合ってくれてるのが山城さんの家ちゃうわけだ。
そんで、ここにいらっしゃるのが、山城家の現当主。山城奏士郎さんと、その孫娘である千紗さんだ」
よろしく、とばかりに微笑んで会釈する当主と、ダブルピースをするその孫。対照的すぎるだろ。
「昔から鍛治を続けている家は減っているが、ウチと山城さんとこは今でもその関係を続けており、お世話になりっぱなしっちゅうわけだな」
「いえいえ、私どもは細かな作業は出来ても、あの美しい刀身は打てませんから。持ちつ持たれつの対等な関係ですよ。」
「いやいや、山城さんとこの技術は…」
「いえいえ、玉城さんあっての…」
爺様同士の褒め合いを横目に呆然とする俺、ミルクティーとお菓子を並べてアホほど写真を撮った後、美味しそうに食べているギャル。
俺の家のはずだよな?なんで俺が居心地悪く感じなきゃならんのよ。