#6 校門でエンカウント
〜前回のあらすじ〜
教室中が夏休み前の浮かれた空気の中、鋼太も隣の席のドジっ子大和撫子から夏休みの予定を聞かれる。
「ん?俺?俺は実家でアルバイトがあるから、特にイベントはないかな」
「そ、そうなんだ!玉城くんの実家は包丁屋さんだもんね。夏休み忙しいんだ?」
「あれ?俺の実家知ってるんだ。言ったことあったっけ?」
「あ!いや!!!全然!…そう!隣の席だから、今永くんと話してるの聞こえたの!そうそう!」
何だか変に取り乱しているが…盗み聞きしたみたいで申し訳ないのかな?商品の話までしたことあったっけかな?
「あ〜将吾との…そうそう、歴史だけはあるオンボロの金物屋ね。店番とかちょっとし作業するだけなんだけど、人手がいないから夏休みは結構手伝う予定」
「そっかぁ大変だね…わ、私も夏休み特に予定なくて暇なんだけど…お店手伝ったり、なんちゃってぇ」
えへへー、と恥ずかしそうな笑顔を浮かべて毛先をいじってる乙葉さん。
先日のじっちゃんとのやりとりがフラッシュバック。…
「え!?店の手伝い!?マジか、おっしゃ人材確保〜、ちょっと帰ったらすぐ確認…「ん゛ん゛ん!玉城、山名。私語は慎むように。夏休みに入るからと浮かれるな」」
ふと前を見ると、こちらを睨みつけているハゲガシラとニヤニヤするクラスメイト。…斜め前方のメガネ長髪くんからの殺気のこもった目線は無視することに決めた。あと、ニタニタしているクソ将吾は絶対に許さん。
「あわわわわ、ほんとにほんとに可能性あるんだ!ふふふふふふふふふ」
注意されたにも関わらず聞こえていない様子で俯いてニヤニヤしてる山名さん。
この子大丈夫なのか…?店番候補にすることもだが、もしじっちゃんに断られた時になんて伝えれば良いのか…
《キーンコーンカーンコーン》
「では、今日のHRはここまで。明日からの夏休みも我が校の生徒として誇りを…」
ハゲガシラがひつこいぐらいの注意を繰り返しつつ、夏休みが始まった。
帰る前に山名さんと連絡先を交換を済ませておいた。「私、返事いただけるの楽しみにしていますね!楽しみすぎて、寝られないかも…」なんて脅迫めいたことを言われつつ、そのときに背筋が凍るような視線を感じつつ、まぁそんなイベントがあったものの、至って平凡な夏休み入りになるはずだった
ーーーが、もう一つ事件が起こった。
靴を履き替え帰路に向かおうとしたのだが、何やら校門に人だかりがある。校舎を見上げると窓から見てる人も結構多い。なになに、有名人でもいるんか?俺が知らなかっただけで、イベントの告知でもあったっけ?…教室でも誰も何も言ってなかったし、ハゲガシラの連絡ミスかぁ?どれどれ、どうせ暇だし一目見ておくか。
人だかりの隙間から見えたのは、高級な黒塗りのセダンタイプの車。金持ちかもしれないが、人だかりができるほどの驚きではないな…なんて思ってると、車のそばには、地元では有名な私立高校の制服を着た金髪ショートのギャル(メガネ着用)がいた。どっかで見たような…そのギャルが誰かを探しているようにキョロキョロとしているが、俺と目があった途端パァッと輝いた笑顔を見せて、手を振りながら近づいてくる。
「あ!いたいた!待ってたのよ鋼太くん!」
…ぇえ?どの鋼太さん?まさか俺のこと?周りの奴ら、俺を見るな、注目するな。
「待ってる間暑かったのよ。さ、とりあえず車乗ろっ!何も問題なければお家まで直接向かっちゃおー!」
この状況がすでに問題なんですが…というか思い出したぞ、こいつこの前店に来てたギャルじゃんか。この前よりちょっと薄めの顔だったから気付くの遅れたわ。
「あの…この間ウチに来てくれた人っすよね?迎えにきてくれるぐらいの知り合いでした…っけ?もしかしたら俺が記憶を失ってるだけで、仲良かった時期があるとか…?あと、自転車で来てるから、自転車で帰りたいんだけど」
「え〜覚えてくれてたみたいでチョ〜嬉しい!…自転車通学は盲点だったなぁ…ウチでは珍しいから。じゃあ、また後でお店で会いましょ!じゃ、後で〜!」
竜巻みたいな勢いで去っていった。周囲が俺に説明を求めるような視線を向けているが…すまんが同じレベルで訳がわかないと思う。ひとまず、両手を顔近くに持っていき『やれやれ』と言う風に首を傾げてから、颯爽と自転車置き場に行きそのまま帰った。残されたメンバーが正気に戻る前に…。
「え…玉城くん……それに鋼太くんってどう言うこと…!?」
乙葉は震える手でケータイを操作し、先ほど登録した名前を『玉城くん』から『鋼太』へと変更するのであった。