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#5 コブン?カンブン?ちんぷんかんぷん

「…レ点があると?読み方が下から上に…っと。…………!?レ点の無い文に自分でレ点を…つける!?読み仮名ないのにどうやって…読み仮名あってもどうやって…」


土曜日にも関わらず、いつもなら絶対にやらない勉学に励んでいた。なぜなら定期テストが近いからである。

今まで積み重ねた負債を全て取り返すことはできないが、短期間で1点でももぎ取るために必死に取り組む。残り期間は2週間程度しかないが、夏休みを守るために全力で戦うしかない。


「お?鋼太よ、店番ご苦労さん。商品の勉強か?金物屋の息子として自覚が…って学校のテスト勉強かよ…仕事中に学校の勉強をするとは感心せんなぁ」


じっちゃんが店に来たが、俺の勤務態度に文句があるようだ。仕方ねぇだろ?夏休みに補習を食らったら店番どころか工房に行けるかもしれない機会が減ってしまう。断固として抵抗せねばなるまい。


「しゃーねーだろ?出来が良くねぇんだよ。補習くらったら店番できなくなるし、じっちゃんも困るだろ?」


「まぁそりゃそうじゃが…お客さんの対応はちゃんとやれてるのかねぇ」


「この時期は意外と客の入りも良くないし、客がいる間は流石に勉強しないって。」


「まぁおまえさんに任せるわい。今日はこれを渡そうと思ってきたんだが…テスト勉強が忙しいんじゃ、また今度かね」


そう言ってひらひらと振っているのは何やら古臭いボロボロの本。めちゃくちゃ歴史ありそうな本だけど…


「何その古臭いやつ。あんま綺麗に見えないし、もらっても嬉しく…」


「ほうほう!そうかぁいらんかぁ…玉城家に代々伝わる"鍛治の書【入門編】"なんだが…いらんと言うなら持って帰…」


「ちょいちょいちょい!仕事中に勉強なんてダメだよな、仕事中はそれに関わる本を読まないと。はい、頂戴。プリーズ。」


その反応を見て鍛鉄は嬉しいような、心配なような複雑な表情を浮かべた。


(ありゃ勉強が疎かになる未来が見えるなぁ)

「やるわけじゃないぞ、貸すだけだからな。大事にせぇよ、紙だからすぐ破けるし日光にも弱い。あと、持ち出しは禁止だ。店番をしてる時、時間がある時だけにせぇ、ほら」


「マジかよ…まぁそれでもいいや、さんきゅー、じっちゃん」


早速渡した本を食い入るように見る孫。鍛鉄はその光景を見ながら安堵し、深い笑みを浮かべていた。…がその笑顔の時間は長く続かなかった。

なぜならば、鋼太の表情が興奮したものから、徐々に困り顔になり、遂には書を閉じたからだ。


「おい、なぜ書を閉じるんだ。まだ全然読んでないだろうに」


「…なぁじっちゃん。何でこの本って教科書で見る"古文"とか"漢文"みたいな呪文が延々と書いてあるんだ?」


「そりゃそうじゃろ?この本は四代玉城家当主の玉城剛衛門たましろごうえもんが書いた直筆の書じゃ。昔の言葉で書いてあって当然だろうに」


「んなもん読めるかぁぁぁあああああ!」


先程の喜びから一転、しょんぼりする鋼太であった。


「なぁじっちゃん、翻訳してるものあったり…?」


「んなもんない。」


「書いてあることを説明してくれたり…?」


「自分で読み解いて、自分なりの解釈を見つけるのも修行の一環じゃな。それに全12巻もあるんじゃから、全部説明するような時間はないわい」


鍛鉄も全てを読めるわけではないが、求められたら可能な限り助け舟は出す予定である。最初から甘えが出ないようにするのと、なんだかんだ頼って欲しいというジジ心による指導方針だ。


そんなやり取りがあり、結局自分の力で読み進めていくこととなった鋼太。半年後には古文と漢文で赤点どころか平均点を余裕で超えることになるのはまだ先の話である。

ちなみに、直近の他の教科は赤点こそ回避したものの、ボロボロだったとさ。



▽▼ ▽▼ ▽▼ ▽▼ ▽▼ ▽▼ ▽▼ ▽▼ ▽▼ ▽▼



定期テストの返却まで完全に終わり、教室全体が夏休み前特有の浮ついた空気が満ちていた。


「えー、来週から夏休みではありますが、えー、風紀を乱すことなく、えー、親御さんと門限の設定など相談し、えー………」


担任のハゲガシラこと、田中邦夫たなかくにおのありがたい?言葉を適当に流しつつ、生徒同士はコソコソと夏休み中の計画を話し合っていた。


「夏休み何する?こう、パーッと遊びに行きたいよな」


「BBQ?花火?海!?夏っていいよな、身近にある場所でも遊び方次第では輝いて見える」


「な!ハードル下げてプールとか、家の庭でテント張るだけでもテンション上がるぜ」


「俺は部活が結構忙しいからなぁ…遠征とか合宿とか…それはそれで楽しいが、輝いてはいねぇな」


「ちょっとお出かけして、おしゃれなカフェでアフタヌーンティーとか、服買ったりしよ」


「USJも行きたいよね、泊まりで行こうよ」


「ホシュウ…ホシュ…」


なんて浮ついた?会話がそこかしこから聞こえる。ハゲガシラは耳が遠いんか?俺にはハッキリとみんなの会話が聞こえるんだが…分かってて無視?分かってるけどつらつらと注意事項言ってるんか?メンタル強すぎかよ。


「…玉城くん、玉城くんは夏休み…何かする予定があるんですか?」


隣からもそんな声が聞こえてきた。声をかけてきたのは山名乙葉やまなおとは。クラスで言うとあまり目立つ方ではないが、友達もそこそこ多くコミュ力は高い。黒髪ロングの大和撫子的な外見で、一部男子から熱狂的な人気のある女子生徒である。家庭科部所属且つ、ややドジっ子属性もあるというのも良いんだとか…。大人しめの子なのにこんな子でも夏休みは楽しみらしい、夏休みの魔力は恐ろしいね。

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